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スター・ウォーズは終わらない――新世代監督らがしのぎを削る新シリーズ『マンダロリアン』から目が離せない!

  • 本当は怖いAT-ST

枝葉を折る音、森の暗闇から迫る巨大な影。現れたのは鋼鉄の体躯とそれを支える2本脚――AT-STだ。惑星エンドアでイウォーク族の丸太攻撃に窮していた鳥脚の棺桶を思い出すが、仄かに光る赤い瞳はどこか様子が違う。

村に迫ると予感が的中。注意深く罠を察知し、レーザーキャノンで圧倒する姿はまるで別物。実はAT-STは恐ろしい存在だった……!?

ファンにお馴染みのクリーチャー、メカニックの新たな一面に胸が踊る『マンダロリアン』は、いま大注目の最新スター・ウォーズだ。

 

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スター・ウォーズといえばエピソードⅨ『スカイウォーカーの夜明け』をもって9部作が完結した……と思われがちだが、まだまだシリーズは終わりを迎えたわけではない。

早くも昨年12月26日より、動画サービス「ディズニーデラックス」限定のWEBドラマシリーズ『マンダロリアン』の配信が始まった。

舞台はエピソードⅥ『ジェダイの帰還』から5年後。T字のメットで顔を隠した主人公・マンダロリアンは腕利きの賞金稼ぎとして名を轟かせていたが、ベビーヨーダことザ・チャイルドと出会ったことをきっかけに自らも追われる立場になってしまう、という物語。

各惑星の住民たちとの交流や懐かしの面々の登場、そしてなんといってもベビーヨーダのキュートさが旅路に花を添え、武骨なマンダロリアンを愛すべき主人公に仕立て上げている。

 

本作のスタッフリストの中でひときわ目を惹くのが、大ヒットシリーズMCUの第1作目『アイアンマン』を手掛けたジョン・ファヴローが企画・原作・製作総指揮・脚本といった主要なポストを務めている点だ。

ヒットメーカーである彼の起用には、スター・ウォーズ新3部作(エピソードⅦ~Ⅸ)を手掛けてきた製作陣の葛藤が透けて見える。

というのも新3部作は、ルーカス・フィルム社長であるキャスリーン・ケネディが各エピソードごとに監督を立て、彼らの個性を尊重するという作り方で臨んだ。しかしその結果、主人公レイの出自や大ボスの存在などあらゆるものが次々と移り変わり、全体としてちぐはぐな印象が拭えないものとなってしまった。

そこで今回手綱を握るのは、自らがクリエイターであるジョン・ファヴロー

各話監督はアニメシリーズ『クローン・ウォーズ』総監督のデイヴ・フィローニや、アカデミー賞ノミネートでも話題の映画ジョジョ・ラビット』監督のタイカ・ワイティティなど、新世代の旗手ら5人が全8話を分担している。

西部劇さながらの銃撃戦や巨大モンスターとの肉弾戦、小ネタ満載の惑星タトゥイーン回などバラエティ豊かなエピソードばかり。とはいえ全体を統括するジョン・ファヴローの存在によりキャラクター形成に迷いがなく、回を増すごとに魅力は増すばかりだ。

 

  • 愛情と闘争の第4話

なかでもグッときたのが第4話「楽園」だ。

追われる身のマンダロリアンとベビーヨーダは身を隠すため、辺境の惑星ソーガンに降り立つ。マンダロリアンは村人らに腕を買われ、クラトゥイニアンからの防衛を依頼される。

調査の結果、敵がAT-STを持っていることに気づいたマンダロリアンは勝ち目がないことを村人らに諭す。それでも逃げない彼らに根負けし、戦闘訓練を施し襲撃に備えるが……。

冒頭の戦闘シーンはついに襲ってきたAT-STの描写である。ロボットアニメか怪獣映画かと言わんばかりの怖ろしい絵面に、さぞ名監督がメガホンをとったに違いないと思いエンドロールを確認すると、そこには監督:ブライス・ダラス・ハワードの名が。ジュラシック・ワールド』のヒロイン役として活躍する彼女が、監督として抜擢されたのだ。

見事なアクションシーンの演出は、彼女の出演歴から来るものか、はたまた『ラッシュ』、『ハン・ソロ』などを手掛けた名匠ロン・ハワードの娘としての血が成せる技だろうか。

意識しながら見返すと、マンダロリアンと背中を預けて共闘する女性兵士キャラ・デューンとの信頼関係や、未亡人オメラからマンダロリアンへのほのかな恋慕、ベビーヨーダと村の子供らとの友情など、繊細な心理描写はこれまでのシリーズではあまり見られなかったもの。こういった面に二児の母親でもある彼女ならではの演出力が発揮されているのでは、と思わされる。

実写シリーズでの女性監督の起用はデボラ・チョウ監督(3、7話監督)と併せて今作が初。これもまた新世代のスター・ウォーズならではの試みと言えるだろう。

 


スター・ウォーズ実写ドラマ「マンダロリアン」予告編

『マンダロリアン』は毎週金曜0時に順次配信中。2月14日には最終話を迎えるが、この秋には第2シリーズの配信も予定されている。この先の展開もまだまだ目が離せなさそうだ。

話数単位で選ぶ、2019年TVアニメ10選

見たアニメを懐かしみ、見ていないアニメを悔やむこの季節がやってきた。新米小僧さんの定例企画「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」である。

ひとまずリストアップのみ。後ほど各話詳細追記予定。
1/7各話感想追記完了。そして集計結果もアップされた。新米小僧さん10年間お疲れさまでした。

 

モブサイコ100Ⅱ 第5話「不和 ~選択~」

脚本:瀬古浩司 絵コンテ・演出・作画監督:伍柏諭

伝説の作画回『Fate/Apocrypha』22話を手掛けた伍柏諭再び! ド迫力の市街崩壊描写に伍氏の限界知らずの想像力を再認識。そして最後の朝桐みのりの泣き顔、笑顔が忘れられない。

現在、伍氏が徴兵により現場を離れてしまっているのはアニメ業界の損失としか言えない。早期の復帰が求められる。

 

ブギーポップは笑わない 第10話「夜明けのブギーポップ1」

脚本:鈴木智尋  絵コンテ・作画監督:久貝典史 演出:重原克也

私立探偵・黒田を主人公に立てた掌編。作画の美麗さはシリーズ随一で、何といってもピジョンの表情がいちいち堪らない。

短いながらも疾走感あふれるアクションも見事、と思ったら絵コンテ・作画監督の久貝氏は『ワンパンマン(2015)』で活躍していたアニメーター。流石。

 

ケムリクサ Episode.11

脚本・絵コンテ・演出:たつき 作画監督:伊佐佳久

暗く重苦しい美術がTHE・深夜アニメな『ケムリクサ』は『けものフレンズ』で一世を風靡したたつき監督の第2作。期待と不安を抱きながらも謎が謎を呼ぶ設定に惹きつけられて見続けた先の11話は全てを解き明かす解答編。その壮大な設定に改めて度肝を抜かれた。こういうひっくり返しには弱い!(『慎重勇者』11話も良かった。)
続く12話の大団円にも泣いた。

 

荒野のコトブキ飛行隊 第12話「夕陽のコトブキ飛行隊」

脚本:横手美智子 絵コンテ:水島努 作画演出:石黒達也 CG演出:江川久志/鹿住朗生 総作画監督:中村統子 作画監督西尾公伯/王國年

異世界空戦版ガルパンこと『コトブキ飛行隊』最終話。劇場版ガルパンを思い起こさせる全編通した連続バトルに熱くならないわけがない。特に終盤で描かれた無声のドッグファイトは思わず息をするのも忘れる熱戦!
エースコンバット』シリーズが好きなにわか戦闘機乗りとしては最高の最終回に大満足。ソシャゲ版にもちょっとハマった。

 

さらざんまい 第一皿「つながりたいけど、偽りたい」

脚本:幾原邦彦/内海照子 絵コンテ:幾原邦彦/武内宣之/松嶌舞夢/柴田勝紀 演出:神保昌登 作画監督:石川佳代子/西畑あゆみ/高野やよい/小林由美

久々の幾原節にぶっ飛んでもはやOPで涙ぐんでしまった第1話。浅草、河童、ダンボール箱、と次々登場する意味深なキーワードに目が回り、心地よい。演出もキレキレで幾原邦彦大復活を確信。
放送後すぐに浅草へ聖地巡礼に駆けつけてしまった。

 

どろろ 第15話「地獄変の巻」

脚本:吉村清子 絵コンテ・演出:コバヤシオサム 総作画監督:岩瀧智 作画監督:加藤雅之/若月愛子/柳瀬譲二/冨永拓生
臨死!!江古田ちゃん』第11話も印象深かった小林治氏の担当回。作画監督こそ担当していないものの、独特の愛らしい表情付けやレイアウトはどこを切り取っても小林治じるし。
トータルクオリティの高い『どろろ』の中では異彩を放っているが、それゆえに印象的。

 

ゲゲゲの鬼太郎 第67話「SNS中毒VS縄文人

脚本:市川十億衛門 演出:なかの★陽 作画監督:清山滋崇
ゲゲゲの鬼太郎』6期は度々キレのある社会風刺を投げてくるがこれもそんな回。承認欲求に振り回される読者モデル・クリスと、何もせずにバズりまくる縄文人(妖怪でさえない!)。クリスはやがて暴走し縄文人に手をかけてしまい……。
都会を恐れる縄文人の叫び「カモイ!」が忘れられない。
 

鬼滅の刃 第19話「ヒノカミ」

脚本:ufotable 絵コンテ・演出:白井俊行 作画監督:鬼澤佳代/遠藤花織/永森雅人

世間の評判とは裏腹にもう一つのめり込めなかった『鬼滅の刃』だが、この回でヤラれて全面降伏。
椎名豪氏作曲の挿入歌をバックに描かれる炭治郎と累の決着シーンは涙なしに見れない2019年を代表するハイライト。

 

バビロン 第2話「標的」

脚本:坂本美南香 絵コンテ・演出:富井ななせ 総作画監督:後藤圭佑 作画監督:久保光寿

曲世愛への尋問シーンが印象的な第2話。尋問のはずが正崎善に食らいついて離さない曲世の怪物的面妖さが独特の演出で描かれる。まだ実績は少ないようだが絵コンテ・演出の富井ななせ氏は今後も注目していきたい。
2話含め演出が上手いので見れてしまう『バビロン』。作画・美術があともう少し良ければ、と思ってしまうのは原作既読ゆえか。
 

Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア- Episode 8「魔獣母神」

脚本:小太刀右京 絵コンテ:赤井俊文 演出:原田孝宏 総作画監督高瀬智章/河野恵美 作画監督:小松原聖、川上大志 アクション作画監督:大島塔也

FGO』がアニメ化と聞いて最初に期待を抱いたのは『Fate/Apocrypha』や『FGO』CMで見せてくれたようなド迫力アクション。しかし2クールアニメにそれを望むのは酷か、、と思いきや毎話とんでもないアクションアニメーションを披露するTVアニメ版『FGO』。
特に8話Aパートの牛若丸と巨大怪獣が如きゴルゴーンとの戦闘には開いた口が塞がらず。

 
モブサイコ100 Ⅱ』に始まり『FGO』で終わる2019年のアニメーションはなんと豊かか! 1月から始まる2クール目も見逃せない。

富野由悠季の目にも涙――『GのレコンギスタⅠ』「飛べ! コア・ファイター」女の力Dayレポ

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Gのレコンギスタ』には「女の力でー!」というマニィ・アンバサダのセリフがある。というわけで(?)開催されたのが「女の力Day」という名の舞台挨拶第2弾だ。登壇したのはアイーダ役・嶋村侑、ノレド役・寿美菜子、マニィ役・高垣彩陽、そして富野由悠季総監督。

12月8日の1回目(上映後挨拶の回)に参加したので、聞き取りメモからイベントの内容を書き起こしてみる。録ってないので多少違うところがあっても勘弁を。

 

元気のG

嶋村:日曜日なのに仕事みたいな時間にありがとうございます。

寿 :おはようございます!(客席:「おはようございます…」)
もう一度!おはようございます!(客席:「おはようございます!)
元気のGですからね!よろしくお願いします。

高垣:元気のGで良い一日を送れるのではないでしょうか。「女の力Day」とはいいますが性別問わず、エネルギッシュにいきましょう!

(監督うちわに迎えられながら監督登場)
富野:満席近くになると思ってなかったので、来てくださってありがとうございます。この歳になるまで褒められたことないので嬉しいです。

 

ありのままの芝居

――上映を迎えていかがでしょうか?

寿 :ここまで歩んでこられて、こうして劇場でまた会うことができてありがたい気持ちです。

高垣:収録してから2、3年経ってるので、改めてこの日を迎えることができて良かったなと思います。
あとダジャレが好きなので。印象的なマニィのセリフがイベント名に使われて嬉しいです。誰が作ったんでしょうか。

富野:(席一列目の関係者を指して)彼ははじめて褒められました笑

――演技のこだわりや難しかったところは?

富野:あるわけがないですよ。それなりに性格を調べたうえで役をあてたんだから。そのままでやってもらえればいいんです。

高垣:オーディションはマニィ役で受けたわけではなかったんです。
その時富野さんからは「あなたのままで、芝居しないで」と言われて、思うままにやってみたら「少しは芝居してくれよ」と言われてしまって笑 芝居とは何かと悩みました。
アニメはたくさんのフィルターを通したものになるけど、役を自分に落とし込もうと、もっと勉強しよう、と思わされる帰り道でした。

富野:そんなこと言ったっけ。覚えてない。覚えてると好きになっちゃうから笑

寿 :ノレドはピンク髪の女の子なので、オーディション時は高めのキーでやってくる人が多いと聞いてましたが、やっぱりひっぱられてしまいました。アフレコ時はいかに役に飛び込んでいけるか!という現場でした。

嶋村:富野作品の女性はみんな人間らしくて、生理がつながっていると感じます。アイーダも素敵な女性でした。

富野:劇場版ではマニィとノレドをないがしろにしちゃってすみません。

寿 :劇場版で「アイーダさんはこんなにつらかったんだ」とわかりました。テレビ版ではノレドとして、ベルリ側に寄り添ってたので。

嶋村:一気に90分の映像として描かれているので、テレビ版とはまた違う感覚でしたね。収録は2日に分けて行いました。

――テレビ版と映画版で気持ちの変化はありましたか。

高垣:Gレコは「考えるな、感じろ」だと思っていて。
富野さんからは「台本に全て書いてあるから。余計なことは考えないでいい」と言われました。だから全力で乗っていけば、マニィとして感じたことを表現していけば正解なんだと思って演じていました。
テレビ版を経て、マニィとルインは立場が変化していくのを分かっているので、第一部のまだ仲睦まじい二人には懐かしく思いながら演じました。

 

トイレトーク

――ここで台本にはない質問なのですが……『Gレコ』ではトイレシーンで印象的な乙姫ソング(ハイフン・スタッカート)が流れます。みなさんならどんな曲を流したいですか?

富野:この話は重要だよ。男性諸君はこんな話聞いたことないでしょ。
僕は本が読みたいからトイレには長くいたい。だからロックは勘弁してほしい笑

高垣:クラシックでしょうか。戦闘前なら気持ちを高揚させるために『Gレコ』みたいなのもいいかも。

嶋村:プレイリストが作れるといいよね! 戦闘前ならリラックスできるのとか、シーンごとに切り替えたい。

富野:『Gレコ』のイベントだからいいけど笑 他ではしないでよね。

嶋村:トイレシーンは「ベルリ!」って言いたくなりますよね。女子3人に囲まれてコックピットでするなんて笑

高垣:トイレ事情っていう長年の謎を監督自ら解き明かしたわけですよね。キャラクターが生きてると思わされます。

嶋村:トイレじゃないけど(6話の)はみがきシーンも良かった。ああいうちょっとしたところに生活感を感じます。

(ここでハンカチで涙をぬぐう富野監督)
富野:もう…笑い過ぎて……。

 

葛藤、悲しみ、希望の第2部へ

――第2部のポイントを最後にお願いします。

寿 :いろいろなカット、シーンが追加されるので、より『Gレコ』への解釈を深めていけると思います。

高垣:第2部は最近収録しました。葛藤、悲しみ、希望がより深く描かれています。あとはドリカムの主題歌が楽しみですよね。

嶋村:改めて劇場で見て、『Gレコ』が映画館向きの作品だったんだなと思わされました。監督が精査して見やすくしたのはあるけど、もともと集中して見てもらいたい作品だったんだとわかりました。

富野:これ以上言うことはありません。何とか第5部まで作り続けたいので応援よろしくお願いします。

 


レポートは以上。特に高垣彩陽さんの語る富野監督の芝居論とそれに対する苦悩が印象的だった。あと監督うちわを持ってくる人が増えてきた。「富野由悠季の世界」展まで行かないと買えないのに!(下記神戸展レポ参照)

映画の方は今回で3度目の観賞。3話~4話冒頭パートまでのアイーダの服がテレビ版のインナースーツから劇場版では囚人服に変わっていると聞いてそこばっかり注視していた。
テレビ版では4話冒頭のコックピットからの降下シーンがインナースーツが相まって扇情的な魅力をもって描かれていたのに対し、劇場版では囚人服なので魅力ダウン。代わりに5話ラストの謝罪シーンがインナースーツでえっちな印象に。服の変更だけでシーンの印象が変わる富野マジックである。 

劇場版『Gレコ』は見るたびに面白く思えてくる気がする。また何度でも見返したい。

 

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元気のGは幾千年の未来から 『GのレコンギスタⅠ』「行け! コア・ファイター」

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11月29日より富野由悠季総監督による映画『GのレコンギスタⅠ』「行け! コア・ファイター」が公開された。

9月の先行上映以来2度目の観賞となったので、今回は改めてGのレコンギスタ(以下G-レコ)』という作品の魅力について考えながら見てみることにした。

 

作品のあらすじやTV版との細かい相違点については、先行上映時の感想ブログを参照してほしい。

yuki222.hateblo.jp

 

数千年先の未来世界という魅力

『G-レコ』の1番の魅力は何だろうか。公開日以来ずっと考えてみた結論は、"リギルド・センチュリー"という『G-レコ』の作品世界そのものだ。

 

『G-レコ』はいわゆるロボットアニメ、SFアニメというジャンルに属する。そこではこれまで『機動戦士ガンダム』、『AKIRA』、『攻殻機動隊』といったヒット作が生まれてきたが、けれどそれらで描かれたビジョンから長い間アップデートされないまま今日に至ってしまったように思える。

 

そこにくると『G-レコ』は、上記作品より遥か遠い未来が舞台である。

機動戦士ガンダム』では西暦後に到来したとされる宇宙世紀0079年が舞台だった。その宇宙世紀の終焉後に訪れたのがリギルド・センチュリーとされている。『G-レコ』の時代設定はリギルド・センチュリー1014年。西暦も宇宙世紀もそれぞれいつ終わったのかボカされているが、とにかく2019年よりも千年以上先の未来には違いない(映画パンフレットには宇宙世紀リギルド・センチュリーの間に4000年の空白があり、その間人類が絶滅しかけたことがあるとも書かれている)。
これだけはるか未来まで文明が継続した先の社会を描いた映像作品というのはなかなかお目にかかれない(余談だが近年のSF小説では『天冥の標』が、これから先800年の人類史を描いており大変読み応えがあった)。

 

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幾千年先の未来。衣装も建築も技術も宗教も、現代とはかけ離れた世界。そこで巻き起こるボーイミーツガールからはじまる金星往還譚が『G-レコ』だ。こんな途方もないビジョンに胸躍らないわけがない。

 

本来の魅力が十分に発揮される劇場版

しかし2014年に放映されたTV版『ガンダム Gのレコンギスタ』では、遠未来設定ゆえに生まれたであろう各キャラクターの言動の突飛さばかりが前に出過ぎてしまい、本来は視聴者のフックになるべきキャラクター形成やストーリーテリングがおざなりになっていたように思える。

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モビルスーツの戦闘シーンこそ冴え渡っていたので最後まで楽しく見れたが、そこがフックになる視聴者ばかりではないのだろう。番組終了後に聞こえてきたのは「わかりにくい」という声一色だった。

 

では劇場版『GのレコンギスタⅠ』「行け! コア・ファイター」はどうだろう。

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冒頭からして主人公ベルリのデレンセン大尉への生意気な口答えがなく丸くなり、ヒロイン・アイーダ姫のぴっちりしたインナースーツに目を輝かせる様子には彼も年相応の男の子だったんだと安心させられる。

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アイーダ姫だって悲しみに暮れてる時に感謝のダンスは踊ったりはしない。悔しいときにはちゃんと怒ってちゃんと泣く。

もちろんこれら以外にも作品理解を助けるための修正・追加カット、セリフ変更が随所に見られる。その結果、特にベルリ、アイーダの2人は感情の発露が素直になり、共感を生むキャラクターへと変化を遂げた。

 

キャラクターへの理解を邪魔するノイズが減ると、ようやく立ってくるのがリギルド・センチュリーという世界観だ。

軌道エレベータ・キャピタルタワーとは?
宇宙の果てから送られてくるエネルギー源・フォトンバッテリーとは?
世界を支配する宗教・スコード教とは?
禁忌の技術・ヘルメスの薔薇の設計図とは?

この映画版では本来富野総監督が見てほしかったであろう、数千年先の世界の満ちる謎に視点が向くようになっている。


劇場版の評判でやたらと耳にする「わかりやすい」とは、つまりキャラクターへの理解度が増したことで、魅力的な作品世界の構造にようやく気付けたということではないだろうか。

 

タイトルから「ガンダム」を消すという覚悟

未来を描くSF作品は、転じて現代の社会をどう生きるか、未来に何を目指すのかを考える道しるべとなる。

鉄腕アトム』や『機動戦士ガンダム』は今もロボット研究の目標だ。『G-レコ』も宇宙開発やエネルギー政策、宗教戦争といった現代の社会問題を考える一助となるかもしれない。

もちろんそんな難しいことを考えなくても大丈夫。78歳のおじいちゃん監督による無限の想像力を見せつけられたら誰だって負けてられない!と奮起するきっかけになるはずだ。


また今回の劇場版は、元々タイトルに冠していたガンダム」の文字が消え『ガンダム Gのレコギスタ』から『Gのレコギスタ』へと変更された。

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TVシリーズBDパッケージ記載の英語タイトル(ガンダム有り)

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映画版のパンフレット記載の英語タイトル(ガンダム無し)

Gのレコンギスタ』のGには「ガンダム」の意味が込められているので、ガンダムシリーズから外れたということを意味するものではない。

これまでガンダムを見ていなかった人、現代を生きる世界中の人にあまねく見てほしい、見れるものにしたぞ、という富野総監督の覚悟の現れと受け止めるべきだろう。

 

劇場版『GのレコンギスタⅠ』「行け! コア・ファイター」は11月29日から2週間限定で上映中(1月10日からはセカンドランとして新たに14館で追加上映されることも決定した)。レンタル配信・セル配信も上映と同時にスタートしている。

 
この機会にTV版未見の人も、途中でやめてしまった人も、改めて『G-レコ』という世界に触れてみてほしい。

見終えたらきっと、明日を生きるための新しいエネルギーが胸の中に燃え上がっているはずだ。それこそがきっと、この作品の謳う「元気のG」に違いない。

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【劇場版Gレコ公開前日!】トミノグッズ大増量!『富野由悠季の世界』神戸会場レポート

ついに明日11月29日は劇場版『GのレコンギスタⅠ』「行け!コア・ファイター」公開日。これまで勝手に応援企画として『Gのレコンギスタ』及び富野由悠季総監督についての記事を書いてきた。

yuki222.hateblo.jp

yuki222.hateblo.jp

yuki222.hateblo.jp

 

公開前日となる今日は先行上映会で繰り広げられたトークの模様でも、と思ったらモタモタしているうちに公式レポートがアップされていた。気になる人は以下リンクからぜひ一読を。

pff.jp

 

というわけで今回は展示会『富野由悠季の世界』神戸会場の話を。

すでに福岡会場には2回訪問していたのでもう行くまい、と思っていたら京都に行く用事が出来たのをきっかけに神戸まで足を伸ばしてみた。

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展示内容はおおむね福岡会場と同様なので基本的な部分は上記リンクからレポートを見てもらうとして、追加展示品について。気になったのは以下3点(1つ目は確実に今回から追加されたもの。2つ目以降は単に福岡会場で見落としていただけかも?とも思ったが興味深い展示なので紹介)。

 

1つは『リーンの翼』コーナーに、元型になった作品として没企画卑弥呼大和』なる作品のイメージボードが展示されていた。1999年に角川春樹福井晴敏と企画を進めていたとのこと。日本列島上空を戦艦大和が飛ぶ様子は確かに『リーンの翼』に重なる。

同じくリーンの翼』コーナーには1990年に作成された絵コンテも展示。こちらは小説版(OVAリーンの翼』の前日譚)のアニメ化を見据えてのもののようだ。

最後に劇場版『機動戦士ΖガンダムII‐恋人たち-』の富野監督直筆による修正原画。映画冒頭のアムロ、クワトロ、カミーユが次々登場するシーンの修正原画が(といってもラフ原画だが)、映像として1枚1枚切り替えながら数十枚に渡って公開されていた。富野監督のコメント「アムロです」「描けません」「なんか変ですね」「オール直して下さいませ」というコメントがかわいい。実際似てないのはご愛嬌。

 

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展示室をあとにするとフォトスポットが。これも福岡会場になかった試み。富野台詞を持って君も富野キャラになりきれ!

 

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なお今回は作品リストが配布されていた。こういう美術館的配慮はうれしい。裏面まで渡ってびっしりだ。

 

そしてなんといっても追加グッズ!福岡会場から大幅グレードアップしており今回の主目的といっても過言ではない。

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今回購入したのは公式パンフレット、チケットフォルダー、富野由悠季テレビの世界(主題歌CD集)、アナ姫様キーホルダー、Gレコマグネット、∀ガンダムクリアファイル∀ガンダム版<おヒゲポーチ(他にランバ・ラル版、ギャリソン時田版もラインナップ)、∀ガンダム耐水性メモパッド。∀グッズがやたらと充実しているのが嬉しい。

 

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そして外せないのが富野監督グッズ。富野監督キーホルダー2種に、富野監督ボールペン、富野缶Talk 辛口(あられ)/甘口(クッキー)、そして富野監督応援うちわ!

 

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うちわのヤバさを知ってもらうためにツーショット写真をキメてみた。どこで使えというのか……?

 

というわけで展示もグッズも大充実の神戸会場をレポートしてみた。会期は12月22日まで。

そして明日11月29日から劇場版『GのレコンギスタⅠ』「行け!コア・ファイター」が上映開始。君の目で確かめろ!

 

www.youtube.com

   

【劇場版Gレコ応援企画】富野監督が多すぎる!特集雑誌全部買ってみた

いよいよ来週11月29日に公開が控えている劇場版『GのレコンギスタI 』「行け!コア・ファイター」。最近は徐々に宣伝が増えてきているな…と思っていたらこの2週間で一挙5誌(新聞含む)に富野由悠季総監督のインタビュー記事が掲載される異例の事態に。

どれを買えばいいかわからないのでとりあえず全部買ってみた。

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アニメージュ12月号(11/9発売)

CUT12月号(11/9発売)

週刊プレイボーイno.48(11/18発売)

週刊ヤングジャンプNo.51(11/21発売)

夕刊フジ(11/21発売)

※月刊Newtypeにも期待していたのに菱沼義仁さんの版権絵のみでインタビュー無し!残念。買ったけど。

 

なかでも週刊ヤングジャンプは、ヤンジャンと同じく40周年を迎えるガンダムを特集、という体裁で全誌あげてのガンダム推し。

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ポスターは大河原邦男さん、原泰久先生のオリジナルガンダムに、ガンダム美女図鑑まで掲載というお祭り状態。グラビアまでガンダムコスプレ! なんと『∀ガンダム』キャラデザ・安田朗氏が衣装デザイン協力をしているせいか異常にフェティッシュ

富野総監督へのインタビューは藤津亮太氏を聞き手に据えた今を生きる若者に向けた人生指南。YouTuberと全共闘の関連、『天気の子』への言及も飛び出しかなり読み応えあり。

 

ただヤンジャンは劇場版『Gレコ』への掘り下げは薄いので、そちらはCUTとアニメージュがオススメ。

CUTのインタビュー記事では作品全体のテーマ性を掘り下げている大ボリュームのインタビュー記事。

アニメ―ジュは個々の描写にまで言及。なんと聞き手は『神様ドォルズやまむらはじめ先生! 小川Pへのミニインタビューでは「5部作各100カット以上追加」「とりわけ4部は800カット(通常のTVアニメ3話分相当)にもなる」という新情報も。

夕刊フジは『富野由悠季の世界』展を中心に、プレイボーイは劇場版『Gレコ』を中心に聞いておりやはり新海誠監督への言及もあるが上記3誌に比べると薄い内容。

 

というわけで富野由悠季の説法とお祭り企画が好きなら週刊ヤングジャンプを、劇場版『Gレコ』について深く知りたいならCUTとアニメージュを読むべし。

劇場版『Gレコ』は11月29日より2週間限定上映スタート。残すところあと1週間だ。

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ゲームはもう時間潰しじゃない――『DEATH STRANDING』クリアレビュー

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PS4用ゲーム『DEATH STRANDING(デス・ストランディング』の発売前、こんなエントリが話題になっていた。

anond.hatelabo.jp

ゲームは時間を潰すもの。そう思う人がいるのはわかるけれど、自分にとってゲームはコミュニケーション手段であったり、ストレス解消だったり、何かしら目的意識をもって取り組んできたつもりだ。『DEATH STRANDING』にも感動的なストーリーへの期待を抱いていた。

 

クリアした今思うのは、感動ストーリー体験以上のものがあったということ。コントローラを置いたとき、世界の見え方が変わったようにさえ思えたのだ。

 

 

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『DEATH STRANDING』は、荒廃した未来の北米大陸を舞台にしたアクションアドベンチャーゲーム。プレイヤーは伝説の運び屋と呼ばれるサム・ポーター・ブリッジズ。

都市から都市へと荷物を運び、断絶した都市間のネットワークを回復させ、目指すは遠く離れた西海岸。捕らわれの身である次期アメリカ大統領・アメリを救い出す、というのがゲームの最終目的だ。

 

このゲームの最大の特徴は、「道」がないこと。

どんなゲームであれ、文化の営みがあれば交通の要である道はあるのが当たり前。けれどこのゲームの舞台である荒廃した大地では街は地下シェルターに形成されみんな引きこもり。外の世界を歩くのは自分だけだから道すらない。道がないと小岩も小川も坂道もすべてが荷物運びの敵。ちょっとでもけつまづくと荷物はこわれ、川の深みにはまると荷物は流される。

必死に歩きやすいルートを模索し、置きやすい足場を観察して、歩を進めていかなくてはいけない。

 

けれどプレイを進めていくと、ネットワークでつながった世界中のプレイヤーとの協力要素が出てくる。お互いの姿は見えないけれど、他人の通ったルートが見えるようになり、残していったハシゴやロープを融通し合うことができる。素材集めを協力しながら橋や国道を建築することさえできるようになる。

プレイにかかった時間は44時間ほど。およそ半分は孤独にさいなまれていた時間だけれど、長く苦しんだ分、他のプレイヤーに助けられたときのありがたみは忘れられないものになった。

 

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そして最も面白いのは、コントローラを置いたあとのこと。外の世界に一歩足を踏み出すと、なんと道が平らじゃないか! 右足と左足の置き場を考え、バランスをとらなくて済む! 道路って、実はすごい。

当たり前に目の前に存在していると思っていた世界は、当たり前ではなかった。道路が、ひいては建物も、街も、社会も、配送網も、たくさんの人の汗と時間とで出来ているということに改めて気付かされた。視野が広がり、これまで見えていなかった世界が見えるようになった気さえする。

 

思い返すとゲームにはじめて触れたころは『ポケットモンスター』にしろ『ファイナルファンタジー(WSC)』も『ドラゴンクエストⅠ・Ⅱ(GB)』も、『R4』も『真・三國無双2』も『SSX3』だって、どんなゲームも想像力を鍛え視野を広げてくれる娯楽作以上の存在だった。

けれどいつしか感動することは減り、ましてや気づきを得ることなんてとんと無くなっていた。たくさんのゲームに触れていくうちに、不感症になっていた。多くのゲームを、実は自分こそが時間潰しにしていたのかもしれない。

 

 

はしごとロープで道をゆく『DEATH STRANDING』はまさに現代の『ドンキーコング』。ゲームの原体験を思い起こし、視野を広げてくれる存在だ。

ゲームはやはり、時間潰しじゃない。 

 

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写真を撮ってくださった小島秀夫監督とキャラクターデザイナー新川洋司さん。神&神。