失なわれたものと残った輝き 映画『君たちはどう生きるか』レビュー
見終わった印象は「宮﨑駿も楽しい夢を見せられなくなったのか」という残念さと諦念と、けれどどこか清々しさをも入り混じるものだった。
7月14日に公開された宮﨑駿監督・スタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』は、事前PRなしという異例のPR戦略のもと公開された。どんな内容なのかと期待に胸を膨らまさせられたのでまんまと戦略にのってしまったわけだが、蓋を開けてみればオーソドックスな行きて帰りし物語だ。
舞台は第二次世界大戦の緊張感が走る昭和10年代の日本。火災で母を亡くした主人公の少年・眞人(マヒト)は、父の再婚相手である夏子の生家で暮らし始める。眞人はその家で出会ったしゃべるアオサギにいざなわれ、家の庭にある不思議な洋館、そして地下に広がる謎の世界へ向かうが…というのが序盤のあらすじ。
宮﨑駿のフィルモグラフィーを振り返ると、初期の『未来少年コナン』『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』は空想科学世界を描き、『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『紅の豚』では現実世界に空想が溶け込んだ世界を創造し続け、それらの集大成である『もののけ姫』が大ヒット。そして後期の『千と千尋の神隠し』『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』は現実世界から空想世界へ越境する物語へと変容を遂げた(後期作品の中では『ハウルの動く城』のみ断絶を感じるが、細田守監督予定作を救済した企画ゆえか)。
これを踏まえると今作『君たちはどう生きるか』も完全に後期作品の流れに乗った越境ものである。そして『千と千尋の神隠し』『崖の上のポニョ』ではあいまいな描き方にとどめいたが、今作ではあちら側を明確に死後の世界として描いている。場面によっては地獄とも極楽とも呼ばれており、生命の誕生を示唆するシーンもあったので生死全てを内包する世界なのだろう。
かつてのサービス精神旺盛な宮﨑駿なら、それでも賑やかで愉快なテーマパークのような世界を描いていたかもしれないが、今回のあの世はアルノルト・ベックリンの「死の島」で幕を開け、江戸川乱歩の「幽霊塔」で終わる。住んでるのはペリカンとインコばかり。レイアウトや演出も精細を描いており、かつて見た場面を想起させるものは多くとも新鮮は感じられなかった。狂気のような鳥の群像にこそ驚いたが、過去作に比べれば作画カロリーも抑え気味だ。
楽しい気持ちを持って帰ってもらおうという気はサラサラない、というかもはやそういったイマジネーションは枯渇し、深層心理に沈殿するかつて触れてきた文学と絵本と芸術の断片を必死に繋ぎ合わせた世界があれなのだろう。かつての輝きは既になく、人は老いるのだという現実を突きつけられるようだった。
ただそれが悪いことばかりでなく、宮﨑駿に残ったものが一層輝いて見えた。最も印象深いのが魅力的なキャラクターたちだ。主人公・眞人の利発さにはやられたし、サギやインコといったキャラクターのユニークさ、力強い父やお婆ちゃんたち、そして可憐なヒロイン。今回作画監督に抜擢された本田雄の助けが大きかったのは間違いないが、やはりここは宮﨑駿ならではとしか言いようがない。
そして現実世界の鋭い描写力だ。あの世が恐ろしかったのに対し、戦火が迫る昭和日本の当時ならではの活気と厳かさを、独特の光景と丹念な所作で描いていた。『風立ちぬ』でもこの点が非常に優れていると感じたが、今作でもその冴えはまだまだ衰えていない。
人は老いるが、築いてきた輝きは僅かでも残る。これが今作の物語上からも、宮﨑駿の筆致からも表現されているのだからなんと美しい映画ではないか。
『君たちはどう生きるか』――随分と説教臭いタイトルを付けたなとは思ったが、見終わって振り返るとこれは説教ではなかった。「老いるのも悪いばかりではない」「これを見た君たちはどう生きるか」という、長年アニメを作り続け栄光を掴んだ老人からの問いかけなのである。
現実という地獄をどう生きて、死ぬか。酷な問いだが、各々受け止めて、考え続けるしかない。
SONYの4K有機ELテレビ BRAVIA XRJ-65A80Kを買ってはいけない(とことん追い込んで性能を引き出す気がなければ)
前回のエントリにも書いた通り先日SONYの4K有機ELモデルBRAVIA XRJ-65A80Kを購入し、それから1ヶ月かけて満足いく状態まで持ってこれたのだが、この1ヶ月のことを考えるとおいそれとオススメはできないなと感じている。
もちろん性能は非常に高いのだが、それを引き出すには金と時間がどうしてもかかるし、予期せぬ事態も待ってるかもしれない。それでも購入を検討している、BRAVIAが気になるという人に向けてメリットデメリットを書いてみる。
メリット
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とにかく映像がデカくてきれい
もうこの一言に尽きる。デカくてきれいな画面は正義。長年30インチの液晶テレビと向き合ってきた身からするともう別次元で、テレビというかもう向こうに別世界が広がってるんじゃないかと錯覚することさえある。
ただ注意は必要で、地上波デジタル放送だとどうしても映像がぼやっとしてしまう。これは地上波の画素数が1440×1080しかなく、3840×2160の4Kテレビはそれをアップコンバートして表示してるから。とはいえBRAVIAのアップコンバート性能は他社に比べて優秀らしいし、画面から離れればそこまで気にならない。
本領を発揮するのはやはり4K配信映像や4K UHD再生時。『シン・エヴァンゲリオン』も『シン・ウルトラマン』も最高の画質で楽しめるのでその点は文句なしだ。
デメリット
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初期設定がめちゃくちゃ
はじめて映像を映した時に感じたのが「色味キツくない?」「動き変じゃない?」ってことで、正直けっこうがっかりした。設定項目を触りまくってようやく理解したのが、初期設定の画質モード「スタンダード」は全然スタンダードじゃないということだ。「ダイナミック」は問題外。誰に向けてこんな設定を用意したのだろうか。
1ヶ月付き合ってみて納得いったのが以下の設定だ。
画質モード:シネマ
色温度:エキスパート1
モーションフロー:OFF
シネマドライブ:OFF
他の項目は個人の好みにもよると思うが、この4点はマストで変えるべき。画質モードと色温度で適正な色味になり、モーションフローとシネマドライブを切ることで余計な映像補完がなくなる。映像に違和感がある方はぜひ試してみてもらいたい。
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音がしょぼい
買う前からわかっていたことではあるが、テレビ本体の音がしょぼい。改善できるだろうとサウンドバーHT-A5000を購入したがまだ音がこもり気味。サブウーファーSA-SW3を付けたらようやくマシになって、リアスピーカーSA-RS5で完璧になった。元々追加機器を買うつもりではあったが、とはいえいきなりかなりの出費に……。
サウンドバー1本買えば済むなどとは思ってはいけないと肝に銘じることにした。
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初期不良の可能性あり
設定も音も時間となんとかなるが、初期不良が一番痛かった。起こり得るというのはわかっていてもどこか他人事に考えていたのが、自分の身に振ってきてようやく実感した。本当にある。保証書は絶対に大事に保管すべき。
私の場合2つも初期不良に当たったので解決までにかなりの時間を要してしまったし、メーカーとのコミュニケーションストレスはかなりのものだった。これがあるからオススメできないと言っていい。
・初期不良①:センタースピーカー機能を使うとノイズが載る
BRAVIAはサウンドバーとBluetoothで接続するのだが、更に音声ケーブルを接続するとTV本体のスピーカーから声のみ出力できるという機能がある。これの不良でケーブル接続した途端に音声にノイズが載ってしまい、到底聞けるものではない音声になってしまった。同様の不具合は私以外でも発生しているようだ。
こちらについては修理サポートの方を呼び、基板交換をしてもらって解決した。
・初期不良②:画面に黒い影が出る
BRAVIAの映像に概ね満足していたのだが、『ヱヴァンゲリヲンQ』の4K UHD再生時、冒頭のブースター点火のシーンで画面に黒い影が出て非常に気になる。同じ色味をPCのペイント機能で出力してみたところ、グレー(RGB100:90:100)で再現することがわかった。
これについてもやはり修理サポートの方にモニタを交換してもらったのだが、完全には解決しなかったので(別の位置にやはり影が出る)、結局別の新品と交換してもらうことになった。
モニタ製造元のLGが悪いのかSONYが悪いのか自分の運が悪いだけなのかわからないが、残念ながらBRAVIA…というか有機ELテレビ全般を信用できなくなってしまった。
なお新品と交換しても問題がないわけではなく、真っ白の画面だと輝度の違いがはっきりと出てしまい、中心と外縁で色味が変わってしまう。地上波放送を見ているとそういった画面が出ることは稀なのだが、ゲームや映画だとちょいちょい出くわすのでその度に気になってしまう。いずれ慣れるとは思うのだが……。
「有機ELは黒が得意だが白が苦手」と聞いたことはあったので、目で見てようやく仕様として理解することが出来た(納得はしてないが……)。
昨今台頭してきたMini LEDはもしかしたらこの点が解決しているのかもしれないので、将来買い替え時には検討してみたい(黒が青みがかると聞いて今回はスルーしてしまったが)。
まとめ
というわけで長々と書いたが、BRAVIA XRJ-65A80Kは良いところと悪いところがある。概ね金と時間をかければ解決するが、仕様上どうしようもないところもある。高価だから買えば全部揃ってる最上のもの、というわけではないので、もし買う場合はその点を考慮して買うべきだ(これはSONY製品に限らずだろうが)。
自分の親が買うと言ったら全力で止めるか、初期設定につきっきりになるしかないが、親世代が安心して買えるTVは今もあるのだろうか。こんな心配させないで欲しいので、TVメーカー各社は初期設定を改めてほしい。あとサウンドバーとサブウーファーはセット売りすべき。TV単体で買うもんじゃない。
仮面ライダー愛の重さ故の歪さ『シン・仮面ライダー』
『シン・ゴジラ』を見てからというものの、庵野秀明監督による「シン・」シリーズには「過去の人気作を、誰もが受け入れられる現代エンタメとして最新映像でリブートする作品」を期待するようになっていたのだが、『シン・ウルトラマン』の時点で原作濃度が濃い作品になっていたし(それでも樋口真嗣監督らしいアクション描写の痛快さでバランスが取れていたが)、今回公開された『シン・仮面ライダー』はさらに原作愛が発揮され、それ故に歪な作品に見えてしまった。
前提として私の観賞条件を書いておくと、昭和ライダーは「BLACK」と「BLACK RX」を見た記憶が朧気にある程度(初代『仮面ライダー』は今回の観賞に向けて1、2話だけ視聴)。平成ライダーは半分程度は視聴済で、放映中の「ギーツ」は視聴中。好きなライダーは「クウガ」と「W」。『シン・仮面ライダー』は舞台挨拶ライブビューイング付き上映をバルト9のドルビーアトモス環境で観賞した。
『シン・仮面ライダー』は本郷猛が仮面ライダーに変身し、悪の組織ショッカーと戦うという初代『仮面ライダー』を踏襲したストーリー。彼を改造し変身能力を与えた緑川博士の娘、緑川ルリ子と共に悪の怪人(今作では「オーグ」と呼称される)たちとの死闘を繰り広げていく。
諸手を挙げて賞賛できない理由は、まず庵野監督の愛が重すぎる故か、原作らしさを強く押し出しているところ。急に無駄な場面転換したり、冗談みたいな怪人がわんさと出てくるし、わざとらしく誇張気味なカットや芝居を見せつけてくる。
原作がそうなのか、庵野フィルターを通した原作がそうなのかはわからないが、あくまで特撮映画、あくまでジャンル映画という体なので、『シン・ゴジラ』のように大衆娯楽作として万人に薦めることは難しい。もっと自然に、現代人に受け入れやすい演出、ストーリーに中和しようと思わなかったのだろうか。
また画質のばらつきや不自然なカメラワーク、かっこいいと言い切れない殺陣にチープさを感じるCG演出、マスク越しゆえに聞き取りづらい台詞、暗く見づらい環境での戦闘など、単純に映像作品として引っ掛かりを感じる部分が多い。
大衆的内容でなかろうとも映像の快感が閾値を突破していればそこを推すことはできたのだが、それも難しい。
ではダメダメなのかというと……、嫌いにもなり切れない。
まず主演3人の純粋で朴訥な芝居が彼らの良さを引き出していて、特にヒロイン浜辺美波と中盤から活躍する柄本佑が大変魅力的。池松壮亮演じる内向的な本郷猛にフォーカスして展開するストーリーはエヴァンゲリオン的でさえある。
庵野秀明作品らしい遠景ショットはいちいちキマっているのも好きなポイント(ここはシン・ウルトラマンよりずっと優れていると思う)。
庵野作品初参加の岩崎琢のサウンドは時に激しく、時に抒情的でばっちりハマっているし、ライダーやオーグ、バイクなどのディテールやギミックは特撮好きとして興奮しっぱなしだった。
ウルトラマン、仮面ライダーに偏愛を注ぎ、ゴジラはそこそこだったという庵野少年は今作に可能な限り偏愛を注ぎまくったのだろう。結果的に、客観的に描けた『シン・ゴジラ』は大衆性を帯び、『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』はノスタルジックな色の強いジャンル映画となった。そこはきっと狙い通りだったのだろうと思いつつ、見たかったものとの乖離が生まれてしまったのは残念だった。
この3作を通じて庵野監督は「やりたいこと」はもうやりきったのかもしれない。ただ同時に見えてきた「自分一人でできること/できないこと」「自身に求められているもの」も自覚したはずだ。庵野秀明監督の今後に「御期待」したい。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と『GのレコンギスタⅣ』が出るのでSONYの65インチ有機ELテレビBRAVIA「XRJ-65A80K」とサウンドバー「HT-A5000」を買ったら最高の一人暮らしが始まった件
今年2月に劇場版Gレコシリーズ最高傑作『GのレコンギスタⅣ』のBDが、3月には『GのレコンギスタⅤ』のBDと、待ちに待った『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の4K UHD BDが発売!
とはいえ15年前に買い揃えた視聴環境でこれらの最高映像を堪能するのに無理を感じるし、いつ独立するのかとドヤされる実家で買い換えるのは厳しい……。
ということで、この際だから部屋を借りて、
SONYの65インチ有機ELテレビBRAVIA「XRJ-65A80K」を買ってみた。
比較用にSwitchをテレビ直下に置いている(XRJ-65A80KはSwitch 70台分のサイズ)。
まずはテストとしてDisney+で4K配信されている『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』を視聴。
MARVELロゴの時点でバチバチにきらびやかですごい!これがHDRってやつか〜。
冒頭の映像がとにかく圧巻のストレンジ先生を65インチTVで見ると映画館そのまま、いや3Dメガネ無しなので映画館以上の豊かな色彩と精細さ!
なのだが、映像に比べて明らかに音が負けている。薄型テレビの限界か……。
ということでサウンドバー「HT-A5000」を追加購入。
これこれ!ストレンジ先生とアメリカ・チャベスの声は明瞭だし、SEとBGMは大迫力!完璧に映画館!
届いたばかりの『GのレコンギスタⅣ』も再生。
BDなので4Kテレビで再生するには本来解像度が足りないのだが、BRAVIAパワーで適切にアップコンバートしており問題なし(ちなみに色彩が濃いめに見えるのはiPhoneのカメラ越しだからなので、実際にはナチュラルな色彩で再生されていれ)。
何よりサウンドバーのサウンドフィールド機能による擬似サラウンドで、Gレコの弱点である音響効果がマシマシに! GレコⅣの戦闘シーンが映画館で見る以上にかっこよく見えたのは幻覚ではないだろう。
そして最後に『シン・エヴァンゲリオン』…は発売前なので『ヱヴァンゲリヲンQ』4K UHD BDを再生。
これはHDR祭り…! ただでさえすごいヱヴァQ冒頭が、見たことないレベルの輝度の高いフラッシュの連続でBDとは全く別物になっている。これを見た人はヱヴァQへの印象がガラッと変わるんじゃないだろうか。『シン・エヴァンゲリオン』4K UHD BDへの期待も否応なしに高まる。
いやぁここまでの環境が揃うと、映像オタクの夢が叶った気分……。いや本当にそうか?まだあるんじゃないか?
次はリアスピーカーだな…!(続くかもしれない)
トミノガンダムを過剰摂取すると刻が見えるーサンライズフェスティバル2023レポ
サンライズフェスティバル2023という、アニメ制作会社サンライズ(現バンダイナムコピクチャーズ)のアニメ上映企画の一環で開催された「『機動戦士Ζガンダム A New Translation』三部作一挙上映」と「ふざけているのか!?タブー破りの一挙上映!劇場版『∀ガンダム』&『Gのレコンギスタ』2つのGのユニバース!!」に参加してきた。
新訳Ζガンダム久々に見てる。あくまでTV版の総集編、たまに良い絵が挿入されるよ、ってスタンスなら全然見れるな。やはり第一部ラストは痺れる。 pic.twitter.com/YgMXjYEmLG
— 結城ゆうき (@yukkii22) 2023年1月28日
ガンダム7本連続上映終わった〜流石に疲れた! pic.twitter.com/DxsJC8H4av
— 結城ゆうき (@yukkii22) 2023年1月29日
休憩とトークイベントを挟みつつとはいえ、6時間と14時間の2日連続上映イベント。バンナムピクチャーズの企画担当者はバカだし、参加者みんな大バカである。
感想
- Ζガンダムは音響が良い!という新発見。円盤仕様を見返したらDolbyTrueHD(5.1ch)だったわけだけど、家の貧弱な音響環境だと気付かなかった(公開当時も映画館で見たはずだが気にしてなかった)。音響のおかげで古い作画も映画らしいリッチな映像に見えてくるから効果は絶大だ。今後も映画館で再上映の機会があれば見る価値おおいに有り。
- ドルビーデジタル5.1chとはいえ∀ガンダムの音響は驚くほどではないし、2.1chのGのレコンギスタはもっと貧弱だった。予算の関係か敢えてのこだわりかわからないが、Gレコはもっと音にこだわって欲しかった。
- 劇場では初観賞の∀ガンダム。肝である暖かな空気感がダイジェスト展開によって減じているのは気になるが、TVアニメのレベルを超える演出は映画のスクリーンに十分映える。菅野よう子のMVとして見れば全然有り。
- 高速展開のΖ、超高速展開の∀の後に見るGレコはものすごくゆっくりに見えた。修行のために背負った亀の甲羅を外すのはこんな気持ちなのか!テンポ早すぎてわからない言われてきたのはなんだったのか。これまでで1番高い解像度で作品を理解できた気がする。
印象的だったトーク内容
- (メカ作画監督・仲盛文さん)ΖガンダムⅠのアッシマーは三つ目が特徴的だが、富野監督からの指示は単にサブカメラが出てくるだけというもの。三つ目設定は作画サイドで起こしたもの。
- (仲盛文さん)ZガンダムⅠラストのアムロを包むガンダムMk.Ⅱの手は当初旧作画の予定だったが、入念な描き込みはやはり新たに設定を起こたもの。
- (プロデューサー・仲寿和さん)ガンダムUC作画監督の玄馬宣彦さんはモビルスーツの手を描く際に上記を参考にしている。
- (仲盛文さん)ZガンダムⅠラストバトルでMK.Ⅱが持つ武器が一瞬手から消失するが、これは修正が間に合わなかったカット。
- (仲盛文さん)ΖガンダムⅢグリプス内の三つ巴戦闘シーンは当初旧作画ママの予定だったが、「これをやらないと映画としての見せ場がない」と仲さんから富野監督に直訴。辞めさせられる覚悟だったが、富野監督も乗り気になって一晩でコンテ描き上げてきた。原画担当の重田敦司さんには根回し済みだったものの、根回ししてなかった仕上げ担当の方などにこってり叱られた。
- (仲盛文さん)ΖガンダムⅢのゼダンの門でちらっと映るヘイズルと、長物を持ってるマラサイは原画担当者がしれっと描いたもの。
- (仲盛文さん)ΖガンダムⅢ公開後に仲さんとしては修正したいカットがあったものの、サンライズの方針として円盤発売に伴う修正はNGとして断られそうになったところ、横から口を挟んできた富野監督の意向で結局40カット程度が旧作画から新作画に置き換わった。ミネバのバイオリンレッスンシーン、シロッコのジャミトフ殺害シーンなど。後の仕事が決まっていたキャラ作画監督の恩田尚之さんが結果的に割を喰う羽目に。
- (仲寿和さん)告知したきりだった劇場版Ζガンダム原画集は鋭意制作中。
- (稲田徹さん)∀ガンダムTV版当時、スタジオで台本を読み込んでいたところ、富野監督から「これからも長く続けるつもりならもっと視野を広く持て」と教えられ、それ以降スタジオ内の人と積極的にコミュニケーションを取るようになり、今も指針になっている。
- (稲田徹さん)ハリーは月に奥さんがいる。
- (稲田徹さん)キエルに告白されてキスで返したように見えるシーンは、「こいつうるせーなー」と唇で口を塞いだだけだった。どちらも富野さんから収録前に教えてもらった裏設定。
- (稲田徹さん)Gレコ収録時間に別の仕事が入っていたため1時間前にスタジオ入りして別録りした際、富野監督に「ハリーの役があったから今も別録り必要なくらい仕事させてもらってます」と話したところ「それはちがうよ。お前が16年間がんばってきたからだよ」と優しい言葉で返され、思わぬ答えに泣き崩れてしまった。
- (稲田徹さん)打ち上げでその話をしながら「急に優しくされて、富野さんもうすぐ死ぬんじゃないかと思った」と冗談めかして言ったところ、殴られると思ったら「最近よく言われるんだよねそれ……。優しくしない方がいいのかな?」と悩ませてしまった。
アクリルスタンドは自分を讃えるトロフィーとして購入。入場特典のポストカードも嬉しい。
一気に見ることで新しい発見があったし、いつも通りお茶目な富野監督エピソードを聞けたので結果的に満足度は高いイベントだった。が、本当に疲労困憊になったのでこんなイベントは二度とやらないでもらいたい笑
【2023年冬クール】今期アニメはこの3本
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『お兄ちゃんはおしまい!』
『Go!プリンセスプリキュア』や『無職転生』の圧倒的アクション作画が印象深いアニメーター藤井慎吾の初監督作。非常にフェティッシュでキワどいシーンが多いので決して万人向けの内容とは言えないが、細やかな日常芝居には惚れ惚れするばかり。
すべてのカットがキマっているのは昨年の『リコリスリコイル』同様、作画出身監督の成せる技か。渡辺明夫の手掛けるOP、鈴木典光によるED(ノンクレジットだが間違いない)は共に現代アニメーションの神髄が味わえる。作画アニメとしては今期ダントツトップの注目作(というか前期いっぺんに出し尽くしたからか、今期は注目の作品が非常に少ない……)。
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『大雪海のカイナ』
類を見ないSF世界の構築することで知られる漫画家・弐瓶勉が原作を手掛けるオリジナルSF作品(先行して漫画版も連載しているが、同発の企画)。今作でも雪海に佇む大樹の麓に暮らす王女と、大気層まで伸びた大樹のてっぺんで暮らす男の子の壮大なボーイミーツガールを描いており、奇抜ながら映像映えも意識した弐瓶ワールドの新境地が伺える。
現在までに放送された2話時点では世界観を提示したに過ぎないので、ここから物語がどう転がっていくかに期待が高まる。
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『TRIGUN STAMPEDE』
内藤泰弘の漫画『TRIGUN』のTVアニメ(1998)、映画(2010)に続く3度目の映像化はなんと3DCGアニメ。しかも原作通りと思いきや設定まわりに様々な変化が。ミリィが知らないひげ面のおっさんに置き換わっていることにショックを隠せないし、ストーリーにどう影響があるのだろうかと不安で仕方ない。
それはさて置き『宝石の国』『BEASTARS』を手掛けたアニメ制作会社オレンジの、TVアニメの域を超えた細やかなCG映像は称賛せざるを得ない。同じくCG作品の『カイナ』はメリハリが効いてるというか、今のところ“静”のシーン中心なので、“動”の『TRIGUN』を対比しながら見るのが今期の楽しみだ。
ゲームオブザイヤー2022
映画、ドラマ、アニメに夢中になってた今年は本当にゲームが手薄になってしまった。いざ話題作を買ってもなかなかクリアできない(ないしレビューできる程度まで進まない)始末。
そんな中でも一番遊びこんだのが『MAVEL SNAP』。THE GAME AWARDSのモバイルゲーム部門でもBESTに選出されたというのにいまいち日本では注目されてない気がする……映画がヒットしても、やはりマーベルキャラはバタ臭いからだろうか。
本作はカードゲームだがガチャ課金さえないので手軽に始められるし、3分程度で決着が付くシステムが非常にスマホとマッチしている。カードはたった12枚しか使わないのに、ステージの特性とカードのスキルで無限の戦略が生まれるため、すきま時間を見つけてはついつい1ゲーム……で辞められずにもう1ゲーム、いや2ゲーム!と熱くなってしまう。
デジタルカードゲームでこんなにハマったのは初めてのこと。この分だとフレンド機能がようやく解禁される来年以降も引き続き遊ぶことになりそうだ。
『スプラトゥーン3』は文句なしのシリーズ集大成。『ソニックフロンティア』は惜しいところだらけだが(つまらないボス戦とか虚無感しかないファストトラベル用アイテム入手法とかな!)、新たな出発を期待させる佳作。もっと遊ばれていいはずなので推していきたい。