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自分のための、初めてのウルトラマン―映画『シン・ウルトラマン』レビュー

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ようやく自分のためのウルトラマンに出会えた―それが映画『シン・ウルトラマン』を観て一番に嬉しかったことだ。

 

三つ子の魂百までとはよく言ったもので、幼少期に見た特撮作品は忘れがたいものだ。私の場合、スーパー戦隊シリーズは『高速戦隊ターボレンジャー』、仮面ライダーは『仮面ライダーBLACK RX』、メタルヒーローは『特警ウインスペクター』、ゴジラなら『ゴジラVSキングギドラ』といったあたりが原体験なのだが、ことウルトラマンに至ってはこれといった記憶がない。というのも『ウルトラマン80』から『ウルトラマンティガ』までの15年間は新作TVシリーズが作られておらず、その時期と幼少期が重なってしまったからだ。

当時最新の映像ソフト用作品『ウルトラマンG』は児童館で何話か見た気がするし、アニメ『ウルトラマンキッズ』や、児童向け雑誌でウルトラ怪獣を覚えたりはしたので、ウルトラマンという概念を意識はしていたのだが、夢中になったという思い出はなかった。

そのまま時は経ち2019年8月、「監督:樋口真嗣、脚本:庵野秀明コンビで『シン・ウルトラマン』を撮る」というアナウンスを聞いたときは、正直困った。樋口・庵野コンビの新作は気になる。でもウルトラマンがわからない。仕方ないので付け焼刃で2019年以降の新作『ウルトラマンタイガ』『ウルトラマンZ』『ウルトラマントリガー』は見たし、旧作にも触れておこうと初代『ウルトラマン』と、樋口監督が参加していた『ウルトラマンパワード』も見た。色々見た結果、なるほど子供が夢中になるわけだとわかったし、『ウルトラマンZ』に至っては毎週の放送が楽しみに思うくらいの熱い作品だった。とはいえ心のどこかで「でも子供向け作品だしなあ」と線を引いてしまっている自分がいて、夢中になるまでには至らなかった。

なので『シン・ウルトラマン』には、「なるほど」で終わってしまう不安と、それを超えてきてほしいという期待があったのだが……蓋を開けてみると期待通り。おっさんになってしまった自分にも楽しめる丁度いいポイントを的確に突いてきてくれたのだ。

 

ストーリーの大枠は初代『ウルトラマン』そのもの。主人公のハヤタ隊員ならぬ神永新二がウルトラマンとなり、次々襲い来る禍威獣(怪獣)ネロンガや外星人(宇宙人)ザラブらをやっつけていくというもの。

シン・ゴジラ』と違ってかなりの度合いで原作をなぞってくるので、ともすると荒唐無稽な物語になりそうなところだが、庵野秀明らしい理屈っぽさでギリギリのリアリティを担保してくれる。どうやって巨大化するのか、どうして禍威獣は出現するのか、なぜウルトラマンは人間を守るのか。今作ならではの解を用意することで、SF映画としてのウルトラマンが成立している。

これはまさに『ウルトラマン』を見ていた子供たちが、心の中で育て、美化してきたイメージを具現化した映像世界なのだろう。

 

総集編かのような物語運びはあまりに性急だし、iPhoneで撮影したという実相寺風アングルは多様しすぎで効果が薄く、画質や音質の劣化なシーンが多すぎてIMAXで見たとき気になって仕方なかった。もっとこうしていれば、と思うシーンは多々あるのだが……そんな気持ちを超えるくらい、ウルトラマンに惚れてしまったのだからこちらの負けである。

土煙をあげながら襲い来るネロンガ&ガボラの迫力は平成『ガメラ』シリーズを彷彿とさせるし、外星人のずる賢さにはシビれ(山本耕史ばかりが注目を浴びているが、津田健次郎ボイスのザラブも大好きだ)、最終ボスの圧倒的強さにはいかにも庵野作品な絶望を覚えた。

何より銀色の巨人・ウルトラマンがとてつもなくかっこ良い。人類のために命を賭して戦う姿を見ているうちに、巨大な神様を拝んでいるかのような気持ちになった。子供の頃にウルトラマンに夢中になっていたら、きっと心の柱になっていたのだろうと想像してしまった。

 

『シン・ウルトラマン』は、子供の頃から抱えていた「ウルトラマンを通らなかった世代」の葛藤をようやく晴らしてくれた。自分のウルトラマンができたことで、これからはどんなウルトラマンでも楽しく見れそうだ。

今この時、最高のチームで制作してくれたことには感謝しかない。