ユウキズ・ダイアリー

アニメ・映画・ゲームについての雑記

私とエヴァンゲリオンと『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』と、富野由悠季と

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3月8日に初日を迎えた『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||(以下シン・エヴァ)』。新宿バルト9にて、ほぼ初回の7:20上映回で見ることができた。

現時点での感想をストーリーの核心に触れずに書いてみるが、どんな感想であれネタバレに抵触すると思う人は今すぐ回れ右してほしい。

 

私とエヴァンゲリオン

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エヴァンゲリオンとは何だったのか。とても一言には言い表せないが、「自分との関係性を語りたくなる作品」であることは確かだ。

人それぞれにエヴァンゲリオンにまつわる色んな思い出があるだろう。私自身を振り返ると、決して幸せな出会い方ではなかった。何せTV放送当時は小学4年生。すごいアニメがはじまったと思ってと見始めたものの、こっちが期待しているのはかっこいいメカアクションだけである。後半になるにつれて多用される静止画やグロテスクな描写、見たくもない大人の恋愛模様、挙句のありがとう大合唱に理解が及ぶはずもなかった。

それでも兄と弟、そして水曜が定休日だった自営業の父とまで、夕方18:30に食卓を囲んで見ていたあの一時は、今思い返すとかけがえのない時間だった。普段子供の付き合いでしかアニメなんて見ない父は、あの時何を思って見ていたのだろう。聞いてみたかったけれど、そんな父ももういない。25年は長すぎた。私の人生の7割以上。大学を出て就職して、転職もした。環境は沢山変化したし、エヴァへの想いもその時々で変わってきた。

それでも今こうして、生きて『シン・エヴァ』公開を迎えることができたのは幸せなことだと思う。

 

私と『シン・エヴァ

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『シン・エヴァ』とは何だったのか。観賞前に立てていた予想は「エヴァンゲリオン27話」だ。

前作『新劇場版ヱヴァンゲリヲン:Q』は見た当初こそそのストーリーに困惑するしかなかったが、何度も見るうちに「TV版20話~旧劇場版(26話)までを構成し直したもの」と解釈することができた。とすると「シン」の名を冠する「シン・エヴァ」は誰も見たことがないその先を、『シン・ゴジラ』ばりの圧倒的エンタメパワーで描き切るに違いない!と確信に近い推測をしていた。

が実際のところ半分正解で半分はずれていた。圧倒的エンタメパワーは正解。見たことのない映像表現をこれでもかと繰り出される2時間半は興奮の連続だった。ストーリー予想ははずれていた。ここはあれか、ここはあそこか、と過去見てきた庵野作品に重ねられるものだった。ただそれも納得で、新劇場版製作開始時の庵野監督自身による所信表明に答えは既に書いてあったのだ。

エヴァ」はくり返しの物語です。
主人公が何度も同じ目に遭いながら、ひたすら立ち上がっていく話です。
わずかでも前に進もうとする、意思の話です。
曖昧な孤独に耐え他者に触れるのが怖くても一緒にいたいと思う、覚悟の話です。
同じ物語からまた違うカタチへ変化していく4つの作品を、楽しんでいただければ幸いです。

庵野秀明総監督『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』所信表明 : みんなのエヴァンゲリオン(ヱヴァ)ファン

『シン・エヴァ』もまた、繰り返しの物語だったわけである。ただ庵野秀明監督も、この25年で変化していないわけがない。旧劇場版のように自分を極限まで追い詰め、観客までをも巻き込むはた迷惑な裸踊りを今回は見せなかった。

多様なファン層それぞれが抱く「私とエヴァンゲリオン」という関係値に向けて、見たかったのはこういう話でしょ、こういうキャラクターでしょ、こういう画でしょ、こういう結末でしょ、と一個一個丁寧にお出ししてくるのである。25年前の私が見たかったメカアクションもたっぷり見せてくれたし、今の私が見たい庵野監督の個人的な思索もちょうどいい塩梅で見せてもらえた。監督の気分の変化によって、繰り返しの物語であってもまるで違う印象を与えるものに変容したのだ。

 

私と『シン・エヴァ』と『新約Zガンダム

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物語がクライマックスを迎え、庵野監督が見せる"過去作からの気分の変化"が最高潮に達したとき、ふと脳裏をよぎる作品があり、心の中で快哉を叫んでしまった。「これは正に新訳Zガンダムじゃないか!」と。

富野由悠季監督による『機動戦士Ζガンダム A New Translation(以下新訳Zガンダム)』はエヴァンゲリオン新劇場版シリーズ同様にリメイク"風"の作品であるが、主人公カミーユ・ビダンの気分をわずかに変えることで全く違うエンディングを迎えるというものだった。そもそもこの『新訳Zガンダム』こそ、エヴァンゲリオン新劇場版シリーズはじまりのきっかけの一つでもあった。

まず影響を受けたのは2005年に上映された劇場版『Zガンダム』だったそう。同作は、1985年当時の原画と、新たに05年に描きなおした新作のカットが融合した作品となったが、「富野(由悠季)さんが、絵のクオリティを気にしないと言うのがすごいと思ったんです。あれが売れてると聞いた時に、『エヴァ』もそうしてみようと。『Z』で大丈夫だったんだからエヴァも大丈夫じゃないのと思ったんです」と、決意したという。 しかし、その出来は「あまりにひどくて、これじゃお金が取れないと思った。そうしたら撮り直しか新作だねということになって。スタジオを作ることになって」と、現在の庵野監督が社長を務めるアニメ制作会社『カラー』が設立されたそうだ。

庵野秀明監督 新劇場版「ヱヴァ」年表見て涙!燃え尽きて死の直前まで行った思い出告白 - News Lounge(ニュースラウンジ

庵野監督が意識してか知らずのうちにか、『シン・エヴァ』もきっかけである『新訳Zガンダム』同様、「ちょっとした気分の変化が決定的な違いを生む」フィルムとなっていた。両監督のファンとしてはある種二人の合作を見た気がして嬉しい限りである。

(2021/3/10修正)

 

まとめ

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そんなわけで『シン・エヴァ』は、やはり旧来の作品をなぞる繰り返しの物語でありつつも、まるで印象が異なるものになっている。それは庵野監督自身の気分の変化によるものだろう。25年に及ぶ歴史の中で紡がれてきた、ファンみんながもつ「私とエヴァンゲリオン」に誠実に応える内容だった。

私自身この10年以上の間、「エヴァが終わるまでは死ねない」と心の支えに生きてきたので、見終わったらどんな気持ちになるか想像さえできなかったのだが、思いがけず富野由悠季ファン心にまで目配せしてくれたのだから言うことない。納得のできるケリのつけ方だった。今は憑き物が落ちたような、晴れやかな気分だ。 

もちろん死を望むわけではない。見終わったあと、頭に浮かんだのは『シン・エヴァ』サブタイトル「Thrice Upon A Time」……ではなくて、『トップをねらえ2!』の最終話サブタイトル「あなたの人生の物語」だった。庵野秀明監督は私に、私たちに、「これからは自分の人生を生きてみろ」と背中を押してくれたたように思えて仕方がない。そんな前向きなメッセージを感じられる『シン・エヴァ』というフィルムが、素直に好きだ。

 

庵野秀明監督、今までありがとうございました。でも、これでさらばとは言わないでほしい。重荷を降ろしたこれからの活躍が、一層楽しみです。