新劇場版ヱヴァンゲリヲンシリーズ(以下新劇場版シリーズ)ではこれまでも多くの有名アニメーターが参加していたのだが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇(以下シン・エヴァ)』のメインスタッフが発表された際には驚かされた。作画監督陣が一斉チェンジしているのである。
本記事ではそんな作画監督陣を軸に、『新劇場版ヱヴァンゲリヲン:Q(以下ヱヴァQ)』から8年の時を経て移り変わったメインスタッフの変遷に注目してみたいと思う。(敬称略)
監督
いきなり作画の話から逸れるがまずはここから。当然、総監督は庵野秀明だが、彼の右腕である監督陣は3名。鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏。……いつも監督として参加していた庵野監督の戦友・摩砂雪がいない!
どういう経緯で監督の椅子を降りたのかはわからないが、画コンテ案・イメージボード、プリヴィズヴァーチャルカメラマン、アクションパートヴァーチャルカメラマンとしてクレジットされていたので安心した。
新たに着任した中山勝一は、『新劇場版ヱヴァンゲリヲン:破(以下ヱヴァ破)』『ヱヴァQ』でも副監督を務めている(今作では副監督のクレジットはない)。そもそもTV版当時から原画として参加しているためエヴァ歴は長い。庵野秀明監督作『彼氏彼女の事情』第25話でも絵コンテ・演出を手掛けている。
あとの2人は今やお馴染みのメンツ。鶴巻和哉は新劇場版シリーズ全てで監督を務めており、『フリクリ』『トップをねらえ2!』『龍の歯医者』などガイナックス、カラーと庵野監督と共に手腕を振るってきた名将。庵野監督とは『ふしぎの海のナディア』からの縁。
前田真宏は『ヱヴァ:破』でイメージボードを担当し、『ヱヴァ:Q』からは監督に。『青の6号』や『巌窟王』監督のほか活躍は多岐に渡るが、ガンダムファンの間では『∀ガンダム』のマヒローをデザインしたことで有名だったりする。庵野監督とは『トップをねらえ!』からの縁。2人の『シン・エヴァ』内での苦労っぷりはパンフレットにて綴られているのでぜひ一読を。
脚本
もちろん庵野秀明である、が注目したいのは脚本協力の鶴巻和哉と榎戸洋二! 『フリクリ』『トップをねらえ2!』を手掛けた2人が脚本に参加しているというのがもう……本当に大好きなんだこの2作は。スタッフロールで一番涙腺決壊したのがここだった。再観賞時は2人の協力箇所を想像しながら見てみたい。
画コンテ
画コンテは鶴巻和哉、前田真宏、庵野秀明。画コンテ案・イメージボードは平松禎史、樋口真嗣、摩砂雪、吉崎響、松井祐亮、鬼塚大輔。
平松禎史はこれまでも新劇場版シリーズに度々参加してきたが、キャラクターデザインを務める呪術廻戦の大ヒットで再び注目を集めるベテランアニメーター。
吉崎響は後述する井関修一と共に『日本アニメ(ーター)見本市』一番のヒット作と言われるものの、あまりに下品でアプリからの閲覧不可をくらった『ME!ME!ME!』を手掛けた奇才。2人の活躍はNHK BSで放送された『庵野さんと僕らの向こう見ずな挑戦』でも見ることができる、が現在は配信されていない。今のこのタイミングで再放送されないものだろうか。
日本アニメ(ーター)見本市の第3弾「ME!ME!ME!」が肌色すぎてヤバイ あまりの内容にアプリからは閲覧不可 - ねとらぼ
庵野さんと僕らの向こう見ずな挑戦 日本アニメ(ーター)見本市 | NHK
作画監督
総作画監督はなんと『ヱヴァQ』の本田雄……ではなく錦織敦史! 『天元突破グレンラガン』のキャラクターデザイナー、作画監督として名を馳せたのち『ヱヴァ破』『ヱヴァQ』にも参加したが、その後は『アイドルマスター』や『ダーリン・イン・ザ・フランキス』で監督を務めるなど大活躍。すっかりA-1 Picturesに身を捧げたのだとばかり思っていたので返ってきてくれて嬉しい。『シン・エヴァ』オフィシャルグッズのイラストはほとんどが彼の手によるものだ。昨日公開された主題歌の海外版LPジャケット果てしなくかっこいい。
じゃあカラー所属の本田雄は何をしているのかというと、宮﨑駿監督に拉致られて『君たちはどう生きるか』で作画監督として参加中。いつだかの熱風で鈴木敏夫で語っていた。過去のジブリ作品とは絵のテイストが少々変わるとか。本田雄の参加については公式アナウンスこそ無いものの、ジブリだよりにも記載があるので間違いない。
「君たちはどう生きるか」作画監督の本田雄くんが描き下ろした同作の重要キャラクターのイラストを基に、ケーキ屋さんがチョコレートで巨大なプレートを作り、ケーキ本体にセットしてユニークなケーキを作ってくれました。
「野中くん発 ジブリだより」2019年2月号 - スタジオジブリ|STUDIO GHIBLI
作画監督は井関修一、浅野直之、田中将賀、新井浩一という驚きの布陣。
井関修一は前述の『ME!ME!ME!』作画監督をはじめ、NHKで放送された『龍の歯医者』では鶴巻和哉監督とタッグを組むなど注目のホープ。『シン・エヴァ』ではアヴァン総作画監督としてもクレジットされている(Amazonプライムビデオで公開中の冒頭のとこ)。
浅野直之は『おそ松さん』キャラクターデザインで絶大な支持を集め、昨年も『映像研には手を出すな』でやはりキャラクターデザインを務めたヒットメーカー。『おそ松』さん3期から外れたと思ったらまさかの『シン・エヴァ』参加中だったという話。カラー作品としては実は『パトレイバーREBOOT』にも参加実績あり。
田中将賀もやはり人気キャラクターデザイナー。『君の名は。』『天気の子』の大ヒットが記憶に新しい。錦織敦史とは『ダーリン・イン・ザ・フランキス』キャラクターデザインとしてタッグを組んでいた。
以前上げたものですが改めて。
— 田中将賀@あのはな10周年 (@tanamasa0119) 2021年3月10日
これ描いた直後くらいにオフィシャルからシンエヴァの主要スタッフ発表があり、自分の名前を見て震えたのを覚えています。
無事公開ヨカタ。#シンエヴァ #シン・エヴァンゲリオン劇場版 pic.twitter.com/A6A1gwdVy0
新井浩一は数々の名作に参加するベテランアニメーターだが新劇場版は初参加。関係性を見出すとしたら前田真宏監督の『青の6号』で作画監督の実績あり。
そしてメカ作画監督は金世俊。ガンダムファンに向けて説明すると『ガンダム00』以降ほとんどのシリーズ作に参加しており、メカのみならず『ガンダムTwilight AXIS』では監督・脚本・キャラデザ・メカデザ・コンテ・演出・作画監督と多才ぶりを発揮している。
エヴァQ面白かった。
— 金世俊 (Sejoon Kim) (@gojooni) 2021年1月29日
シン・エヴァも宜しくお願いします。 pic.twitter.com/8nTbkxnHCl
原画・動画
このペースで名前をあげていくと何日あっても足りないので最後にさらっと。クレジットされてて嬉しかったのはやはりガイナックス時代から縁のある今石洋之とすしお両名。元ガイナックスの高村和宏も『ストライクウィッチーズ』監督業で忙しいだろうに参加しているし、『彼氏彼女の事情』で動画から作画監督に大抜擢された逸話を持つ高橋裕一の名前まで。
一番の驚きはやはりFGOのCMシリーズを毎度手掛ける近年最注目のスーパーアニメーターコンビ榎戸駿・坂詰嵩仁の参加だろう。今後の活躍からも目が離せそうにない。
会社単位になってしまうが、立ち上げから間もないYostar Picturesが原画に、コントレール、株式会社ササユリが動画に参加している。Yostar Picturesはその名の通りスマホゲームメーカーYostarのアニメ製作部門でアズールレーンやアークナイツの美麗CMをものすごい速度で発表中。コントレールは『この世界の片隅に』の片淵須直監督が次回作のために立ち上げた新規スタジオ。株式会社ササユリはスタジオジブリで動画検査を務めた舘野仁美が立ち上げ、朝ドラ『なつぞら』のアニメパートを担当した会社。最近ササユリカフェを休業してその動向が気になっていたがここで見つけるとは。どの会社も今後の日本のアニメーションを支えるスタジオに成長するのは間違いないだろう。
最後に
私の知識の浅さから今回はアニメーターを中心に数名の名前を挙げるぐらいしかできなかったが、実際にはもっと数多くのセクションで何百人、何千人もの人間が関わって『シン・エヴァ』は作られている。
アニメの本質はもちろん本編にこそあるが、エンドロールに載る一つ一つの名前にも注目するのもまた面白い。その先にいる人や経歴に想いを馳せるのもまた一つのアニメの楽しみ方だ。ぜひ自分だけの"推しスタッフ"を見つけてほしい。