2018年の『2001年宇宙の旅』70mm版特別上映

f:id:massan-222:20181007214111j:plain

HAL9000君1号2号がお出迎え

国立映画アーカイブにて10月6日から始まった『2001年宇宙の旅』70mm版特別上映は、クリストファー・ノーラン監修の元、当時のフィルムの色合いを最大限当時のままに再現したというもの。初日には庵野秀明監督、樋口真嗣監督も観賞する姿も見られるなど、業界人からも注目を集めているようだ。

世界中を巡回している1本だけの貴重なフィルム、日本で観れるのは今回の6日間限りという触れ込みのため前売り券は即完売。完全に諦めていたのだが、どうやら朝一に並べば当日券が入手できるらしいという聞きつけたので上映2日目に並んでみた。朝の6時から。5時間並んだら本当に当日券が手に入った。

f:id:massan-222:20181007214117j:plain

ポスター

f:id:massan-222:20181007214122j:plain

スケジュール

 

私自身はDVDでしか見たことがないので当時の色合いを本当に再現しているのか、という点は正直のところ判断しかねる。けれど自宅での観賞を遥かに超える環境(しかも当時と同じく幕の開け閉め、休憩時間までも再現!)で向き合ったことで、ようやくこの映画のことを、少しは、理解できたような気がする。

なお色合いの違いは下記動画がわかりやすい。


2001: A Space Odyssey - 50th Anniversary Trailer Comparison

 

それにこの2018年に、AIが日常的な話題に挙がり、前澤友作が民間人初の月周回旅行に参加することを発表し、ボイジャー2号が出発から41年目にして太陽圏外へ旅立つ2018年に、『2001年宇宙の旅』を、70mmの重いフィルムを映写技師が15分ごとに交換しているのを想像しながら観賞するというのはなんとも詫びさびを感じる貴重な体験であった。 

70mm版は今回の6日間限りであるが、会期はまだ残っているし、10月19日からは2週間限定のIMAX上映(国立映画アーカイブより大きいスクリーンで見るならここしかない!)、11月21日には4KBDの発売も予定されている。

思い思いの最高の環境で、今改めて見ることで新しい発見がきっとあるはずだ。

 

『フリクリ プログレ』は誰がためのフリクリか

f:id:massan-222:20180930234339j:plain

また懲りずに期待を込めてフリクリTシャツで挑む著者近影

映画『フリクリ プログレ』が9/28に公開された。本作は2000年から2001年に発売された前6巻のOVAフリクリ』の続編企画として制作された映画のひとつで、内容的にもOVAフリクリ』の続きとして描いている、ように見える(いくつか矛盾を感じる点もあるので納得はしていないが)。ちなみに9/7に公開された『フリクリ オルタナ』はOVAフリクリ』の前日譚のようである(これも明言はされていないが)。

制作は『フリクリ オルタナ』から引き続きPloduction I.G、総監督 本広克行、脚本 岩井秀人とメインスタッフは重なるが、各話で別の監督が立てられている点は大きくことなる(映画と銘打ってはいるが、北米で先行放送された6話のアニメを連続で流すだけなので話数の区切れが存在する)。OVAフリクリ』制作スタッフはほとんど関わっておらず、鶴巻和哉がスーパーバイザー、the pillowsが主題歌・劇中歌を担当している程度である。

なお『フリクリ オルタナ』の出来が惨憺たるものだったことは以前本ブログに書いたとおり。

yuki222.hateblo.jp

 

まずほとんど見どころのない『フリクリ オルタナ』に比べると、見応えのあるカットはいくつかあった。1話のアバンタイトルは本作の盛り上がりを期待させるに十分な迫力ある映像であったし、1話と2話の間に流れるオープニングアニメーションは伍柏諭(ご はくゆ)が手がけているだけに『フリクリ』と『フリクリ プログレ』の間を埋める絵物語を鮮烈な映像で描いている(伍柏諭は伝説の作画アニメFate/Apocrypha』22話の絵コンテ・演出・作画監督を務めたことで名高い)。

f:id:massan-222:20181001080446p:plain

1話冒頭のかっちょいいメカヒドミ(『フリクリ プログレ』本PVより)

f:id:massan-222:20181001080532p:plain

オープニングアニメーションのアトムスクは荘厳ささえ感じる(『フリクリ プログレ』本PVより)

そして末澤慧監督による第5話は、『かぐや姫の物語』を想起させる手描きの勢いを活かした描線や、AI動画の活用、めばち(めばち (@mebachi) | Twitter)によるコミック風アニメなど実験的手法に富んでおり見応えがあった。

f:id:massan-222:20181001080456p:plain

荒々しい描線が特徴的な5話の井出(『フリクリ プログレ』本PVより)

cgworld.jp

 

ただそれはそれとして、映画全体を俯瞰するとやはり厳しい出来と言わざるを得ない。前作ファンという無形のものをターゲットにした結果か、誰をも幸せにできない映像作品になってしまった

 

フリクリ オルタナ』はまだ、女子高生4人組を主人公に据えた物語とすることで、OVAフリクリ』とは違うものを、萌えであったり、女子の共感を得ようとする気概は感じた(それが達成し得たかは大きく疑問であるが)。

一方『フリクリ プログレ』は、主人公であるヒドミ、井出の生活空間にエキセントリックな2人の女、ハルハ・ラハルとジンユ(2人はOVAフリクリ』のハル子の分裂体であるらしい)が表れたことをきっかけに、井手の頭から多足型のロボットが表れたり、ヒドミに角が生えたりしながら、ラハルはなんやかんやあってジンユと一つになった後、目的である大海賊アトムスクとの邂逅を果たす。つまるところ、ナオ太の役割をヒドミ/井出、ハル子をラハル/ジンユに分割しただけのOVAフリクリ』の語り直しである。

語り直し自体はよくある手法であるし、『スターウォーズ』だって『ガンダム』だってやっている。だが語り直す必然性が必要だ。現代の観客に通じる要素や、解釈、技術を加える必要がある。だが『フリクリ プログレ』にはそんな必然性はまるで感じないし、むしろマイナスにさえ感じる。

 

OVAフリクリ』は各話の演出が一番の魅力だと思っているが、それを彩る脚本/台詞も大変面白かった。各キャラクターの台詞は一見、マシンガンのように繰り出される意味不明で理解不能な台詞の連続であるが、何度も見返すと意味も意図も味わい深く、散りばめられたギャグやパロディーは作り手の愛やこだわりを強く投影したものばかりだった。

一方『フリクリ プログレ』においても意味不明な台詞の多様が見られるが、本当に意味も意図もないことが一見してわかってしまうし、ギャグもパロディもまるで冴えない。脚本に引っ張られるかのように(上記の一部を除いて)演出も淡々としており、各話で監督を分けて個性を出すことにも成功していない。

 

背景美術が酷いのも気に触って仕方なかった点だ。OVAフリクリ』では『機動警察パトレイバー the Movie』も手がけた名匠・小倉宏昌(アニメ『SHIROBAKO』でも小倉正弘としてネタにされていた人物)が美術監督を務めることで、独特で余白の多い、故にどこか懐かしい世界観を形作るのに一役買っていた(鶴巻和哉はインタビューで、背景を写実的にしないことで漫画的表現を目指していたと述懐している)。

フリクリ プログレ』は背景を写実的にしない点こそ真似てはいるが、漫画的であることを履き違えた、ただただ拙く、幼稚でデッサンのおかしい背景が延々と続くので気が狂いそうになる。同じく拙さは感じたものの、『フリクリ オルタナ』はパステル調な別の方向性を目指しているだけまだマシであった。

f:id:massan-222:20181001080613p:plain

見つめていると気が狂う1話背景(『フリクリ プログレ』本PVより)

庵野秀明の言葉を借りるなら「背景美術が作品の世界を決める」のであり、そこの手を抜かれると脱力するしかない。『フリクリ プログレ』をもしこれから観る方がいるなら、背景、特に1話の街並みや2話のスラム街、3話の浜辺は要注目である。

logmi.jp

 

フリクリ プログレ』は全編を通して、ただただ『フリクリ』を上っ面だけで舐めて真似しました、以上の意思が感じられない。それは語り直しではなく、劣化コピーであり、出来の悪い二次創作だ。そこには現代を生きる人間に、若者に向けた視点や、物語、メッセージを露程も感じられない。当時中学~高校時代を過ごしていた私に大きな爪痕を残した『フリクリ』とは、明確に異なる。

これは想像でしかないが、『フリクリ』には海外にファンが多いという話を聞くに、今回の2本の映画も海外ファンを意識して制作されたのであろう。ただ、「海外のファン」というふわっとした存在をターゲットにした結果、明確な意思も意図もない、誰も満足させられない映像が生み出されてしまったように思える。これは同じくProduction I.Gが手がけた『攻殻機動隊 ARISE』でも感じたことであるので、「またか……」という想いで一杯である。

 望まないが、次があるなら、同じ轍を踏まないことを願う。

 

今回の映画化2本立て企画は大失敗だと思うが、OVAフリクリ』の新作グッズを沢山作ってくれたこと、そして積極的に見直す機会を与えてくれたことだけは、感謝しておきたい。

 

f:id:massan-222:20180930234530j:plain

荒んだ心は劇場版『若おかみは小学生!』公開記念原画展(有楽町マルイで10/8まで開催中)で癒やされた。若おかみはいいぞ。

 

息づくスタジオジブリのDNA 映画『若おかみは小学生!』

f:id:massan-222:20180923131022p:plain

この卵焼き作画がすごい2018(本予告のキャプチャーより)

10年も前にDVD屋でバイトをしていたころに「スタジオジブリ作品と勘違いされる映画No.1」の地位に燦然と輝いていたのがマッドハウス制作・高坂希太郎監督による『茄子 アンダルシアの夏』だった。

高坂希太郎監督は『耳をすませば』以降多くのジブリ作品で作画監督を務めていただけにキャラクターが宮﨑駿作品に自然と寄ったのだろうと思うが、キャラクターの芝居や、特に自転車の機構まで緻密に描写する作画など、内容にしてもさすがジブリを背負う高坂氏ならではの見どころの多い映画だった。……そんな高坂希太郎監督の15年ぶりの映画が『若おかみは小学生!』だ。

www.waka-okami.jp

脇を固めるメンバーも錚々たる面子。作画監督は映画『君の名は』、『コクリコ坂から』の廣田俊輔、脚本は『ガールズ&パンツァー』シリーズや、映画『聲の形』、『リズと青い鳥』の吉田玲子、音楽はゲーム『MOTHER』や映画『東京ゴッドファーザーズ』の鈴木慶一

原作は青い鳥文庫で刊行されている児童文学で、今年4月から9月までTVアニメも放映されていた。通常こういった映画はTVアニメの番外編や総集編であることも多いが、今回はTVと映画で同じ原作小説を元にしながら、全く別の作品として制作されているので、私自身原作やTVアニメ版未見であるものの特に予備知識なく見ることができた

 

この映画で特筆すべきはその細やかな芝居だ。両親と死別した主人公の小学生・おっこが祖母の旅館で若おかみを務める、というのが筋書きだが、このおっこの一挙手一投足がすごい。高く蹴り上げる廊下の雑巾がけや、両親の布団に足元から潜り込むカットには特にシビれる。 

f:id:massan-222:20180923131340p:plain

この蹴り上げの高さよ(本予告のキャプチャーより)

もちろんそこまで注視せずとも、コロコロと変化する表情や動作におっこの快活さが自然と表れている。おっこの顔はデフォルメが効いていて目がクリっと大きいが、それを強調し、かつ破綻しない寄りめのカットが多いのも見どころ

f:id:massan-222:20180923131717p:plain

寄りのカットが面白い(本予告のキャプチャーより)

 

おっこ以外に目を向けると、板前の康さんの卵焼きを切る仕草や、菜箸での盛り付けといった細やかな所作にプロ意識が見える。眼鏡ダンディな旅館のお客様たちの横顔は、メガネの厚さによる輪郭や瞳の歪みまで表現している(これは高坂監督が作画監督を務めた『風立ちぬ』でも絶賛された技法)。

ここにあげたのは一例で、どんなキャラクターの芝居にも一貫して魂が、それはもしかしたらスタジオジブリ作品で息づいていたDNAが、息づいているのかもしれない(ジブリ作品の経験がある作画スタッフも多く参加しており、そういった面々の力も大きいのだろう)。

f:id:massan-222:20180923131802p:plain

ジブリ顔のパパとメーテル顔のママ(本予告のキャプチャーより)

 

クオリティを重視した児童文学の映画化というと(ジブリ作品を除くと)、片渕須直監督の『アリーテ姫』や『マイマイ新子と千年の魔法』を思い出すところだが、原作の知名度の低さや、大人向けのストーリーやキャラクターというところで興行的にはパッとしない印象だった。

だが『若おかみは小学生!』については、子供への目配せも行き届いており、キャラクターデザインは原作イラストやTVアニメ版に寄せた可愛らしいテイストであるし、ストーリーは特に前半、おっこと幽霊たちとの絡みがコメディ色豊かに描かれている。また後半は一変して、おっこと死別した両親との関係性にフォーカスしており、大人でも涙なしには見ることができない。親子と生死をテーマにしているという点では映画『リメンバー・ミー』とある種対比して見ることもできるし、超えている点も少なくないように思える。

 

タイトルに「小学生」と入っているため躊躇する大人は多いだろうが、そんなことは気にせずに良い芝居、良い映画を求めて劇場に足を運んでもらいたい。今年ベスト映画候補と言っても過言ではない。もちろん子持ちの方は、ぜひ連れ立って見てもらいたい。

そして最後に。黒ロン(黒髪ロングのこと)が好きな人は絶対に見ること。グローリー・水領さんにヤラれるはずだ。私はヤラれた。

f:id:massan-222:20180923132155j:plain

グローリー・水領・かっこいい(劇場で販売中のポストカードより)

 


【公式】『若おかみは小学生!』9.21(金)公開/本予告

 

 

退屈なカットに拙いドラマ。ツギハギ・ハリボテ『フリクリ オルタナ』

耐え難きを耐える苦痛の135分。まさかフリクリの名を冠する新作に、こんな気持ちにさせられるとは……。

f:id:massan-222:20180910094915j:plain

新品のフリクリTシャツを着て映画館に駆け付けた私の心を返して欲しい

 

映画『フリクリ オルタナ』の劇場公開が始まった。本作は2000年〜2001年にリリースされた全6巻のOVAフリクリ』(制作・GAINAX、監督・鶴巻和哉、脚本・榎戸洋司)、の名を引き継いだ完全新作だ。OVA版同様に全6話構成となっており、劇場では1本の映画として6話が連続して上映されている(本編約21分×6話+スタッフロール)。また今回はGAINAXではなく、Production I.G、NUT、REVOROOTの3社が制作している。総監督は本広克行、監督は上村泰、脚本は岩井秀人

なお本作は発表当初『フリクリ3』と称されていた。『フリクリ2』こと『フリクリ プログレ』も今月末に上映予定だ。順番が前後する意図は不明。

私自身にとってOVA版『フリクリ』は大変思い入れの深い作品。そのため監督、脚本などほとんどの制作スタッフを総入れ替えして制作された本作の出来には大きな不安を感じていた。けれど別物として楽しもう、面白いアニメが見られればいい、広い心で受け留めよう、と覚悟を決めて劇場に足を運んだ。

しかしそんな祈りも虚しく、上映された『フリクリ オルタナ』には心底がっかりした。

 

OVA版『フリクリ』の魅力は多方面に渡るため一言で表し難く、それゆえ人によって「フリクリとはこんなアニメだ」という解釈は大きく異なるように思う。リリース当時はそんなこと考えるでもなく、ただただ面白くて繰り返し視聴していたのだが、『フリクリ オルタナ』公開を機に久々に観賞しようやく答えが出た。私にとってのフリクリは「すべてのカットがシビれるアニメ」。作画が、演出が、美術が、音楽が、声の芝居が、アクションシーンも日常芝居もギャグもパロディもすべてのカットで妥協なく融合している。情報量がとてつもなく豊富。意味不明なように見えて意味しかない。何も考えてないように見えて端から端まで目配せが効いている。だから私は何度も見てしまったのかと、何度見ても飽きないのかと、腑に落ちた。

しかし『フリクリ オルタナ』はどうだろうか。最初の5分、情報量の浅いカットが続き不安に駆られ、「ははーん、こっから面白くなるやつだな?」と虚勢を張ってみるも虚しくそのまま135分、ひたすら退屈で、眠たい画しかスクリーンには映らない。意図が込められてない、ただキャラクターが左から右に流れていく様を延々と見せられている気分。これをフリクリと呼んでいいのか? そんなことはない。

 

絵面だけでなく、そこに流れる物語も一様に浅い。

OVA版『フリクリ』は複数の物語が多層的に展開し、各キャラクターの内面と台詞と表情には嘘と真実が入り乱れ、視聴者を混乱させ考えさせた。バカっぽいけど深い。監督曰く「2000年頃のヤンマガ」。背伸びする子供たちによる、大人な物語がそこにはあった。

フリクリ オルタナ』は女子高校生4人による、直情的で無感動な、青春のフリした子どもなドラマ。小学生向けにテレビで流すならわからなくもないが、宇宙よりも遠い場所』が放映され、『リズの青い鳥』が劇場公開された2018年に、映画館でかけるものでは決してない。高校生に対する想像力が足りなさすぎる。

 

135分、私が見ていたのは、OVA版『フリクリ』同様にハルハラ・ハル子が登場し、the pillowsの曲が流れる、ガワを取り繕っただけのハリボテのような代物だった。監督に気概があるのなら、好きなキャラクターを創造して、好きなアーティストの曲を流せばよかった。ただただ面白いアニメに仕上げてくれれたなら、「こういうフリクリも良いんじゃない?」と言えたかもしれない。鶴巻、榎戸両人による『トップをねらえ2! 』や、『フリクリ』で活躍したアニメーター今石洋之による『宇宙パトロールルル子』の方が、よっぽど『フリクリ』の精神的続編と言えよう。

 

最後に良いところ探しをすると、安易で冷え冷えとしたパロディが続く中、唯一とだ勝之先生の『DANDANだんく!』に言及したのは評価したい。あとthe pillowsによる主題歌『Star overhead』がかっこいい


the pillows「Star overhead」「Spiky Seeds」×劇場版「フリクリ オルタナ/プログレ」アニメMV

 

そしてなんといっても上映前にかかった劇場版『若おかみは小学生!』の予告映像が素晴らしい!


劇場版「若おかみは小学生!」予告編

 若おかみは小学生!』はスタジオジブリ出身で『茄子 アンダルシアの夏』を監督した高坂希太郎の久々の新作。絶対に面白い。フリクリ オルタナ』を見るくらいなら『若おかみは小学生!』を見るべきだ

 

17年目の『カウボーイビバップ 天国の扉』

声優の石塚運昇さんが今年8月13日に亡くなられた。最初に頭に浮かんだのはアニメ『カウボーイビバップ』のジェット・ブラックの顔。山寺宏一さん演じる賞金稼ぎスパイク・スピーゲルの相棒で、仲間想いの元刑事。石塚運昇さんの渋くてどこか親しみのある声がぴったりだった。

悲しみを覚えて『カウボーイビバップ』をNetflixで見ていたのだが、思い立ってテレビシリーズ20周年を記念して上映中の劇場版『カウボーイビバップ 天国の扉』も観に行ってしまった。

f:id:massan-222:20180830101059j:image

f:id:massan-222:20180830101109j:image

f:id:massan-222:20180830101123j:image

f:id:massan-222:20180830101131j:image

f:id:massan-222:20180830101150j:image

f:id:massan-222:20180830101159j:image

会場の立川シネマシティ・ツーには今回のイベント用に作られた等身大スタンドや、スパイクの愛機で映画『レディ・プレイヤー1』にも出演したソードフィッシュⅡのフィギュア彩色原型、公開当時のポスターも並べられていた。観賞前からテンションぶち上がりである。

 

映画本編を劇場で観るのは公開された2001年以来17年ぶり。当時この映画に「カッコイイ」以外の気持ちが抱けず、泣けるでも笑えるでも哲学的でもないこの映画の位置付けに困ったのが正直な印象だった。なんかイイオンナが出てきた末に賞金首をやっつける、ってそれテレビ版とやってること一緒じゃん? 劇場版がそれで良いの?

久しぶりに観た『天国の扉』は、やはりひたすらに「カッコイイ」。アクションが、メカが、作画・背景のディテールが、セリフが、声の芝居が、音楽が、全部カッコイイ。とくに音楽は、サントラをかつて聞き込んでのもあってかリズムに乗ってずっと足踏み。隣の客も肩を揺らしてノリノリである

カッコイイは気持ちいい。カッコイイはもうそれだけで映画になる。ストーリーが、キャラクターが、と表面的な部分をなぞっていただけの17年前に気付かなかった価値に気付く、久しぶりの映画は良い体験になった。

 

立川での上映は8月31日で終わってしまうが、もちろんどんな環境で観ても面白いこの劇場版はテレビシリーズ同様にNetflixで配信中。これからも全世界で未来永劫見られてほしいと思う。

3分間ヴァイキング『Bad North』

f:id:massan-222:20180827092014j:image

男なら誰しも漫画『ヴィンランド・サガ』のトルフィンのように、生きるか死ぬかの世界で悪逆非道のヴァイキングと戦いたいという気持ちを抱いているだろう。そんな夢を叶えてくれるのがNintendo Switch向けに先日配信された『Bad North』だ。

 

ec.nintendo.com

強いてジャンルを問うならリアルタイムストラテジーだが、体力ゲージの一つもないゲームシステムはシンプル。小さな島に建つ僧院目掛けて周囲の海から海賊たちが襲いかかってくるので、プレイヤーは海賊の通り道に兵士のユニットを配置するだけ。兵士は海賊とぶつかると勝手に戦ってくれる。島を一つ救うと次々と海図が広がっていくので、海を渡り連戦していくことになる。

 

このゲームの肝はどんな島も大概3分程度でクリアできるところだ。最初こそユニットも敵も少なく頭を使わずクリアできるが、連戦を重ねるうちに選択できる兵士の種類(剣、槍、弓)も配置できるユニットの数(最大4ユニット)も増えていく。選択肢が増えるとこの兵士を・このスキルを試したい、もっと成長させたい、と連戦したくなってしまう。リアルタイムストラテジーの皮を被っているが、そのくせミニマルで止め時を失う触り心地はパズルゲームのようである。

次第に海賊の力が増し、裏をかかれ、ユニットが一つまた一つと全滅していくと、ああ、これが海の男の世界か…と絶望し、そこがシビれる(ユニットは1人の隊長と8人の一般兵で編成されている。一般兵は死んでもすぐに補充されるが、しんがりの隊長は死ぬとその島をクリアしようと蘇生されずユニットが減る。4ユニットが3ユニットになるだけでじり貧になっていく)。1ユニットだけ命からがら島から逃げ出すも、ゲームオーバーして一からやり直すため、負け戦と分かっていてもなお単騎で死地に赴く時の絶望感といったら、堪らない。

 

なおSwitchではボタン操作よりもむしろタッチパネル操作が快適。すでに他ハードやPCへの移植が決まっているが、タッチパネルはSwitch版ならではだろう。もっと複雑でプレイヤーの介入要素があっても、と思わないでもないが、思い切ったシンプルさはこれはこれで好みである。

 

フミコの告白take.3『ペンギン・ハイウェイ』

f:id:massan-222:20180820093534j:image

森見登美彦原作、スタジオコロリド初長編映画となる『ペンギン・ハイウェイ』が8月17日から公開されたので早速初日に観賞した。

 

スタジオコロリドを率いる石田祐康監督は京都精華大学在学中に制作した短編アニメ『フミコの告白』で一躍注目を浴び、スタジオコロリド在籍後も『陽なたのアオシグレ』の監督、『台風のノルダ作画監督などを務めてきた。スタジオコロリドはパズドラマクドナルドといった企業CMも得意としており、それらを見たことがある人は多いに違いない。

 

今回の『ペンギン・ハイウェイ』は利発な少年アオヤマ君とおっぱいの大きなお姉さん、そしてペンギンを巡る物語。原作を読んだ当時は、それまでの森見登美彦作品に多い青年主人公の作品との隔たりを強く感じてしまいあまり頭に入らなかったのだが、映像作品として再度向かい合ったことでするっと理解することができた。そうかこれは小さな世界と世界の果てを描いた物語なのだと。『フリクリ』であり『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』であり『未来のミライ』だ。

なるほどそう考えるとお姉さんの声を演じる蒼井優の個性的な声は『フリクリ』のハルハラハル子を彷彿とさせる―余談だがアオヤマ君の親友・ウチダ君の釘宮理恵ショタボイスも秀逸だ。

 

しかし1本の長編アニメーションとしては、クライマックスシーンの疾走感こそ鳥肌モノであるが、他のシーンはどうしても精彩を欠いて見えた。キャラクター、ビジュアル、キャストの芝居、ストーリー、いずれも眼を見張るものがあるのに、もう一歩物足りない。もっと面白くアニメーション、できるんじゃないか。

森見登美彦原作アニメは『有頂天家族』『夜は短し歩けよ乙女』などいずれも傑作揃いのため、どこか厳しく比べてしまうところもあるだろうが、最後まで見た印象は『フミコの告白』『陽なたのアオシグレ』と大きく変わらないものだった。いい感じのビジュアルだけで引っ張る初期の新海誠作品とも重なる。

 

ただ、オリジナルの長編映画が作れる国内のスタジオ、監督がまだまだ少ない中で、こんなにも純粋な作品を生み出せる石田祐康監督(30歳!)は稀有な存在。生真面目でまっすぐなアオヤマ君と石田監督の姿が重なり、思わずこちらの背筋が伸びる。今後のコロリド、石田監督の作品も注目していきたい。