「気持ち悪かった!」
というのが映画『HELLO WORLD』観賞後の飲み会で感想を求められた時に口をついて出てしまった一言。決して悪い意味でなく。
『HELLO WORLD』は9/20に公開された劇場用アニメーション映画。監督は『ソードアート・オンライン』(1期、2期、劇場版)の伊藤智彦氏、脚本は『正解するカド』やこの秋テレビアニメ化も控えた小説『バビロン』の野﨑まど氏、『楽園追放』を制作したグラフィニカに、追い打ちをかけるのはキャラクターデザインの『けいおん!』堀口悠紀子さん。ということで好みドンピシャの制作チームに楽しみにしていた作品だ。
京都に暮らす高校生・堅書直美の前に突然現れた"10年後の自分"。彼いわく、クラスメートの一行瑠璃と3か月には恋仲になって、けれど彼女は事故で死んでしまうらしい。彼女と本当に恋仲になれるのか? そして事故を回避できるのか? というSF恋愛ストーリー。
けれど脚本は"あの"野﨑まどである。物語は二転三転と予想外の方向に転がっていきついには衝撃の結末に…!というのがこの映画の醍醐味である。
醍醐味であるのだが、そこが冒頭の気持ち悪いに繋がってくる。
この得も言われぬ気分を解消するためパンフレットを読み込んだところ腑に落ちた。監督、脚本家、プロデューサーの参考にしたという作品のほとんどが2000年代以降のSF作品であり、そのほとんどを自分は通過してきたのだ。
一部を挙げてみよう。『ゼーガペイン』『電脳コイル』『インセプション』『順列都市』に『スパイダーマン』……。思えば私の学生時代はSFに育てられたようなものだけれど、そのまま全部が『HELLO WORLD』の"二転三転"にぶちこまれている。あまりの純度に体調だって悪くなろう。まるで自分が書いた/書きたかった作品を見せられたような気分なのである。
当時は気付かなかっただけで、庵野秀明作品や押井守作品が先行作品のオマージュの塊だったように、あるいは伊藤智彦監督の『HELLO WORLD』も新時代を生きる若者たちにとっての大きな道標になるのかもしれない。
ただ、このSF純度の高さは不安を覚えるところでもあり。
巷ではSFが死んだのなんだと何度目かわからない論争が再び巻き起こっているところに、「SFが好きだ!」と主人公に叫ばせ、グレッグ・イーガンの著作をこれみよがしに並べて見せるのは(偶然とはいえ)露骨な姿勢。そんなに「SFです」という顔をしないで、オブラートに包んで裏でほくそ笑んでいてほしかった。そうでないと、SFなんかついぞ興味ない多くの観客にそっぽ向かれてしまいかねない。SFオマージュも嬉しいけれど、新しい映像表現、映像的快楽ももっと追及してほしかった。グラフィニカの前作『楽園追放』はそのあたりのバランスが秀でいただけに惜しい(『楽園追放』の某声優を今作にも出演させたファンサ?は素直に嬉しい!)。
惜しいけれど、個人的には自分が好きなもの、大事にしてきたものいっぱい見せてもらえたので満足度は高し。見る人によって、結末の解釈含めてかなり意見の分かれる映画ではないかと思う。
映画『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』TVCM③【2019年9月20日(金)公開】