ユウキズ・ダイアリー

アニメ・映画・ゲームについての雑記

21世紀を生きるボクたちのSFー映画『HELLO WORLD』

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「気持ち悪かった!」

というのが映画『HELLO WORLD』観賞後の飲み会で感想を求められた時に口をついて出てしまった一言。決して悪い意味でなく。

hello-world-movie.com

 

HELLO WORLD』は9/20に公開された劇場用アニメーション映画。監督は『ソードアート・オンライン』(1期、2期、劇場版)の伊藤智彦氏、脚本は『正解するカド』やこの秋テレビアニメ化も控えた小説『バビロン』の野﨑まど氏、『楽園追放』を制作したグラフィニカに、追い打ちをかけるのはキャラクターデザインの『けいおん!堀口悠紀子さん。ということで好みドンピシャの制作チームに楽しみにしていた作品だ。

 

京都に暮らす高校生・堅書直美の前に突然現れた"10年後の自分"。彼いわく、クラスメートの一行瑠璃と3か月には恋仲になって、けれど彼女は事故で死んでしまうらしい。彼女と本当に恋仲になれるのか? そして事故を回避できるのか? というSF恋愛ストーリー。

けれど脚本は"あの"野﨑まどである。物語は二転三転と予想外の方向に転がっていきついには衝撃の結末に…!というのがこの映画の醍醐味である。

 

醍醐味であるのだが、そこが冒頭の気持ち悪いに繋がってくる。

この得も言われぬ気分を解消するためパンフレットを読み込んだところ腑に落ちた。監督、脚本家、プロデューサーの参考にしたという作品のほとんどが2000年代以降のSF作品であり、そのほとんどを自分は通過してきたのだ。

一部を挙げてみよう。『ゼーガペイン』『電脳コイル』『インセプション』『順列都市』に『スパイダーマン』……。思えば私の学生時代はSFに育てられたようなものだけれど、そのまま全部が『HELLO WORLD』の"二転三転"にぶちこまれている。あまりの純度に体調だって悪くなろう。まるで自分が書いた/書きたかった作品を見せられたような気分なのである。

当時は気付かなかっただけで、庵野秀明作品や押井守作品が先行作品のオマージュの塊だったように、あるいは伊藤智彦監督の『HELLO WORLD』も新時代を生きる若者たちにとっての大きな道標になるのかもしれない。

 

ただ、このSF純度の高さは不安を覚えるところでもあり。

巷ではSFが死んだのなんだと何度目かわからない論争が再び巻き起こっているところに、「SFが好きだ!」と主人公に叫ばせ、グレッグ・イーガンの著作をこれみよがしに並べて見せるのは(偶然とはいえ)露骨な姿勢。そんなに「SFです」という顔をしないで、オブラートに包んで裏でほくそ笑んでいてほしかった。そうでないと、SFなんかついぞ興味ない多くの観客にそっぽ向かれてしまいかねない。SFオマージュも嬉しいけれど、新しい映像表現、映像的快楽ももっと追及してほしかった。グラフィニカの前作『楽園追放』はそのあたりのバランスが秀でいただけに惜しい(『楽園追放』の某声優を今作にも出演させたファンサ?は素直に嬉しい!)。

惜しいけれど、個人的には自分が好きなもの、大事にしてきたものいっぱい見せてもらえたので満足度は高し。見る人によって、結末の解釈含めてかなり意見の分かれる映画ではないかと思う。

 


映画『HELLO WORLD(ハロー・ワールド)』TVCM③【2019年9月20日(金)公開】

 

関東最速上映レビュー 劇場版『ガンダム GのレコンギスタI』はわかりやすくなった再演版!?

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テレビ版の放映終了からはや4年。待ちに待った劇場版『ガンダム GのレコンギスタI』「行け!コアファイター」の全国公開を前に、ぴあフィルムフェスティバルにて関東最速の先行上映会が行われたのでいち早く見ることができた(世界最速上映はパリ、日本最速は福岡で行われたので3番目に甘んじてしまったが……)。

あの難解なテレビ版がどう変われるのか、と見る前こそ期待と不安が入り混じっていたのだが、わかりやすい物語に変貌した姿に驚きを隠せないのが正直な気持ちだ。

 

「わかりづらい」と言われるテレビ版Gレコ

まずテレビシリーズ『ガンダム Gのレコンギスタ』について振り返ってみる。Gのレコンギスタ…略してGレコは、『機動戦士ガンダム』の生みの親である富野由悠季氏が1999年放送の『∀ガンダム』以来、実に15年ぶりに手がけたテレビ向けガンダム作品だ(2014年放送)。

時代設定としては『機動戦士ガンダム』のいわゆる宇宙世紀の遥か未来(『∀ガンダム』の正暦より先の未来という話もあるが定かではない)、リギルドセンチュリー1014年が舞台。

主人公は、軌道エレベーター"キャピタル・タワー"を要する"キャピタル・テリトリィ"に住む少年ベルリ・ゼナム。ベルリは自衛組織"キャピタル・ガード"のタワーでの実習中にガンダム"Gセルフ"に乗る海賊部隊のアイーダ・スルガンを撃退。奪取したGセルフに乗るうちに行きがかり上アイーダと共に海賊部隊に同行することになり、自分とアイーダの出生の秘密、そして歪んだ世界の構造を知るためにキャピタル・タワーの終着駅の更に先―月の裏側に位置するスペースコロニー群"トワサンガ"、そして金星近傍の"ビーナス・グロゥブ"をやがて目指すことになる。

機動戦士ガンダム』のようないわゆる二項対立の戦争物語ではなく、貴種流離譚であり、行きて帰りし物語と言えるだろう。ただこの物語構造が見えづらいのが大きな問題だった。ベルリとアイーダの行く手を邪魔するように二項どころか四、五、六と次々出て来る新たな国家やそれらの内部組織同士が複雑な対立模様を見せ、更にそこへ富野由悠季総監督ならではな理解し難いセリフまわしが拍車をかけた結果、放送当時は「わからない」「わかりづらい」という声が大きかったように思える。

 

ようやく決まった前代未聞の五部作映画

さてそんなGレコ放映終了後、富野総監督から映画化したいとの声が上がり、待てど暮らせど形にならないのでそろそろ諦めなくてはいけないのか…と思い始めたころにようやく正式決定、そしてトントン拍子に今年11月の2週間限定上映が決定したのが今回の劇場版だ。

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ただしタイトルに"Ⅰ"と付いてるように、複数作にまたがるものになった。では『∀ガンダム』のように二部作なのか、『機動戦士ガンダム』や『機動戦士Zガンダム』のように三部昨かと思いきや、なんと全五部作になるとアナウンスされている。

テレビ作品を基にした映画化、というくくりでは前代未聞であろう。そんな超大作としてまとめたい監督と期待値の低い会社側の葛藤が、期間限定というイベント上映形式と上映館数の少なさに透けて見えるようである。

 

わかりやすいぞ劇場版

ではなぜそこまでして監督は五部作にこだわるのか。それは実際に見ることでようやく実感することができた。

今回の第一部で描かれるのはテレビ版1〜5話のエピソード(+6話の冒頭少し)。1話22分とすれば約110分。対する劇場版は90~100分程度。その差はおよそ10~20分しかない。短くなっているとはいえ、エピソード単位でばっさり削られてきた過去のガンダム映画に比べれば微々たるもの。残り21話分を4部作で描くのなら、今後もエピソード単位のカットはほぼ無いと見て間違いないだろう。

ではただ各話をくっつけて垂れ流しているだけかというとそんなことはなかった。なんといってもわかりやすい! 

テレビ版、特に序盤のベルリときたら天才肌という設定ゆえかつかみどころがなく飄々としており、何を考えて戦ってるのか、どういう思惑で組織間を渡り歩くのかを掴みづらかった。対するアイーダも、想い人をベルリに殺されて怒ってるのかと思えば感謝のダンスを始めたり(身体の動きで感情を表現するのがこの世界の流儀らしいと後でわかるが)、いちいち感情の振れ幅が極端でやはり捉えどころがなかった。

それが劇場版だとどうだろう。ベルリの飄々としてる様は若干鳴りを潜め、複雑な心境はモノローグで語りだしたではないか。なんといってもテレビ版4話のドニエル艦長との"お互いに答える気がない面妖な会話劇"も一度で理解できる会話内容に修正されてる! アイーダアイーダで、ダンスはやめてちゃんと怒るし、5話で突然泣き出す前にはちゃんと葛藤するシーンを挿入している。キャラクターの感情の流れが自然になっているのだ。

テレビ版視聴時に強く望んだ「富野由悠季脚本をリライトしてくれる人がいれば……」という希望が富野総監督自身の手で達成されてしまった。富野総監督は反省できてエライ!

これだけテレビ版のママであり、且つテレビ版よりわかりやすく変化を果たした本作はいわゆる総集編映画の枠に収まるものではないだろう。芝居でいう"再演"とでも呼ぶのが適切なように思うがどうだろうか。

 

テレビ版より広い世界へ

第一部の追加シーンは上記のような人物描写がメイン。目立った追加メカ描写は冒頭と、1~2話間の新規移動シーン、あとはメガファウナ内のコア・ファイターのカットぐらいだろうか。けれどGセルフに限っては大部分のシーンでより安田朗氏のデザインに沿ったものに描き直されており、安田メカ好き的には嬉しいところ。Gセルフは瞳が新たにデジタル処理もされていて、よりキャラクターとして意志を持っているように見えるのも面白い趣向だ。

とはいえ本作を絶賛するのか、と問われるとそうも言いきれない。終盤のGセルフの凛々しさとアイーダの追加シーンでほだされてちょっと泣けたのも事実だが、初見でそんな気持ちをどれだけの人が喚起できるのか。やはりテレビアニメの5話までをくっつけたものであり、映画らしい起承転結の流れを見出すのは困難だ。また比較的わかりやすくなったとはいえ、似通った専門用語の多さや登場キャラクターの多さに混乱を覚えるのは必至。"キャピタル・テリトリィ"、"キャピタル・ガード"、"キャピタル・アーミィ"なんて単語を誰でもすぐに区別できるものではない。1週ごとに1話ずつ何度も見て理解を重ねることができるテレビ版とは違い、映画が初見なら全てを把握するのはどだい無理な話だろう。TV版とほぼ同じOP映像に映画としての高揚感を感じられなかったのも残念なところだ。

ただ富野総監督の過去のインタビューでは後半に行くにつれ新規作画シーンが増える旨の発言があり、今回の上映後に行われた講演でも「第二部以降OPが変わる」「結末は同じだがそこまでは全く違うものになる」「テレビ版より広い世界を描いていると確信している」といった発言があったので、第二部以降はより映画的な仕掛けが込められることだろう。

新たに再演される物語はきっとより豊かなものに生まれ変わるはず。まずはうまいこと良いスタートを切るためにテレビ版のファンはもちろん、テレビ版でノリきれなかった人にも見てもらいたい。きっと2周目&新規カットで随分見える世界が変わるはずだ。そしてテレビ版未見の方は、わかる/わからないは気にしないで良いと思う。Gレコの一番の魅力は、他のアニメではお目にかかることのできない個性豊かなキャラクターとメカニックによる活劇だ。そこに注目してもらえば、きっと好きになってもらえるはずだ。

まずは11月29日から始まる全国公開を楽しみに待っていてほしい。

 

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これで終わりでないのだから―『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン外伝 永遠と自動手記人形』

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京都アニメーション制作の『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン外伝 永遠と自動手記人形』の3週間限定でのイベント上映が始まった。記憶に新しい凄惨な事件からまだ2か月弱、京アニが再起動した!というわけではなく、事件の直前に完成していたので予定通りに公開日を迎えられたようだ。

せっかくなので、と言いたくはないのだが、素晴らしい映画なので今はただ多くの人に見てもらい気持ちでいっぱいだ。

 

まず本作は外伝、とついているだけに本編であるTVシリーズ全13話(とTV未放映エピソード1話)が存在しており、本作はTVシリーズの続きのエピソードだ。……と聞いても回れ右するのはちょっと待ってもらいたい。TVシリーズは主人公であるヴァイオレットが自動手記人形と呼ばれる手紙の代筆業を通じて、依頼人との心の交流、そして彼女自身の成長を描いた物語だった。そして今回描かれるのはやはり依頼人との交流エピソード。

なので「自動手記人形と呼ばれる架空の職業がある、架空の世界を舞台にした人情モノ」という前提さえ知っていれば本作単体でもばっちり見られる。それでも不安であればNETFLIXで配信されているTVシリーズを見るか、時間がないという人はTVシリーズ前半をまとめた5分動画を見てらえば十分だろう。


5分で分かるアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』第1回

 

本作は前述の通りイベント上映作品ということで正式には映倫を通したいわゆる"映画"ではない。ということは「上映時間が60分しかない」「むしろ30分しかない」「時間は長いけど各話をくっつけて垂れ流しただけ」「ただの総集編」といったイベント上映あるあるを見る前は想定してしまっていたのだが、そこは良い意味で裏切られた。

2部構成ではあるが1つの大きな物語を形作っているし(2部構成にせざるを得ない物語構造が上手い!)、90分という尺もアニメ映画であれば一般的。映像はTVシリーズよりもワイドなアスペクト比で情報量がアップしてリッチ。映画未満のイベント上映が蔓延る中、これは立派に映画と呼んで差し支えないものだろう。

 

本作で描かれるのはゲストキャラであるイザベラとテイラー、2人の姉妹の物語。それぞれ演じる寿美菜子悠木碧の芝居、そして京アニならではな情感あふれる絵の芝居が相まって、自然と2人から目が離せなくなっていた。特にテイラーの、(京アニ作品では珍しい表現に思える)白い歯を強調する笑顔がたまらない。子供らしい屈託のなさが愛くるしくて、子供の成長する姿ほど尊いものはないと思わされる。TVシリーズ10話のアンもそうだが、子供を真摯に描く京アニの姿勢は大好きだ。

 

ただ1本の映画として見たときに、ゲストを中心に据えた物語はこじんまりとしているように思えるし、際立った演出が少ない点は物足りなくも感じた。とはいえ監督の藤田春香さんは今回が初監督。次を担う人材を育てているからこその抜擢であろうし、藤田監督の次作以降に十分期待が持てるものであった。いずれTVシリーズの新作で監督を務めることもあるであろう。

 

そう、これで終わりで終わりでないのだから。

見ているとどうしても事件のことを思い出してしまい、映画のテーマである"永遠"についても深く考えずにいられなかった。けれど僕らが作品を見て、忘れないことが作品を永遠にすると信じるしかないだろう。

本作に続く『劇場版 ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』は現在公開時期未定となっており、予定されていた他の作品も同様だ。けれど今回の映画を見ることが、京都アニメーションへの応援になるのは確実だ。

本作はぜひ今、このタイミングだからこそ、多くの人に見てもらいたいと願わずにはいられない。

 

元気のGは劇場のGだった⁉︎ ガンダムGのレコンギスタミュージアムレポート

この秋劇場公開される『ガンダムGのレコンギスタ』を記念して博物館が建立されたという怪情報を聞きつけて我々は幕張メッセで8月24日、25日に開催されているC3AFAに飛んだ。

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現地で我々が目にしたのはその名もガンダムGのレコンギスタミュージアム。どうやら映画化すると博物館が立つらしい。

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キャッチコピーは「元気のGは劇場のG‼︎」…って、えぇ!? 元気のGは始まりのGだとばっかり思ってたのに…そんな…。

 

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会場内では世界観、キャラクター、メカなどをパネルで紹介。テレビ放映時の資料がほとんどなのでそんなに目新しいものはないか、と思いきや一際目を引いたのが劇場版用新規カットの絵コンテ! 公開はまだだいぶ先だというのに、こんなに見せていいのだろうか…。

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映画の冒頭3分が公開されたというステージイベントは見逃してしまったので残念だったものの、思ったより充実した展示内容だったので足を運んで良かった。

 

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他ブースには新商品も。ゆくゆくはマスターグレードのGセルフを、ぜひともバンダイ様…。

 

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最後に、仕事中のレッドショルダー富野監督を。今日もかわいい77歳。

 

ガンダムGのレコンギスタⅠ 行け!コアファイター』は2019年11月29日より2週間限定上映の予定だ。

http://g-reco.net

『天冥の標』はクロノ・トリガーでドラクエⅡ⁉︎ 小川一水先生ネタバレインタビュー@SF大会

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今年2月、全10巻(17冊構成)の大長編SF小説『天冥の標』シリーズを10年もの歳月をかけて完結させた小川一水先生。そんな小川先生への公開インタビューが、去る7/27、7/28に開催された第58回SF大会にて行われたので、その模様をレポートする。1ヶ月の大遅刻だが、今月20日の『ハイウイング・ストロール』、『群青神殿』復刊に合わせたということでひとつ。
なお『天冥の標』ネタバレ全開なので未読の方は回れ右……ではなく今すぐポチろう。
また録音してるわけではないので書き漏らし、書き間違いにはご容赦を。

 

 

【キャラクター人気投票結果発表】

小川一水先生(以下小川)、塩澤快浩氏(SFマガジン編集長、以下塩澤)氏が登場し、人気投票の結果から報告。全36票。
・3位  :アダムス・アウレーリア(3票)
・同率1位:ノルルスカイン、メララ・テルッセン(各4票)
 (4位以下の発表もあったが票がばらけ過ぎていて書ききれず)

塩澤:主人公のカドムに票が集まらないのは、キャラが立たないのが問題でしたね。話が大き過ぎてそれに見合う人間キャラが作れなかったように思います。
小川:なぜこの医者を主人公にしたのか(笑)。最終的に生き残って仕事したからまあいいか、とは思いますが。

――好きなキャラクターは?
小川:メララは好きだし、ノルルスカインは好きとかではないです。イエン・シャオチーはふくらませたかった。ロサリオは好きなので膨らませようと思ったがやめたキャラです。
塩澤:アンケートに誰も入れてない主要人物がいるんですが……ラゴスなんですけど。
小川:男性なのか両性なのか、ふらふらしてしまいました。今後もきっと出てきます。ラゴスそのものではないですが(?)、ああいうめんどくさいキャラクターは。ちなみに彼には元々、大工としての技術を駆使して、壁を作って超新星爆発から守る、というような構想もありました。

 

【最初の構想】

――最初の構想は?
小川:10巻構成で各巻趣向を変えよう、と。どの巻から読んでもいいぐらいな気持ちで始めたました。
塩澤:『第六大陸』のころから書ける人だと思いましたが、女の子が好きであったりとか、ジュブナイル臭がありました。女の子なしでシチュエーションだけで、と依頼して描いてもらったのが『漂った男』、そこから発展したのが『天蓋の砦』です。ただあまりに潤いがない作品だったので、その頃の小川先生は猫拾っちゃってましたね(笑)。ただ、これでなんでも書けると思いました。
『天冥の標』は『ハイペリオン』をやってほしいという気持ちから。その頃は大手から声がかかり始めてたので捨てられないようにと思って(笑)、毎年のように書いてもらいました。
小川:10万部ずつ売れたらいいなと思ったんですが……。
塩澤:『グイン・サーガ』に代わるシリーズになれば、という社内の期待はありましたね。

――「『ハイペリオン』みたいなの」と言われてどうでしたか?
小川:できるかな、とは思いました。時間要素まで入れると終わらないので時間線は一本にしましたが。

 

【意識した先行作品】

――外の世界がある、という点で意識した先行作品は?
小川ハインラインの『宇宙の孤児』です。

――家畜をテーマにした点は?
小川:『幼年期の終わり』でしょうか。でもあんまり意識した作品はないかな。

――イサリ、ミヒルについては?
小川:『』(作品名聞き取れず、イサリ、ミヒル姉妹のベースになった少女漫画らしい)
塩澤:「『ハイペリオン』を」とお願いしましたけど小川一水のモチベーションはこの作品ですからね。
小川:Ⅹ巻PART2での2人の決着シーンは何度か書き直しました。うまいこと憎しみあって戦ってほしいと思って。

 

【各巻について】

――トリッキーな構成にした理由は?
小川:『クロノ・トリガー』がありますよね。2巻で突然ぶっとぶという展開をやりたかった。

――冥王斑について
小川小松左京の『復活の日』。小松左京狂牛病を予言していたのではないでしょうか。あと鳥インフルエンザですね。パンデミックが起こりそうという気がしていました。『北アルプスペスト事件』というのを読んだのも影響しています。

――青葉が最後の最後に出ましたが、そこについては?
小川:Ⅹ巻PART1のチカヤ晩年の執筆時に思いつきました。本当は断章が一から最後まで繋がるといいなと思って始めたが、そうはならなかった。Ⅹ巻に断章九から八一を書くとかしてもよかったが、体力が尽きたので。ノルルスカインやミスチフが裏でやってたこととかを書きたかったんですが。

――Ⅱ巻からⅢ巻の間でまた時間を飛ばしたのは?
小川:200年ほど飛ばしたのは、こんぐらい飛ぶシリーズだぞと見せたかったからです。あと、宇宙戦艦を書きたかった。

――アンチオックスは宗教国家でロイズとは対比的でした。アンチオックスの造形はどこから?
小川:宗教国家を出したのはかっこいいから。これまで理性的で話がわかる人を書いてきましたが、たまには好き勝手やる人たちを書いてみたくなって。ロイズは国家じゃないものが覇権を握るものを書きたくて生まれたものです。笹本祐一の書いたガーランドジャンクション(『スターダスト・シティ』)みたいに。

――火星に人がいないのはなぜでしょうか?
小川:火星もののテンプレを書きたくなかったからレッドリートを蒔きました。地球も書きたくなかった。地球の人口20億人、は説得力ある数字ではなかったですが。

――Ⅳ巻について。ラバーズとオムニフロラは対極的に見えますが。
小川:偶然そうなりました。従う喜びみたいな、マゾヒスティックな面は書けなかったですが。
塩澤:Ⅳ巻はなんであんなことになったんでしたっけ(笑)?
小川表現規制が当時問題になってたので反発した結果です。あと、エロは好きですから。
塩澤:最終的には良かったなーと思いましたが、Ⅳ巻がなければ売り上げがもっと上がったのでは、とも思いましたがどうでしょうか。せっかくなのでアンケートをとってみましょう。
(あまり賛成の挙手は上がらず)
塩澤:大勢に影響なし、と(笑)。でもⅣ巻からⅤ巻で売り上げが目に見えて落ちたというわけではないです。
小川:Ⅳ巻では教師と生徒のシーンが一番好きでした。女生徒がシチュエーションを作り上げてるのが良いですよね。

――Ⅴ巻について。なぜノルルスカインは羊なのでしょうか?
小川:かわいいからです。『電気羊はアンドロイドの夢を見るか』は意識してないです。たまたま。キリスト教とも被せてません。

――ツェンバーガーについて
小川:当時外伝短編を書いたのを5巻最後にもってきて、ああいう形になりました。
塩澤:ちなみにⅤ巻は他の話になるかもしれなかったんですよね?
小川:書こうとしてる時にちょうど震災が起こったので、仙台を舞台にサラリーマンが津波から農業を復興して、そこにノルルスカインが関わるという東日本応援話にしようという構想もありました。だだ、宇宙の話とうまく照合しなくて流れたんですが。

――Ⅵ巻について
塩澤:3分冊にしたのは失敗したなー、と思ってます。小川さんは分量の見通しが立たない人。Ⅰ巻は厚いのはよくないと思ったから分けただけだったのに。
小川:そこはしっかり書いてほしい、というオーダーがあったからですよ。
塩澤:でも面白すぎるじゃないですか! ここがクライマックスで。この後どうするのかなと思いました。
小川ハーゴン(『ドラゴンクエストⅡ』)を倒した後に一旦物語が沈むんですよ。そこからラスボスへ!と。Ⅶ巻があるから大丈夫だと思ってました。

――Ⅶ巻では、サンドラが新しい電源見つけてきたと言って嘘ついたじゃないですか。あれはどういう経緯だったんでしょうか?
小川:サンドラとしては、政治的に使えそうなものがあればと割り切ってノルルスカインを利用していたまでです。

――Ⅷ巻では、テクノロジーが気になりました。セレスの航行に300年かかったのはなぜでしょうか?
小川:セレスは亜光速。Cシップはオーバーテクノロジーなので差が出ました。最初はオーバーテクノロジー出すつもりがなかったんですが。

――光影の小径(チホル・ニス・ホツル)について
小川:ワープっていうとつまらないじゃないですか。そこで超次元からつまんでもらう、という形に。ただ、ハードSFか?と聞かれたら、違いますねと言わざるを得なくなりました。

――メタ進化とは何でしょうか?
小川:進化に任せる星と人意に任せる星の生存競争です。宇宙は人間に興味ないという理論は好きでないので……(このあと長い説明があったが書き切れず)

――キャラクターたちのその後はどのように考えていますか?
小川:作中以上のことは読者のご想像にお任せします。

――エピローグでは救世群(プラクティス)の漢字が"救生群"へと変化していました
小川:弱者救済組織、と書くと楽観はできませんが、そういうことをやっている組織と思ってもらえればと。

――心残りはありますか?
小川:ありません。とりあえずやりきったんで、書き終えた当時は次が浮かばないくらいでした。今は次に取り掛かっていますが。
塩澤:『三体』はまだ読んでないんですが、『天冥の標』にもゲームネタをやるような話もありましたよね? 可能性の話として、やってたらどうなってたかな、という気持ちはあります。
文句を言うと、もうちょっと短くなったかなと。長いと部数落ちてくるので……。
小川:最後の2年はずっとお金を借りて書いてるぐらいでした(笑)

 

【その場で読者から質問】

――オムニフロラはなぜワープ技術を手に入れられなかったのでしょうか?
小川:みんなが必死に隠していたから。手に入れたら逃げていました。

――Ⅲ巻の艦隊戦は推力計算などしていましたか?
小川:移動時間とかは本当っぽくしていました。惑星の配置は物語で矛盾が生じない程度に。

――Ⅹ巻PART3の最後のシーンの日付の意図は?
小川:発売日に合わせたものです。

――作り込み過ぎたと思うことはありましたか?
小川:登場人物が多いのは大変でしたがわかってたので、やらないとは思わなかったし後悔もないです。Ⅷ巻までの枠組みは最初からありました。Ⅸ巻とⅩ巻は余裕、マージンとして用意していました。
塩澤:Ⅸ巻以降でもう一回ひっくり返して、というリクエストはしましたね。
小川:ノルルスカインとミスチフ、人類を絡めないでと言われていましたが……。
塩澤:展開を考えるための打ち合わせでは要素カードを並べていったんですが、100枚にもなってどうにもならなかったです(笑)。

 

【最後に】

塩澤:『三体』がすごく売れてます。9万部! まだ読んでないですが、多分『天冥の標』の方が面白いです。どうにかしたい!
小川:これより上のものを書けるか今はまだわからないですが、今後もよろしくお願いします。 

最後に百合SFアンソロ『アステリズムに花束を』収録の中編が独立して刊行(長編化?短編集?)されることが発表され、閉会となった。

 

記事をここまで読んでまだ『天冥の標』を読んでない、という人はいないとは思うが、『三体』よりも面白い、と言わせしめる最新国産大長編SF小説を読まずにおくのは人生の損失であることは間違いない。17冊もあるとはいえ、900年を跨ぐ未来群像絵巻は読み始めたらあっという間に感じる面白さだ。完結した今こそ、読んでみては。

 

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【ゴジラ/エヴァファンは必修レベル】エヴァに振り回され日記③ 大阪・「ゴジラ対エヴァンゲリオン」編

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随分時間が空いてしまったけれどいい加減に復帰したいと思う。というわけでエヴァ日記完結編としてユニバーサルスタジオジャパンで公開中の『ゴジラエヴァンゲリオン・ザ・リアル 4-D』について紹介する。

エヴァに振り回され日記① 東京・『シン・エヴァンゲリオン劇場版』0706作戦編 - ゲーマーズライフ

エヴァに振り回され日記② 福岡・「エヴァンゲリオン 使徒、博多襲来」編 - ゲーマーズライフ

 

USJといえば2017年に公開されたゴジラの4D映画とエヴァンゲリオンVRライドアトラクションにいたく感動したのが思い出深かったので、今回新しく『ゴジラエヴァンゲリオン』が公開されたと聞き居ても立っても居られなくなり6月末に体験した次第。……そこには2017年を超えるさらなる感動が待ち受けていた。

www.usj.co.jp

 

本作は、これまでグッズやコンサートなどで展開してきた謎のコラボコンテンツゴジラエヴァンゲリオン」の初映像化作品。第三新大阪市に配備されたエヴァンゲリオンが襲い来るゴジラと対峙するというストーリーだが、組み合わせの奇抜さのみならずなんといっても4Dの臨場感が抜群だ。いまでこそ4DXやMX4Dといった映像に合わせて席が動く映画はありふれたものになったが、所詮は4D効果を後付けしたもの。4D専用に作られた本作では劇場が輸送機に、スクリーンが輸送機のメインカメラに見立てられ全てが主観視点で展開されるので一般的な4D映画の迫力とは雲泥の差だ。

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輸送機はゴジラの攻撃を受けて落下しあわや、となるがエヴァが救助。しかしエヴァに抱えられ、大阪の街を跳ねまわりながら戦闘に巻き込まれていく。崩壊していく街の様子は精密に描かれ、同行した地元友人は鑑賞後に「輸送機が落下して天井ぶち抜いたところは阪急のホームで~」などと地図に照らし合わせながら戦闘経過を教えてくれた。大阪中をぶっこわすためのロケハンはさぞ楽しかったろうと想像してしまう。

そして更に襲い掛かるのがこの映像のためだけに新規造形されたキングギドラだ。輸送機に乗りながらギドラの頭から首、背、尾までを主観視点でなめるカットがあり、これがもう、本当に堪らない。あれは今までの人生で、怪獣を最も肌で感じた一瞬だった。

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足が特徴的な独特のデザイン

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背中が美しい

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左からKOMギドラ、USJギドラ、アニゴジギドラ

度肝を抜かれる最終決戦はぜひその目で確かめてほしい。あれはもしかしたら『シン・エヴァンゲリオン劇場版』への伏線、だったのかもしれない。

 

ゴジラにしろエヴァンゲリオンにしろ、本編以外の映像作品はこれまで山のように作られてきたが、ここまで面白く大胆で、完成度の高いものはないに違いない。ゴジラファンもエヴァファンも、本作のためだけにUSJへ行っても絶対に満足するはずだ。会期は8/25まで。お近くの方も、そうでない方もぜひ。

 

前に進む力をくれる物語を-映画『天気の子』

昨日の大変痛ましい事件に気が滅入っていたのだが、何もできないので予定通り映画『天気の子』を見た。

 

映画を見ている間は事件のことを忘れることができたし、とても前向きな物語に背中を押されるようだった。

幾分やり過ぎな終盤の展開は昔からのファンとしてはニヤリとするものだったが『言の葉の庭』、『君の名は。』あたりからついたファンは椅子から転げ落ちるかもしれない。新海誠監督は、いもしない「一般客」の影を追わず若い客層の方を向いているようだ。

劇中のキャラクターに現代社会を指して「狂った世界」とまで言わせしめるシーンがあり、昨日の事件を思い起こさずにいられなかったが、それでも、でも、とその先に進もうとする強い物語には心撃たれ、涙が止まらなかった。

 

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映画館に入る前まではシトシトと小雨模様だったが、映画が終わるとカンカン照り。さすが新海監督、天気も味方にする勢いだ。

 

今日はこれぐらいで。