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これで終わりでないのだから―『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン外伝 永遠と自動手記人形』

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京都アニメーション制作の『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン外伝 永遠と自動手記人形』の3週間限定でのイベント上映が始まった。記憶に新しい凄惨な事件からまだ2か月弱、京アニが再起動した!というわけではなく、事件の直前に完成していたので予定通りに公開日を迎えられたようだ。

せっかくなので、と言いたくはないのだが、素晴らしい映画なので今はただ多くの人に見てもらい気持ちでいっぱいだ。

 

まず本作は外伝、とついているだけに本編であるTVシリーズ全13話(とTV未放映エピソード1話)が存在しており、本作はTVシリーズの続きのエピソードだ。……と聞いても回れ右するのはちょっと待ってもらいたい。TVシリーズは主人公であるヴァイオレットが自動手記人形と呼ばれる手紙の代筆業を通じて、依頼人との心の交流、そして彼女自身の成長を描いた物語だった。そして今回描かれるのはやはり依頼人との交流エピソード。

なので「自動手記人形と呼ばれる架空の職業がある、架空の世界を舞台にした人情モノ」という前提さえ知っていれば本作単体でもばっちり見られる。それでも不安であればNETFLIXで配信されているTVシリーズを見るか、時間がないという人はTVシリーズ前半をまとめた5分動画を見てらえば十分だろう。


5分で分かるアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』第1回

 

本作は前述の通りイベント上映作品ということで正式には映倫を通したいわゆる"映画"ではない。ということは「上映時間が60分しかない」「むしろ30分しかない」「時間は長いけど各話をくっつけて垂れ流しただけ」「ただの総集編」といったイベント上映あるあるを見る前は想定してしまっていたのだが、そこは良い意味で裏切られた。

2部構成ではあるが1つの大きな物語を形作っているし(2部構成にせざるを得ない物語構造が上手い!)、90分という尺もアニメ映画であれば一般的。映像はTVシリーズよりもワイドなアスペクト比で情報量がアップしてリッチ。映画未満のイベント上映が蔓延る中、これは立派に映画と呼んで差し支えないものだろう。

 

本作で描かれるのはゲストキャラであるイザベラとテイラー、2人の姉妹の物語。それぞれ演じる寿美菜子悠木碧の芝居、そして京アニならではな情感あふれる絵の芝居が相まって、自然と2人から目が離せなくなっていた。特にテイラーの、(京アニ作品では珍しい表現に思える)白い歯を強調する笑顔がたまらない。子供らしい屈託のなさが愛くるしくて、子供の成長する姿ほど尊いものはないと思わされる。TVシリーズ10話のアンもそうだが、子供を真摯に描く京アニの姿勢は大好きだ。

 

ただ1本の映画として見たときに、ゲストを中心に据えた物語はこじんまりとしているように思えるし、際立った演出が少ない点は物足りなくも感じた。とはいえ監督の藤田春香さんは今回が初監督。次を担う人材を育てているからこその抜擢であろうし、藤田監督の次作以降に十分期待が持てるものであった。いずれTVシリーズの新作で監督を務めることもあるであろう。

 

そう、これで終わりで終わりでないのだから。

見ているとどうしても事件のことを思い出してしまい、映画のテーマである"永遠"についても深く考えずにいられなかった。けれど僕らが作品を見て、忘れないことが作品を永遠にすると信じるしかないだろう。

本作に続く『劇場版 ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』は現在公開時期未定となっており、予定されていた他の作品も同様だ。けれど今回の映画を見ることが、京都アニメーションへの応援になるのは確実だ。

本作はぜひ今、このタイミングだからこそ、多くの人に見てもらいたいと願わずにはいられない。