ユウキズ・ダイアリー

アニメ・映画・ゲームについての雑記

『竜とそばかすの姫』と脚本の完成度

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細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』を見て最初に感じたのは脚本の完成度の低さだった。

 

近年の細田監督作品では毎度のことなのだが、大風呂敷を広げる割に設定が穴だらけで、キャラクターも明後日の方向に走り出してしまう。

そもそも「U」の世界は50億ものユーザーにどう利用されてるのだろうか(『サマーウォーズ』の「OZ」と違うの?)。そしてなぜ誰しもが執拗に竜とベルの正体を詮索するのか。

終盤、なぜすずはあんな大げさなことをしたのか(画面越しに歌えばよくない…?)、一人で駆け出すすずをがん首揃えた大人たちがなぜ一人も止めないのか、なぜ街中で彼らを闇雲に探しだして見つかると思うのか。

疑問が尽きない脚本を書いているのは監督本人。書くべきことが書かれてないし、大勢のキャラクターを生み出しても活かしきれてない。脚本が詰め切れてないのはつっこむ人がいないからだろうか。

 

とはいえ脚本が雑であっても、この作品の魅力は他に十分あるとも思った。

Uのビジュアルは広大で吸い込まれそうになったし、そこで披露されるベルの荘厳な歌唱シーンには胸が高鳴った。

転じて高知の素朴な町並みと、そこで今を懸命に生きる高校生らのドタバタ劇や恋愛模様には日本映画らしい情緒を感じた。校舎内や駅舎での横パンを駆使した演出は細田守ここにありという演出で、氏の長年のファンとしてはもうそこだけでご馳走様という気分。

 

脚本の完成度については最近よく考えさせられる。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を初めて見たとき「なんだこのひどい脚本は!!」と思ったものだけど、何度か見返していたらビジュアルのかっこよさは新劇場版シリーズ1ではないかと思うようになった。

Gのレコンギスタ』はコミュニケーションが成立していないシーンばかりで各キャラがどういう感情で動いてるのかさっぱりわからなかったけど、メカやキャラが個性的で、アクションがかっこいいので何度も見返すくらい好きになっていた。

ゴジラシリーズの近作『ゴジラS.P』はSF設定が高尚でぶっ飛びすぎてるし、逆に『ゴジラVSコング』はキャラクターが揃いも揃ってバカしかいないと振れ幅が広すぎる。でも『ゴジラS.P』は中サイズの怪獣バトル描写が新鮮で、釘宮・久野の達者な声の芝居にも毎週楽しませてもらった。『ゴジラVSコング』は怪獣同士の超巨大バトルがゴジラシリーズ1と言いたいくらい痛快で楽しい。

 

『竜とそばかすの姫』の話に戻ると、脚本の穴以上に好きな点が多いので満足できるものだった。大スクリーンに映える映像としての完成度は、細田監督作品で一番なのは間違いない。

映像作品において脚本はもちろん大事な中核だけど、全てではないし、そればっかり気にしていると他の良いところが見えなくなってしまう。もちろん自分にも許せる限度はあるし、その許容量は人によってまちまちだというのも理解している。ただ、他に良いところがあれば評価することを忘れないようにしたい。