ユウキズ・ダイアリー

アニメ・映画・ゲームについての雑記

富野由悠季の集大成『GのレコンギスタⅤ 死線を越えて』

f:id:massan-222:20220809102808j:image

富野由悠季総監督による「Gのレコンギスタ」シリーズ完結編『Gのレコンギスタ死線を越えて』が公開された。圧巻の映像は身じろぎせず見入ってしまうもので、これぞ富野由悠季氏の集大成と呼ぶにふさわしい映画となっていた。TV版は「ドタバタロボット活劇」という言い方しか出来なかったGレコだが、劇場版として再編集されたことで「テクノロジーへの警鐘」「愛こそが生きていくのに必要なもの」というテーマを明確に受け取れる映像に大きく進化していたのだ。

 

イデオン 発動編』を彷彿とさせる破滅的戦場描写

劇場版「Gのレコンギスタ」シリーズは、事前のアナウンスから「TV版からの変化は最小限」「第4部のみ大きくテコ入れ」と聞いており、確かに第4部の変化は目を見張るものだった。

『GのレコンギスタⅣ 激闘に叫ぶ愛』が新規戦闘シーン追加というタブー破りをした理由 - ゲーマーズライフ

そのためテレビ版最終23話から最終話(26話)までを編集した今作第5部のバトルシーンには過度な期待はしていなかったのだが、息継ぎもできないバトルの連続は圧巻という他ないものだった。1つの大きな戦闘を局面を変えながら描くという構成は、富野作品としては『イデオン 発動編』以来だろうか。テレビ版とほとんど変わらないはずなのに、一連の戦闘と見ることで、複数の陣営による混戦がすっとわかりやすいものになっていた。

兵器の性能に溺れ、次々と命を落としていくキャラクターの末路もやはり『イデオン 発動編』そのもの。イデオンに限らず富野氏が繰り返し描いてきた「テクノロジーへの警鐘」、直近のインタビュー記事から言葉を借りるなら「ポスト資本主義」を強く感じるものだった。

映像の力はもちろんだが、ロシアのウクライナ侵攻に揺れ、エネルギー不足、急激なインフレに苦しむ2022年だからこそ、このメッセージからより強い危機感を感じてしまう。テレビ版『Gのレコンギスタ』が放送されたのは2014年だというのに! 富野由悠季の先見の明には驚かされるばかりだ。

 

『劇場版Zガンダム』を思い起こす人間模様

ドラマパートについても、エピローグを除けば大きな追加シーンはない。ないにも関わらず、テレビ版と同じシーンでも全く違う印象を抱いてしまうのがこの映画の一番のマジックだ。劇場版Gレコシリーズではこれまでの4作に渡り、キャラクターの関係性を掘り下げるシーン追加によって

「ベルリは人並みに苦しむ、思春期まっさかり鈍感男子」

アイーダはがんじがらめの責任感を乗り越え、覚悟を決めた未来のリーダー」

「ノレドのベルリへの愛情はんぱない」

といったことが見えてきた。既に掘り下げが完了したところからスタートする本作では、余計なシーンを足さずとも、声をあてる演者側も、受け取る我々観客側も、テレビ版と違う気分で接することができるようになったということだろう。徐々にキャラクターの心象を方向修正し、「愛」をテーマにテレビ版からガラッとエンディングを変更した『劇場版Zガンダム』と同じ手法が用いられたように思える。

 

ターンエーガンダム』なエピローグ

そうした方向修正が帰結するのがエピローグパートだ。エピローグでは複数のシーン・セリフが追加されたことで、各キャラクターに抱く印象が大きく変わるものになっているのだが、4部までの掘り下げがあるからこそ唐突に感じることはなかった。

ラストシーンについては、以前のインタビュー記事から予想していたものから大きく異なるものではなかったが、予想を超える演出には唸らされた。『ターンエーガンダム』が重なる描写にグッと来るし、なんなら勝手に『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』さえ重ねてしまった。ただこれらが「閉じる」終わり方だったのに対し、Gレコは「開いた」終わり方。ターンエーから20年経って、未来のある終わりを提示してくれたGレコには嬉しさを覚える。

ガンダムエース」誌面にて2010年10月に公開されたプロローグ小説『はじめたいキャピタルGの物語』からはや12年。2014年のテレビ版で完結と思いきや、2019年から劇場版が始まり、併せて「富野由悠季の世界」展も開催。このところ供給過多に嬉しい悲鳴をあげる毎日だったが、ついに終わりを迎えてしまった。

終わるのは寂しいけれど、こんなに前向きな劇場版を見せてくれたのだ。晩年を賭して、最高の作品を最後まで描き切ってくれた富野由悠季総監督には大きな感謝と、敬意を表したい。受け取ったメッセージを大事にして、これからは自分と、社会を豊かにすることを考えて生きていこうと思う。

 

Gのレコンギスタ死線を越えて』は全国劇場にて絶賛公開中。前作『GのレコンギスタⅣ 激闘に叫ぶ愛』も引き続き公開中だ。

 


www.youtube.com