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怪獣王が目覚めさせた庵野秀明  『シン・ゴジラ』レビュー

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シン・ゴジラ』を初めて映画館で見たとき、溢れ出る涙が止まらなかった。クライマックスとかエンディングではなく、もう最初の最初、ゴジラの尻尾が海面に現れたあたりから。胸の中を1つの気持ちが満たしていたからだ。

「ああ、ゴジラ庵野が帰ってきた」

 

私がゴジラに出会ったのは幼稚園児の頃に映画館で見た『ゴジラVSキングギドラ』。怪獣を見るのが初めてだったばかりか、未来人も恐竜もサイボーグもてんこ盛りのトンデモストーリーに熱狂した幼少の私は、ムック本を飽きることなく読み耽りすっかりゴジラ大好きキッズになっていた。その後も毎年量産される『VS』シリーズを観賞するのは我が家の恒例行事となったのだが……、シリーズは『ゴジラVSデストロイア』で突然の終止符を迎えた。それ以来、日米を跨いで何度か復活を遂げてはいたが、技術的にも内容的にもリアリティを感じない『ゴジラ2000 ミレニアム』で日本製ゴジラにはすっかり辟易してしまったし、2014年のギャレス・エドワーズ監督の『ゴジラ』も映画としてはよくできているが、自分の見知ったゴジラとは同じ怪獣には思えなかった。

私の中のゴジラは1995年以降、眠りについたままだった。

 

そして庵野氏本人も、長いこと眠りについていたのだと思う。

ゴジラと入れ替わるかのように、リアルタイムでエヴァンゲリオンを視聴していた私ではあるが、小学4年生当時の身では終盤の展開には全く理解が追いつかず、あまり傾倒するようなことはなく社会現象を一歩引いた目線で見ていたに過ぎなかった。

ブームが去ったあと、庵野氏の作品は幾つも視聴し、エヴァンゲリオンも見直して、不世出の天才だと思うに至ったのだが……、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』として戻ってきたエヴァには、どうにも庵野氏の匂いが感じられずにいた。シリーズで1番好きなのは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』だが、新キャラマリや『破』独特の軽妙さは鶴巻和哉監督作品のもつそれだし、それこそ『序』は後半のコンテを切った樋口真嗣氏の、『Q』は新参戦の前田真広監督の匂いが色濃いと思っている。そこには初監督アニメ『トップをねらえ!』から、テレビアニメ監督作としては現在最後となっている『彼氏彼女の事情』まで紡いできた庵野氏の美学が、魂がこもっておらず、お仕事として、エヴァンゲリオンを終わらせようとしているだけに感じられてしまった。実際のところ、『Q』制作後は鬱になってしまい、シリーズを停滞させてしまったことを後述している。

 

そんな庵野氏が総監督として、ゴジラを目覚めさせてくれた。私が『シン・ゴジラ』に感激したのは、「庵野秀明が全力で好きなものをさらけ出して、怖いゴジラを撮ってくれた」からだ。

今回のゴジラに対して、やれ震災がどうだ、九条がどうだ、右だ左だという批評も多く上がっているようだが、そういった裏読みは本質ではないと思う。今の時代に最も観客を震え上がらせる怖さを持っているのが地震津波放射能汚染という3.11の記憶であり、それをメタファーとすることで「怖いゴジラ」、幼少の時分では確かに思っていた、怖くて、強くて、かっこよくて、神々しい、そんなゴジラをもう一度スクリーンに呼び戻してくれただけなのだ(もちろん裏読みしたい人には勝手にどうぞとぶん投げてもいるのだろう)。

またそういった3.11後のゴジラという大義名分を笠に着て、庵野氏がやり遂げたのは全力の自己表現だ。開始5分で次々と繰り出される庵野氏の得意技(素早いカット割り、独特のレイアウト)や、画面を埋め尽くすガジェット(自衛隊の各戦力や、工場、鉄道、電線、プロトンビーム、モニタに映るアニメ、ファイルの表紙に踊る2199の文字に至るまで)には監督の愛と遊び心と、自身が見たいもの、見せたいものを目一杯詰め込んだのだろう。それらは巨匠から継承したスキルであったり、自身のただの趣味ではあるが、アニメという、エヴァという枠のなかで培われたものを実写映画の世界で昇華することで、今まで表現したかった、できなかったことをあらん限りの力で実現できたのだと思う。

ゴジラ庵野氏自身をも目覚めさせてくれたのだ。

 

『VS』シリーズを見て育った私としては、怪獣プロレスもまた見てみたい。『シン・ゴジラ』でハードルの上がった観客の目を満足させなくてはいけない東宝はこれから大変だろうが、今作に負けない「リアリティのある怖さ」を持った怪獣映画をこれからも生み出してもらいたい。

ただそこには庵野氏は必要ないと思う。役目を果たした庵野氏は自分の会社カラーで『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』を終わらせて、その先も見据えてほしいと思うのがファンとしての願いだ。カラーの近作としてはPS4ソフト『GRAVITY DAZE 2』の同梱アニメや、短編アニメ『機動警察パトレイバーREBOOT』(エグゼクティブプロデューサー庵野秀明!)などが予定されている。既にエヴァだけの会社ではないのだ。

既に『もののけ姫』当時の宮崎駿氏と同じ年齢、とすると作家人生はあと20年ほどかもしれないが、目覚めた庵野氏がこれからどんな映像作品を残していくのか、楽しみで仕方がない。