ユウキズ・ダイアリー

アニメ・映画・ゲームについての雑記

軌道エレベーターに萌えろ――『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』

人は誰しも、広く遠い空に憧れを抱く時があるだろう。

20年前、学生時分だった私はアニメに傾倒してからというもの暗い自室で往年の名作を片っ端から再生する日々を過ごしていたが、そこで一本の映画に出会った。『マクロスプラス MOVIE EDITION』だ。エレクトロミュージックをバックに描かれるイサムとガルドの血が滾るドッグファイトに魅せられた私は部屋を抜け出し大空を翔けるパイロットを目指し勉学に励み出し……たわけではなく、ゲーム店に向かって空を飛ぶゲームを物色し、そこで更に出会ったのがエレクトロミュージックをバックに架空戦闘機とドッグファイトを繰り広げるSFシューティングゲームエースコンバット3 エレクトロスフィア』だった。「アニメで見たやつを自分で体験できるじゃん!!」と衝撃を受けて今度はゲームに傾倒することに……。

そんな思い出と共にシリーズを追いかけ出した私にとって、2007年発売の『エースコンバット6 解放への戦火』以来12年もの間待ちわびてきたナンバリング最新作エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』が発売された。

一通り遊び終えて思うのは、本作が伝統と革新の両面を打ち出した野心作であるということだ。

 

  • 「伝統」のキャンペーンモード

まずゲームのメインであるキャンペーンモードに触れると、良くも悪くも『エースコンバット4』から『同6』までのプレイフィールと何ら変わらない。実在の軍用機に搭乗し、360度広がる広大な空間で敵機との空中戦を楽しむステージクリア型のフライトシューティングゲーム(フライトシミュレーターほどに難解ではないが、縦/横スクロールシューティングよりは操作が複雑)という基本は一緒。あてにならないブリーフィングや、やたらと多い対地爆撃ミッションも残念ながらいつも通り。無線通話を通して英雄のように持ち上げられのはいつも通りで、気持ちが良い。

大きく進化を遂げたのは雲の表現だ。これまではあくまでちょっとした背景程度だった雲がハードウェアの恩恵をうけてグレードアップ。見た目のモコモコフワフワ感に加え、雲に入ると視界が封じられ、時には雨や雷も猛威をふるうことで存在感が大きく増しており、雲マニアには堪らない。敵機のミサイルを振り切れるという利点もあり、ゲームとしては新たなアクセントになっている。

またエースコンバットといえばストーリーも大事な要素。今作はシリーズ屈指の人気作『エースコンバット04』、『同5』のイベントシーンを手がけた片渕須直氏が再び脚本を手がけている。片渕須直氏といえば監督作である映画『この世界の片隅に』(2016年の公開以来未だロングラン上映中!!)で注目を浴び一躍時の人となったが、私自身は『エースコンバット04』の情緒的なアニメーションに感銘を受けて以来ずっと追いかけてきた方なので凱旋を見ているかのようで感慨深いものがある。今作はプレイヤーの航跡を敵味方両軍の視点から追いかける形をとっており、過去作ともまた違った趣に最後まで楽しませてもらった。特に終盤の畳みかけるような展開が非常に熱い! 片淵ファンとしては、主に原作付き作品を手がける氏による完全オリジナルストーリーが楽しめるのも嬉しいところ。スタジオカラー所属で今作ではシネマティクスディレクターを手がける吉﨑響氏(日本アニメ(ーター)見本市『ME! ME! ME!』監督)によるCGと実写取り込みを織り交ぜた特異な映像も、盛り上がりに一役買っているように思う。

ただ表面的な変化は大きいものの、12年待ったとは思えないほどエースコンバット6』からの内面的変化は乏しい。小回りに旋回しながら敵機のロックオンを引き剥がし、豆粒大の標的にロックオンしてシュートする繰り返し。懐かしさこそ感じるが、新たな駆け引きは感じられない。大きく変え、それ故に批判の声も大きかった外伝作品『エースコンバット アサルトホライゾン』からの反動だろうとも思うが、過去作にあった僚機への指示やアクションマニューバも無くなったことで戦略性もコントローラ操作もシンプルになった。雲を利用してほしいという開発側の意図は感じるが、ステージにより配置も形状も異なる雲を使いこなすのはなかなかに困難だ。

もちろんハードの進化と共に見た目がグレードアップしているので実在の軍用機に乗れるだけで楽しい!という層には響くだろう。しかし多くのプレイヤーに向けて、機体やスキンの収集、高難易度やハイスコア狙いといったいつも通りのリプレイ要素以外に、もっと繰り返し遊びたくなる新鮮な要素が欲しかったというのは本音だ。

 

  • 「革新」のVRモード

一方で驚きを覚えたのがVRモードだ。エースコンバットVR化しただけで操作方法もほとんど変わりないのに、目の前に広がる全てが新しく、楽しい。

PS VRを被るとそこに見えるのは狭い操縦席。機体にすっぽりと包まれたような気分になり自然と体が動かせなくなるが、ぐるり360度見渡せるのが新鮮。しかし適当に飛び回っていると雲に突入してしまい前後不覚になり、視界が晴れたと思ったら直後海面に突撃して爆死……死の棺桶に乗るとはこういうことかと身をもって体験したら笑いが止まらなくなってしまった。

そしてドッグファイトがやたらと楽しいのは目で敵機を追えるようになったからだろう。普段の操作ではボタン長押しで敵機を正面に捉えていたのが、 VRでは自身の目で周囲をぐるぐる見回し敵機を追える。『劇場版カウボーイビバップ 天国の扉』でスパイクがやってたやつである。この操縦感には興奮するしかない。

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スパイクがやってたやつ

VR化しただけ、とはいえそうそう単純なものではなく、操縦席内のモデリングはキャンペーンモードのそれよりさらに詳細に描画されているし(なにしろ見渡せる範囲がグッと広い)、敵機がやたら接近戦を仕掛けてくることから察するとおそらくアルゴリズムも独自のもの。激しく動くがVR酔いを感じることもなく、VR ZONEやサマーレッスンで培われたバンダイナムコの技術の粋が結集しているのを感じる。

3ステージしかなく、機体も3機までと少ないのが残念な点ではあるが、 VRに特化したまるで別のゲームが入ってると考えると十分すぎるぐらいだ。

 

  • シチュエーションに萌えるなら

ここまで書いてきたように本作は大きく2つの要素で構成されており(他にオンライン対戦モードもあるが)、合わせて遊ぶと伝統と革新の両面を堪能することができる。

……できるのだが、VRモードはPS VRを持っていないと遊べないのが最大の難点だ。本作はXBOX ONE版も発売されており、来月にはPC版も発売予定だが、それらのバージョンにはそもそもVRモードが搭載されてすらいない。私自身は上述の通り遊び倒したが、どれほどの人がVRを体験できたのだろうか。環境により体験に大きな差が出るのは間違いないのでこれから遊ぶ人はぜひPS4版を、そしてPS VRの購入も一緒に検討すべきだ。今さら買うのに躊躇するとか言わないでくれ。『Rez Infinite』と『TETRIS EFFECT』さえ買えば元は取れるので安心してほしい。

とはいえ広い空を飛び、戦地を転々としてエースとして成長していくいつも通りの疑似体験は他のゲームでは味わえない格別の楽しさだし、何より宇宙エレベーターを目の前にして空を飛べるというシチュエーションで鼻血が出るのでフライトスティックごと買ってよかったという気持ちしかない。

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軌道エレベーターに萌えろ

だから次は12年も待たせないでほしい。おかえりエースコンバット