ユウキズ・ダイアリー

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子供の想像力は無限大―『未来のミライ』評

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おとうさん、おかあさん、くんちゃんの3人家族に新しく赤ん坊のミライちゃんがやってきた。けれどくんちゃんが「ミライちゃんを守る!」なんて言ってたのは最初のうちだけ。ママの関心は生まれたばかりのミライちゃんを独占し、新米育メンのパパはドジばかり、くんちゃんはストレスを爆発! 癇癪くんちゃんが家の庭に駆け出すと、そこは見たことのないお城の廃墟と、王子と名乗る変なおっさんが――。

 

ここから始まるのは過去と未来を行き来する冒険ファンタジー……ではない。くんちゃんは王子と遊んでいるうちに機嫌が直って元の家にすぐに帰り、癇癪を起こす度に不思議な庭で、女子高生姿のミライちゃんをはじめとした家族にまつわる様々な人物と交流し、成長を積み重ねていく。

観賞前こそ冒険ファンタジーものを期待していたが、それは予告映像によるミスリード。子供は何を考えているかわからない、でもあっという間に成長する、どんな家庭にもありがちな育児中あるある話から着想した小さな物語である。

くんちゃんが庭で出会う物語は夢か現か判然としない、けれどくんちゃんの中では現実となって、心の支えになっていく。これは近作を例えに出せば『夜は短し歩けよ乙女』であるし、『思い出のマーニー』だ。ただこれらに及ばないと思うのは、主人公-くんちゃんを愛し難いという点だろうか。4、5歳児程度であろうくんちゃんは当たり前だが自己中心的で子供っぽい。おそらく細田守監督の育児生活で見たままを投影したのであろう、耳が痛くなるほどわんわん騒ぐ子供の姿はリアルで酷。そんなくんちゃんは同情を呼ばないし感情移入もし辛い。

とはいえ良い大人である私たちは、くんちゃんに翻弄されながらも仕事と家庭を両立させようと奮闘するおとうさん、おかあさんの健気な姿に胸を打つ。細田守映画ならではの丁寧な芝居やダイナミックな演出もグッとくる。往年の細田守ファンなら終盤の恐怖描写に『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』を思い出して泣くことだろう。

 

今作はこの夏を代表する大冒険映画にはなれそうにないが、決して悪い点ばかりではない。これから見に行く方は肩の力を抜いて、『ちびまる子ちゃん』や『クレヨンしんちゃん』を見るようなおおらかな大人の視点で見るべきだ。

ただ、30を超えて独身の身である私自身は、この映画のターゲットとする客層には入らなかったように思う。家庭の有無で感情の振れ幅が変わるはずだ。だから10年後にまた見てみたい。その頃にはきっと幸せな家庭を築いているに違いない、と未来を信じて……。