遠まわりする雛

夏に出版された『インシテミル』では筆者初の本格ミステリー(と言い切るにはややひねくれているが)に挑戦することで「作家としての成長」を見せ付けられたが、今月出たばかりの短編集『遠まわりする雛』は「キャラクターの成長」が物語の焦点。

米澤穂信のデビュー作『氷菓』から続く「省エネ」高校生・折木奉太郎くんの古典部シリーズも今作でやっと4作目。他の多くの米澤作品と同じく、日常に巻き起こるちょっとした謎を解決していくという伝統は守られているものの、1年間という長期間が1冊の中で物語れるのは今回が初の試み。


高校生にとっての1年間は、オトナたちが思っているよりもずっとずっと長い期間であり、作中の彼らにとってもそれはやはり同じこと。序盤はいつもの軽いノリ(とちょっとした皮肉)で物語が彩られていくが、終盤、バレンタインデーに起こる悲劇「手作りチョコレート事件」で、奉太郎は友人・里志の心の奥を初めて覗くことになり、終章「遠まわりする雛」では、1年を通して変化してきた自身の気持ちに気付いてしまう。


心の変化、成長を描くようになったというところには、米澤本人の作家として成長も垣間見える。ちなみに本作には第60回日本推理作家協会賞短編部門候補作「心あたりのあるものは」も収録。放課後の教室に響く呼び出し放送だけを手がかりに推理を展開していくというこの本きっての鮮やかな佳作なので、この作品を目当てに本書を購入してみて、気に入ったら他のシリーズ作品に手を出してみるというのもありかもしれない。