ユウキズ・ダイアリー

アニメ・映画・ゲームについての雑記

脚本:フィル・ロードの異常な愛情『スパイダーマン:スパイダーバース』

いよいよ本日3月8日から全国公開の映画『スパイダーマン:スパイダーバース』。IMAX上映館のみの先行上映で先週いち早く見させてもらった。

去る2月25日にはアカデミー長編アニメ映画賞を受賞したばかりということもあり期待値高めで鑑賞したのだが……期待を上回る面白さに全編興奮しっぱなし。クライマックスでは溢れる涙を抑えることができなかった。大傑作!

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ハマると関連書籍を買い漁りマン(あとサントラも買った)

 

本作は度々(2002年以降6度も!)実写映画化されてきた『スパイダーマン』シリーズの新作映画だが、続編ではない完全新作。そして他と大きく異なるのは初のアニメ映画であり、主人公がおなじみピーター・パーカーではなくマイルス・モラレスPS4の『スパイダーマン』にも登場した彼)だという点だ。

マイルスがやはり蜘蛛に刺され、スパイダーマンとして自覚し、痛みを乗り越え、成長する姿が描かれる……という大筋はいつものアレだが、大きなアクセントとなるのが多次元宇宙(スパイダーバース)という設定。平行世界から現れた5人ものスパイダーマンが時に友人として、師として、仲間としてマイルスを支え、キングピンと戦う姿は、いつも孤独に悪を討つピーターばかり見てきた身には新鮮に映る。

そこでどれどれコミック版も見てみよう、とダン・スロット著『スパイダーバース』を読んでみると更に驚かされるた。コミック版は100人近いスパイダーマンとインヘリターズ(映画には未登場)の血みどろの戦争が描かれており、マイルスに至ってはあくまで端役。映画はあくまでスパイダーバース設定を借りたオリジナルストーリーということなのだろう(未読だがマイルス周りの設定はUltimate Comics版を元にしているようだ)。

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コミック版には東映スパイダーマンからレオパルドンも!(『スパイダーバース』より)

 

とするとやはり立役者はやはり製作・脚本のフィル・ロード&クリス・ミラーだろう(脚本はフィルのみ)。近年数々の名作を送り出してきた彼らの作品はいずれも「大人になったら忘れてしまう、好きなものへの愛情」が尋常ではないほど満ち溢れており、そこにいつも胸を突かれてきた。彼らが製作を務めた『ブリグズビーベア』では着ぐるみ番組への、そして監督・脚本の『LEGOムービー』(これも大傑作だ!)はもちろんLEGOへの愛情だ。

本作へ注がれた彼らの愛情も過去作同様、いやそれ以上。コミック版『スパイダーバース』を換骨奪胎してマイルスのヒーローオリジンストーリーとして構成し直した脚本には並々ならぬスパイダーマンへ愛を感じずにはいられない。「誰もがヒーローになれる」というメッセージは様々なヒーロー映画で繰り返し語られてきたものだが、本作のそれは歴代のどれよりも熱く、純粋で、胸に沁みるものだった。

そして各スパイダーマンの個性やアレンジ、アニメーションに至るまでこだわり抜かれており、監督でないとはいえど彼らの血を強く感じる出来栄えだ。特にコミックや日本のアニメを意識したのであろう数々の表現――全編を通した背景のボカし、異色スパイダーマンノワール、ハム、ペニー)をより際立たせる個別のアニメーション表現、アニメ感を出すための低フレームレート――から、実写ではなくアニメ映画を選択した意義を強く感じる。こういった表現は日本こそ得意としていると思っていたので何歩も先を行かれたようで悔しい、が面白いのだからしょうがない。

彼らの今後の作品である、脚本を務めた『LEGOムービー2』(3月公開)、そして次の監督作と噂されているアンディ・ウィアー原作『アルテミス』も楽しみに待ちたい。もちろん叶うならば『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編も、だが。

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ペニー・パーカーのアレンジは鮮烈。ぜひ単独シリーズ化を!(映画秘宝4月号より)

 

というわけでとにかく最高の映画なので、普段海外アニメ、ヒーロー映画に興味がない人も、偏見を捨てて一度見てほしい。アカデミー長編アニメ映画賞は伊達じゃない。

そして最後になるが、本作は既に公開中の『アリータ:バトルエンジェル』と同様に3D演出が非常に巧みで、爽快感抜群の映像に一役買っているのは間違いない。観るなら是非とも、3D版で。