ユウキズ・ダイアリー

アニメ・映画・ゲームについての雑記

最新携帯ゲーム機『Playdate』が従来のゲームライフをひっくり返すかもしれないという話

数日前に海外から怪しい小包が届いたので数日放置していたのだが、開封したらゲーム機が出てきたのでびっくりした。すっかり忘れていたが、そういえば1年前に新型ゲーム機『Playdate』を注文していたのだ。

Playdateは海外のメーカーPanicが開発した業界久々の携帯ゲーム機。どれぐらい久々かというと、2011年発売のPlayStation Vitaとニンテンドー3DSから数えれば11年ぶり、モノクロ表示しかできない携帯機としては1999年発売のワンダースワン以来、実に23年ぶりだ。

そう、スマホNintendo Switchなど便利なデバイスしかないこのご時世に、モノクロ表示しかできない携帯ゲーム機が出ること自体が大事件である。

 

パッと見はクランクの付いたゲーム〇ーイ

十字キーにA・Bボタンと見た目はほぼゲー〇ボーイなのだが、特徴は側面のぐるぐる回るクランク。ボタン操作だけでなく、クランクを使用した特別なゲームが沢山楽しめる!はずなのだが、もう一つの特徴である特異なソフト提供方式により現時点では最大限楽しめていない。

クランク持ち手は収納できるし、別売りのカバーを付ければ画面も傷つかない

その提供方式というのが「1週間に2本ずつ、全24本の新作ゲームを自動的に配信する」というもの。最初から遊べるのは2本だけなので、あと11週待たないと全てのゲームが遊べないのだ(24本分のソフト代は本体価格に入っている)。これは全ユーザーに適用されるので、今から11週後にPlaydateを購入したとしても、手元に届いてからやはり1週ごとに提供される仕組みとなっている。

一見不便に思えるが、裏を返せば全ユーザーが全てのソフトを1週間ずつ遊びこめるということ。大量のソフトがすぐに消費される現代社会へのアンチテーゼと思えば、実に現代的なゲーム提供方式といえるだろう。

 

噛み応えのあるスルメゲー『Whitewater Wipeout

購入時にプレイできる2本は、クランクを回してピントを合わせる鳥撮影アドベンチャーゲーム『Casual Birder』と、クランクをサーフボードに見立てたアーケードライクなミニゲーム『Whitewater Wipeout』。『Casual Birder』は英語テキスト多めで、『Whitewater Wipeout』はクランク操作がシビアで難しい。

この2本がローンチタイトルで良いのか…?という感もあるが、『Whitewater Wipeout』は最初こそ2桁スコアがやっとだったのがやり続けていたら4桁が余裕になってきた。実はクランク操作の絶妙な操作感を味わうのにうってつけのタイトルかもしれない。スキマ時間にちょっとだけ遊ぶには最高のスルメゲーだ(ちなみに開発したのは京都のインディーゲームメーカーChuhai Labs)。

ただ今のところ1番感動したのは、ゲーム起動時に遊べるチュートリアルかもしれない。音と映像、操作の一体感が気持ち良く、人に貸す時はまず最初に触ってもらおうと思っている(起動後もSettings→ System→Replay introで再プレイ可能だ)。

 

本体サイズはGBASPの折り畳み状態とほぼ同じ(薄さは半分!)。画面サイズはGBミクロより大きく、スワンクリスタルと同等、GBASPより小さい

ゲーム機は結局遊べるゲーム次第なので、2本しかプレイできない現時点では正直なところ判定しようがない。とはいえ携帯性抜群のサイズも、触り心地も、なによりキュートな見た目も今のところバッチリなので、これから化ける可能性は十分あり得る。今後の配信タイトルとしては塊魂のクリエイター高橋慶太氏の『Time travel adventure』の提供が決まっているし、『Return of the Obra Dinn』のルーカス・ポープ氏の『Mars After Midnight』も開発中とのことで、なかなか期待が持てそうだ(24本のシーズン1提供後に、シーズン2以降も予定されている)。とりあえずこれから先3か月はゲームライフが充実しそうなのでワクワクして仕方ない。

他機種の最新ゲームはできないし、モノクロ表示、バックライトがないなど不便な点も多い。スマホやSwitchしか知らない世代に全力で勧められるものではないが、レトロゲー好きのアーリーアダプターゲーマーには是非ともオススメしたい逸品だ。

 

play.date

Playdateは現在公式サイトにて179ドル(約23000円)で発売中。

話数単位で選ぶ、2021年TVアニメ10選

 

のっけからレギュレーション違反ギリだが書かないわけにはいかないのが『シュームの大冒険』。昨年のアヌシー国際アニメーション映画祭TV部門グランプリ受賞作品でもある本作はEテレで放送されて静かに話題になったのか今年何度も再放送を繰り返していた。初回放送で目にして以来優しいアーティスティックな画風に虜になってしまった。東京アニメアワードフェスティバルでは字幕版も見たが、Eテレの翻訳版を推したい。BD化希望。

不滅のあなたへ』と『古見さん』はどちらも第1話の飛び抜けたクオリティに腰を抜かしたので。

『オッドタクシー』は話題になってからの後追いになってしまったが、ハマるきっかけになった第4話は入れておきたい。

ゾンビランドサガ リベンジ』は第9話も捨てがたいが、マイマイの勢いに負けて第7話を選出。

『メイドラゴンS』は故・武本康弘監督のクレジットに泣いた第1話を。

『トロプリ』は最強のアクション回第29話。大地丙太郎氏による第33話も最高だった笑

『Sunny Boy』は終結に向かう物語を久貝典史作画監督が全身全霊で盛り上げた第11話。

ルパン三世6』の押井守回はどちらも最高だがより純度の高い第10話で。

ゲーマーズライフのゲームオブザイヤー2021

ベスト5

選外

 

It Takes Two』は今までになかった2人協力"限定"のアクションアドベンチャーゲーム。それゆえにプレイハードルの高さが難ではあるものの、程よい謎解き&アクションを役割分担しながら進めていき、物語上も「離婚寸前の夫婦」という危うい2人が絆を回復していくという、2人だから、2人じゃないとできないゲーム体験を味わえた。コロナ禍も影響して会う機会がなかなか作れない友人とのプレイは非常に楽しく、リアルの絆も深まった気がする。

モンスターハンターライズ』は、前作『モンハンワールド』の欠点をことごとく潰して、自由移動が極まったシリーズ最高傑作。

ウマ娘プリティーダービー』は一生出ないと思っていたソシャゲ界のサグラダ・ファミリア。育成ゲームに初めてハマり、久々にリアル競馬課金もしてしまった。

スーパーマリオ3Dワールド+フューリーワールド』、というか『フューリーワールド』がマリオ初のオープンワールドで非常に面白かった。単独レビューも書いたので詳しくはこちらで。

yuki222.hateblo.jp

メトロイドドレッド』はもはや完全に諦めていた19年ぶりの続編。グラフィックはCGながら、じわじわマップを踏破していく快感も、えぐいボス戦の難度もきちんとメトロイド。そうそうこういうので良いんだよ…!

 

選外にしたものの、『ノーモア★ヒーローズ3』はこちらも11年ぶりの続編なので出ただけで嬉しい。各ボス戦の趣向を凝らした楽しさと、ボス戦間の雑魚戦の退屈さはまさにNMH。雑魚戦はもうちょっと何とかしてほしかったが、Switchならではの最終戦には笑いが止まらなかった笑 リリース時には全然話題にのぼらなかったが、過去シリーズにハマった人はぜひともプレイしてほしい。

と色々書いたものの結局今年一番プレイしたのは『FGO』。特に10月に入ってからは本編ストーリーに追いつこうと必死でプレイしたので3か月間で120時間はプレイしたはず。中でも奈須きのこ自らが執筆したという「Lostbelt No.6 妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ 星の生まれる刻」はさながら長大なファンタジーRPGをプレイしているかのような体験で、スマホゲームの一つの到達点を垣間見た気がした。

ゲーマーズライフの2021年映画ベスト10

監督作品全部見たうえで平日初日の初回に見て、それがしかも最高の内容だった『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』は文句なしの1位。全バージョン網羅したり舞台挨拶に行ったりで結局6回は劇場で見ただろうか。なお同様に全作見てから新作に臨んだ『ワイルドスピード/ジェットブレイク』と『マトリックス レザレクションズ』は今一つアガらず残念。

『ザ・スーサイド・スクワッド "極"悪党、集結』は『デッドプール』や『キックアス』といったR指定残虐アメコミ映画作品の中でもベストに挙げたい。下品で笑えて美しくてかっこいい、最高の娯楽映画。最終的に怪獣映画化するのも加点ポイント。

『ドライブ・マイ・カー』はここ数年の実写邦画で最も感動した(そもそもそっちはあまり守備範囲ではないとはいえ)。喪失感、虚無感を抱かずにはいられないコロナ禍にビタっとハマる内容だった。米アカデミー賞の国際長編映画賞も有望視されているので、今後も広く見られてほしい。

閃光のハサウェイ』は『虐殺器官村瀬修功監督らしい洋画テイストでガンダムシリーズに新風を巻き起こしてくれた。ドルビーシネマ版はもちろんのこと4DX版が笑っちゃうくらい楽しい体験だった。

『竜とそばかすの姫』はシネスコ画角で展開される細田芝居にはシビれた。ところで今年はシネスコ画角アニメラッシュで、今作以外にも『カラミティ』『シン・エヴァ』『レヴュースタァライト』『呪術廻戦0』がそう(昨年末公開だが『ジョゼ虎』も)。IMAX画角の『ソードアート・オンライン プログレッシブ』にも驚かされた。配信全盛の今だからこそ劇場ならではの体験を模索してるのだろうか。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』はフルIMAXいっぱいに広がる凍った湖面のファーストカットで鷲掴みに。アナ・デ・アルマスに惚れ直したのも忘れ難い。

『JUNK HEAD』は思わぬ伏兵。『PUI PUIモルカー』と並ぶストップモーションアニメの革命児だが、地下世界SF奇譚という全く違うアプローチの今作の方がむしろ好み。ぜひ続編も作ってもらいたい。

『カラミティ』は前作『ロングウェイ・ノース』に勝るとも劣らないアーティスティックなフランス産アニメ。両言語版を見比べてみたが、日本語吹き替え版の方がおすすめ。

『あのこは貴族』は日本にある「見えない格差」を切り取ったメッセージ性が痛烈に響いた。自分はどっち側の人間かと考えてしまう。

ゴジラVSコング』は馬鹿馬鹿しくも真っ直ぐな大予算大怪獣大プロレス映画。米ゴジラ3部作で1番のお気に入り。小栗旬の扱いはどうかと思ったけどドラマ『日本沈没 希望の人』が良かったので帳消し。

 

なお再上映作品ベストは『伝説巨神イデオン 発動編』。ワーストは…『サイコ・ゴアマン』で。

 

今年見た新作映画リスト(全60本) 

  1. ワンダーウーマン 1984
  2. 映画 えんとつ町のプペル
  3. 花束みたいな恋をした 
  4. シン・エヴァンゲリオン劇場版
  5. カラミティ
  6. あのこは貴族
  7. ラーヤと龍の王国
  8. 騙し絵の牙
  9. モンスターハンター
  10. ガールズ&パンツァー 最終章 第3話
  11. JUNK HEAD
  12. BanG Dream! Episode of Roselia I:約束
  13. 隔たる世界の2人
  14. 愛してるって言っておくね
  15. ミッチェル家とマシンの反乱
  16. オクトパスの神秘: 海の賢者は語る
  17. ノマドランド
  18. 劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- Paladin; Agateram
  19. 映画大好きポンポさん
  20. シドニアの騎士 あいつむぐほし
  21. 劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト
  22. 機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ
  23. 漁港の肉子ちゃん
  24. モータルコンバット
  25. あの夏のルカ
  26. ゴジラvsコング
  27. 100日間生きたワニ 
  28. 竜とそばかすの姫
  29. 劇場版 Gのレコンギスタ III 宇宙からの遺産
  30. とびだせ!ならせ! PUI PUI モルカー
  31. サイダーのように言葉が湧き上がる
  32. サイコ・ゴアマン
  33. Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-
  34. 映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園
  35. ジャングル・クルーズ
  36. 僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション
  37. ザ・スーサイド・スクワッド "極"悪党、集結
  38. フリー・ガイ
  39. ワイルド・スピード/ジェットブレイク
  40. ドント・ブリーズ
  41. サマーフィルムにのって
  42. シャン・チー/テン・リングスの伝説
  43. ドライブ・マイ・カー
  44. 子供はわかってあげない
  45. 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ 
  46. DUNE/デューン 砂の惑星
  47. 劇場短編マクロスF 時の迷宮
  48. 劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!
  49. 燃えよ剣
  50. 劇場版 ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア
  51. アイの歌声を聴かせて
  52. ホーム・スイート・ホーム・アローン 
  53. エターナルズ
  54. EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション
  55. フラ・フラダンス
  56. ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジサマーゴースト
  57. サマーゴースト 
  58. ラストナイト・イン・ソーホー
  59. tick, tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!
  60. マトリックス レザレクションズ

新型SwitchはiPhoneに追いついた

f:id:massan-222:20211010153606j:image

10月8日に発売された「Nintendo Switch 有機ELモデル」(以下新型Switch)を購入した。今回の最大の特徴はその名の通り本体の画面が液晶から有機ELに変わったことだ。他にも画面の大型化や音質向上、スタンドの大型化、ドックへのLANケーブル接続端子追加など細かい機能向上が施されている。

久しぶりに任天堂の新ハードを触ってみたいというファン心理だけで予約してみたが、とはいえ普段携帯モードをそんなに使用していない自分に必要あるのだろうか、と買うまではずっと考えていたりもした。

 

f:id:massan-222:20211010153621j:image

ところが触ってみたら心配が吹きとんだ。大型で発色の良いディスプレイは実際に目にするとインパクト絶大。ゲーム機というよりiPhoneiPadのような高級感さえ感じるじゃないか。……とここで気づいたのが、任天堂がわざわざこのハードを発売した意味だ。

普段はスマホを最も触っているが(自分の場合はRetinaディスプレイ搭載のiPhone11)、いざSwitchを手に取ると液晶画面に物足りなさを感じてしまい、それならばとTVモードで遊ぶことがほとんどだった。それが新型Switchの携帯モードならiPhoneと遜色がないので、地続きの感覚で遊ぶことができる。

発色の良い画面を見てるだけで楽しくて、既にマリオカート8DXや大乱闘スマッシュブラザーズSPを久々に立ち上げているくらいだ。ニンテンドーDS LLや3DS LLが発売したときに旧作が輝きだした時のよう、と言えばわかる人にはわかると思う。今後も「今日は携帯モードで遊ぼう」という日がどっと増えることだろう。

 

任天堂が新型Switchを発売した本来の意図は、スマホユーザーに向けてもう一度Switchの携帯モードをアピールすることだったのだと思う。だとすれば、この性能なら申し分ない。従来のSwitchで充分という人も、一度店頭などで性能を確かめて検討してみてはどうだろうか。


www.youtube.com

HIKAKINの開封動画も向上した性能がよくわかる。検討の一助におすすめだ。

 

疾風怒濤の勢いは逆シャアレベル!『GのレコンギスタⅢ 宇宙からの遺産』がTV版より面白い理由

劇場版『GのレコンギスタⅢ』「宇宙からの遺産」を見てようやく腑に落ちた。「ああ、Gレコってこういう物語だったのか」と。映像の圧縮と芝居の方向付け、そして何よりドラマの肉付けによってTV版より格段に面白くなっている。齢79歳にして、まだまだ庵野にも細田にも負けないぞと鼻息荒く現場で暴れ回る富野由悠季監督の"伊達じゃなさ"をフィルムを通して見せつけられたようだ。

f:id:massan-222:20210729113327j:plain

f:id:massan-222:20210729113351j:plain

 

Gのレコンギスタ』はそもそも2014年から2015年に放送したTVアニメシリーズで、劇場版はそれを再編集して全5部作にしたもの。現在は3作目にあたる『GのレコンギスタⅢ』が公開中だ。『機動戦士ガンダム』など過去のガンダム作品も度々総集編映画が作られてきたが、今回は元々が全26話と少なく、映画も全5本と多いおかげでダイジェスト感は薄く、総集編というよりは再編集版・ディレクターズカット版とでも呼ぶべき作りになっている。

Gレコの舞台は初代『機動戦士ガンダム』で描かれた宇宙世紀の遥か未来にあたるリギルド・センチュリー宇宙エレベーターを守る警備兵候補生である主人公ベルリ・ゼナムが、ガンダムGセルフ」を駆る女海賊アイーダ・スルガンからの強襲を受けることから物語は始まる。ひょんなことから海賊に参加してしまったベルリが恋に目覚め、血の宿命に苦しみながら宇宙の果てを目指し、一触即発の宇宙戦争に向き合う、というのが全体のストーリー。

……と一息に書けばシンプルに聞こえるが、富野監督らしい独特のネーミングのキャラクターや専門用語は26話で扱うにはあまりにも膨大な量で、一瞬でも見逃せば置いて行かれること確実。さらにセリフの応酬はコミュニケーションが成立しているのか怪しいすれ違いっぷりで、一度見ただけでは全体像を把握するのも困難という挑戦的な作品だった。

特に今回の『GのレコンギスタⅢ』のベースとなっているTVシリーズ12話~18話はGレコを象徴するかのようなカオスっぷり。月に住む第3勢力が登場したことで以前の敵とも共闘するし、ともすれば月の民とも協力してごみ拾いを始めるしで、一体誰が敵で味方なのか、物語はどこへ向かうのかと混乱させられるものだった。おそらくこの辺りで視聴を断念した方も少なくないだろう。

 

  • 逆シャア』並みの疾走感がカオスをねじ伏せる劇場版

f:id:massan-222:20210728172057j:plain

以前のレビューでも書いたように『GのレコンギスタⅠ』『GのレコンギスタⅡ』の時点で、TVシリーズよりわかりやすくなっていた。セリフが整理され、ベルリとアイーダを中心にシーンを足すことで共感しやすい主人公像が見えつつあった。ただどうしても複数話を無理やりつないでパッケージングした感が否めず、映画として見たときの統一感・満足感はもう一つというところだった。

そこに来て『GのレコンギスタⅢ』は、突然"映画"に化けた。大きな要因は2つある。まずベルリとアイーダの生い立ちを巡る追加シーン。このシーンでベルリはストレスを吐き出し、アイーダとの和解を果たすことができた。TVシリーズではストレスを溜め込んで暴走し、一視聴者としてあまり好感を持てないキャラに成り下がっていったベルリが全部吐き出したのである。アイーダもまた、TVシリーズではベルリの事を嫌ってるのか好いてるのか何も考えてないのかよくわからない女だったのが、ちゃんとベルリを受け入れるのである。TVシリーズ最終回まで至ってもモヤモヤしてよくわからなかった二人の関係性に一つのピリオドを打ったのだ。

もう1つの要因は映像の圧縮・芝居の方向付けによる疾走感である。『GレコⅠ』『GレコⅡ』でも削除シーンは複数個所あるもののそれほど多くなく、そのためにTVシリーズ各話を繋いだだけというか、映画としてのまとまりに欠けるところがあった。ところが『GレコⅢ』に至ってはまるまる削除した戦闘シーンや(12話のマスク戦)、複数の戦闘シーンをひと繋ぎにまとめたシーンもあり(17話と18話)、映画としてのまとまりが生まれている。

また疾走感を生んでいるのが上手(画面向かって右)から下手(向かって左)への芝居の流れだ。かねてより富野監督は上手と下手を意識した自身の演出論に基づき映像作品を制作してきたが(詳細は『映像の原則』として著書にまとめられている)、芝居の流れが生まれるのはあくまでカット単位、シーン単位に限るものだった。それが『GレコⅢ』では、冒頭から地球を上手に宇宙へ突き進む戦艦メガファウナを描き、終盤では下手の巨大戦艦クレッセントシップ目がけてばく進するメガファウナを描くことで、映画全体を貫く上手から下手への明確な芝居の流れが発生している。TVシリーズ第13話では月を目指して画面右上(上手)を指差すアイーダが印象的だったが、このシーンの削除も上手から下手への流れを妨げないよう意図したものだろう。この疾走感は『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』『イデオン 発動編』にあった一種のグルーブ感さえ生み出しており、そこが本作に"映画"を感じる所以だ。

 

  • 新規カット大増量となる4作目への期待

ここまで褒めちぎったがもちろんもの足りないところはある。疾走感で無理やりねじ伏せているがカオスな展開は変わらないので、一度見たきりではキャラクターも専門用語も把握し切れないことだろう。またあくまでTV版をベースに編集したものなのでイマイチな作画・美術は散見される(新規作画は体感2割程度)。

ところが次作『GのレコンギスタⅣ』は、インタビュー記事によるとかなりのパートが新規作画になることが明言されている(まるまる新規の戦闘シーンもあるとか)。宇宙の果て―金星圏でベルリとアイーダは戦争を防ぐための学びを得る……のがおそらく4作目のストーリーなのだが、TVシリーズではあまりに駆け足だったのでどんな学びがあったのか正直よくわからなかった。劇場版ではそこが新規カットにより詳細に描かれるのだろう。

本作で「行きて帰りし物語」である物語構造が明確になった『Gのレコンギスタ』。"わかりやすい"『GレコⅠ』『GレコⅡ』から”面白い”『GレコⅢ』になり、今や富野監督の演出力は全盛期に迫ろうとしている……いや今がまさに全盛期かもしれない。正念場となる次作はとんでもないことになるだろう。この奇跡に追いつくには、劇場公開中の今しかない。

f:id:massan-222:20210729113401j:image

f:id:massan-222:20210729113411j:image

 

yuki222.hateblo.jp

yuki222.hateblo.jp

yuki222.hateblo.jp

 

『竜とそばかすの姫』と脚本の完成度

f:id:massan-222:20210721144816j:image

細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』を見て最初に感じたのは脚本の完成度の低さだった。

 

近年の細田監督作品では毎度のことなのだが、大風呂敷を広げる割に設定が穴だらけで、キャラクターも明後日の方向に走り出してしまう。

そもそも「U」の世界は50億ものユーザーにどう利用されてるのだろうか(『サマーウォーズ』の「OZ」と違うの?)。そしてなぜ誰しもが執拗に竜とベルの正体を詮索するのか。

終盤、なぜすずはあんな大げさなことをしたのか(画面越しに歌えばよくない…?)、一人で駆け出すすずをがん首揃えた大人たちがなぜ一人も止めないのか、なぜ街中で彼らを闇雲に探しだして見つかると思うのか。

疑問が尽きない脚本を書いているのは監督本人。書くべきことが書かれてないし、大勢のキャラクターを生み出しても活かしきれてない。脚本が詰め切れてないのはつっこむ人がいないからだろうか。

 

とはいえ脚本が雑であっても、この作品の魅力は他に十分あるとも思った。

Uのビジュアルは広大で吸い込まれそうになったし、そこで披露されるベルの荘厳な歌唱シーンには胸が高鳴った。

転じて高知の素朴な町並みと、そこで今を懸命に生きる高校生らのドタバタ劇や恋愛模様には日本映画らしい情緒を感じた。校舎内や駅舎での横パンを駆使した演出は細田守ここにありという演出で、氏の長年のファンとしてはもうそこだけでご馳走様という気分。

 

脚本の完成度については最近よく考えさせられる。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を初めて見たとき「なんだこのひどい脚本は!!」と思ったものだけど、何度か見返していたらビジュアルのかっこよさは新劇場版シリーズ1ではないかと思うようになった。

Gのレコンギスタ』はコミュニケーションが成立していないシーンばかりで各キャラがどういう感情で動いてるのかさっぱりわからなかったけど、メカやキャラが個性的で、アクションがかっこいいので何度も見返すくらい好きになっていた。

ゴジラシリーズの近作『ゴジラS.P』はSF設定が高尚でぶっ飛びすぎてるし、逆に『ゴジラVSコング』はキャラクターが揃いも揃ってバカしかいないと振れ幅が広すぎる。でも『ゴジラS.P』は中サイズの怪獣バトル描写が新鮮で、釘宮・久野の達者な声の芝居にも毎週楽しませてもらった。『ゴジラVSコング』は怪獣同士の超巨大バトルがゴジラシリーズ1と言いたいくらい痛快で楽しい。

 

『竜とそばかすの姫』の話に戻ると、脚本の穴以上に好きな点が多いので満足できるものだった。大スクリーンに映える映像としての完成度は、細田監督作品で一番なのは間違いない。

映像作品において脚本はもちろん大事な中核だけど、全てではないし、そればっかり気にしていると他の良いところが見えなくなってしまう。もちろん自分にも許せる限度はあるし、その許容量は人によってまちまちだというのも理解している。ただ、他に良いところがあれば評価することを忘れないようにしたい。