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『攻殻機動隊 SAC_2045』感想――期待される「SACっぽさ」は描かれたのか

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4月23日16時より、NETFLIXにて『攻殻機動隊 SAC_2045』全12話の配信が始まったので早速視聴。配信前に見た予告映像により期待値は下がっていたのだが……、実際見てみると意外や意外、これがかなりの面白さ。

ただし「SACっぽさ」が出てくるのは7話以降。1話だけで判断しないよう注意が必要だ。


『攻殻機動隊 SAC_2045』TVCM 30秒 - Netflix

 

まずは『攻殻機動隊SAC_2045』の位置づけについて紹介したい。攻殻機動隊士郎正宗による原作漫画から始まり、映画、TVアニメ、実写映画、ゲーム、スピオンオフ漫画などが入り乱れており全てを網羅している人は稀だろう。とりあえず本作は神山健治監督によるSACシリーズの最新作、ということだけわかっていれば良い。

もちろんこれまでのSACシリーズを見ているにこしたことはないが、前作からは作品内の時間が大きく経過しているからか過去の事象にはほとんど触れない。本作から入っても問題はないだろう。

【ざっくりとした攻殻機動隊各ユニバースの流れ】※[]内は作中の年代

士郎正宗漫画:(紅殻のパンドラ)→攻殻機動隊[2029年]→攻殻機動隊1.5→攻殻機動隊2(2035年)→(アップルシード[2127年])

押井守映画:攻殻機動隊[2029年]→イノセンス[2032年]

神山健治アニメ:(東のエデン[2010年])→攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX[2030年]→攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG[2032年]→攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society[2034年]→攻殻機動隊 SAC_2045[2045年]

黄瀬和哉アニメ:攻殻機動隊 ARISE[2027~2029年]→攻殻機動隊 新劇場版[2029年]

 

  • 「SACっぽさ」

さて『攻殻機動隊SAC_2045』は派生作品の中でも1、2を争うほどの絶大な人気を誇る人気シリーズSACの最新作。シリーズファンからすると気になるのは「SACっぽさ」だろう。「SACっぽさ」とは端的に言うと1話完結の刑事ドラマみたいなやつである。こういうのはそもそもアニメ作品には少ないので需要が高く、なおかつSACで描かれたドラマはかっこいいアクションから泣ける人情もの、哲学に社会風刺などバラエティー豊かで品質も高く、そこが人気のポイントだったように思う。

そこで本作だが、正直6話まではSACっぽくない(笑)。傭兵稼業に身をやつした草薙素子たち元9課メンバーが砂漠でドンパチしてヒャッハーなハイテンションから始まる6話連続のドンパチものである。声は同じであれど大きな見た目の変化(ツルっとしたルックの簡素なCG)もあり、違うシリーズを見ているようである。何っぽいかというと、神山健治監督と共同監督してクレジットされている荒牧伸志監督の『アップルシード』シリーズのノリである。『アップルシード』も少しはかじっている身としては、「こういうのも士郎正宗世界だし全然アリ。新しいことに挑戦してるじゃん」という気持ちと「こういうのは他でやってくれよ」という二つの気持ちがぶつかり合いながら見ていた。

しかしそれが7話以降、舞台を日本に移すと一変する。事件の核心「ポストヒューマン」を追う1話完結の刑事ドラマが始まりこれがなんとも「SACっぽい」! いやあやっぱりこういうのが見たかった。銀行強盗のじいさんらとバトーが丁々発止する第7話はなんだか往年の押井守の短編を見ているかのようだし、謎が謎を呼ぶシマムラタカシ(CV.林原めぐみ)を巡る第11話、12話は夢中で見てしまった

話が面白いと気になっていたCGの見た目も気にならない!……かというとやっぱりそこは気になる。『スパイダーマン:スパイダーバース』を引き合いに出すのはずるいかもしれないが、それにしても『宝石の国』、『ドロヘドロ』を経た2020年の日本のアニメである。もっと表情豊かにできないものか。もっと快楽度の高い映像表現ができないものか岡村天斎(『ウルフズレイン』監督)や宮地昌幸(『忘念のザムド』監督)など実力派演出家のコンテ回は見所も多いものの、今のままでは表情の乏しい役者の実写芝居を見せられているようである。過去作から見劣りするその点は唯一の、大きな不満である。

 

  • まとめ

本作は12話まで配信されたが、物語は大きな謎を残して突然終わりを迎える。こんな終わり方あるかよ!と言いたいところだが、すでにシーズン2の配信もアナウンスされているので安心だ。

とにかく7話以降はかなり「SAC」しているので、1話だけ見て「なんか期待してるのと違う」と言って切らないでほしい。7話からが本番である。気になるCG表現の飛躍はシーズン2に期待しよう。

とりあえずシリーズファンなら必見の出来。東のエデン』劇場版から『009 RE:CYBORG』、『ひるね姫』と「こんなん求めない!」と叫びつつも付き合ってきた辛抱強い神山健治ファンとしては、往年の勘が戻ってきたかのような出来に泣いて喜びたい気分だ。

 

攻殻機動隊 SAC_2045 公式サイト