10年も前にDVD屋でバイトをしていたころに「スタジオジブリ作品と勘違いされる映画No.1」の地位に燦然と輝いていたのがマッドハウス制作・高坂希太郎監督による『茄子 アンダルシアの夏』だった。
高坂希太郎監督は『耳をすませば』以降多くのジブリ作品で作画監督を務めていただけにキャラクターが宮﨑駿作品に自然と寄ったのだろうと思うが、キャラクターの芝居や、特に自転車の機構まで緻密に描写する作画など、内容にしてもさすがジブリを背負う高坂氏ならではの見どころの多い映画だった。……そんな高坂希太郎監督の15年ぶりの映画が『若おかみは小学生!』だ。
脇を固めるメンバーも錚々たる面子。作画監督は映画『君の名は』、『コクリコ坂から』の廣田俊輔、脚本は『ガールズ&パンツァー』シリーズや、映画『聲の形』、『リズと青い鳥』の吉田玲子、音楽はゲーム『MOTHER』や映画『東京ゴッドファーザーズ』の鈴木慶一。
原作は青い鳥文庫で刊行されている児童文学で、今年4月から9月までTVアニメも放映されていた。通常こういった映画はTVアニメの番外編や総集編であることも多いが、今回はTVと映画で同じ原作小説を元にしながら、全く別の作品として制作されているので、私自身原作やTVアニメ版未見であるものの特に予備知識なく見ることができた。
この映画で特筆すべきはその細やかな芝居だ。両親と死別した主人公の小学生・おっこが祖母の旅館で若おかみを務める、というのが筋書きだが、このおっこの一挙手一投足がすごい。高く蹴り上げる廊下の雑巾がけや、両親の布団に足元から潜り込むカットには特にシビれる。
もちろんそこまで注視せずとも、コロコロと変化する表情や動作におっこの快活さが自然と表れている。おっこの顔はデフォルメが効いていて目がクリっと大きいが、それを強調し、かつ破綻しない寄りめのカットが多いのも見どころ。
おっこ以外に目を向けると、板前の康さんの卵焼きを切る仕草や、菜箸での盛り付けといった細やかな所作にプロ意識が見える。眼鏡ダンディな旅館のお客様たちの横顔は、メガネの厚さによる輪郭や瞳の歪みまで表現している(これは高坂監督が作画監督を務めた『風立ちぬ』でも絶賛された技法)。
ここにあげたのは一例で、どんなキャラクターの芝居にも一貫して魂が、それはもしかしたらスタジオジブリ作品で息づいていたDNAが、息づいているのかもしれない(ジブリ作品の経験がある作画スタッフも多く参加しており、そういった面々の力も大きいのだろう)。
クオリティを重視した児童文学の映画化というと(ジブリ作品を除くと)、片渕須直監督の『アリーテ姫』や『マイマイ新子と千年の魔法』を思い出すところだが、原作の知名度の低さや、大人向けのストーリーやキャラクターというところで興行的にはパッとしない印象だった。
だが『若おかみは小学生!』については、子供への目配せも行き届いており、キャラクターデザインは原作イラストやTVアニメ版に寄せた可愛らしいテイストであるし、ストーリーは特に前半、おっこと幽霊たちとの絡みがコメディ色豊かに描かれている。また後半は一変して、おっこと死別した両親との関係性にフォーカスしており、大人でも涙なしには見ることができない。親子と生死をテーマにしているという点では映画『リメンバー・ミー』とある種対比して見ることもできるし、超えている点も少なくないように思える。
タイトルに「小学生」と入っているため躊躇する大人は多いだろうが、そんなことは気にせずに良い芝居、良い映画を求めて劇場に足を運んでもらいたい。今年ベスト映画候補と言っても過言ではない。もちろん子持ちの方は、ぜひ連れ立って見てもらいたい。
そして最後に。黒ロン(黒髪ロングのこと)が好きな人は絶対に見ること。グローリー・水領さんにヤラれるはずだ。私はヤラれた。