耳をすませて、イスになって。『リズと青い鳥』

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映画『リズと青い鳥』が4月21日に公開された。幸い舞台挨拶付きの回を観賞することになったので山田尚子監督の言葉に聞き入っていると思わぬ発言が。曰く「BGMは校舎内の備品、机やイス、ビーカーなどを楽器に見立てて奏でている」「観客もイスになったつもりで見てほしい」とのこと。

ワタシハイスダ、ワタシハイスダ…。自己暗示をかけながらの奇妙な観賞体験が始まった。

 

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リズと青い鳥』は武田綾乃さんの小説を原作としたTVアニメ『響け!ユーフォニアム』の最新作。アニメ第2期の翌年の時間軸を描いているが、黄前久美子を主人公としたTVアニメシリーズとは打って変わって、久美子の先輩に当たる鎧塚みぞれと傘木希美の2人にフォーカスしたスピンオフ作品となっている。そのためかタイトルから「響け!ユーフォニアム」の文字は廃されている。

劇中では、吹奏楽コンクール金賞を目指しながらも3年生となり受験も控えるみぞれと希美が、互いを想い、すれ違う、どこにでもあるかもしれない、けれど眩しいくらいの青春のきらめきがつぶさに描かれる。

 

観賞前に最も注目していたのがキャラクターデザインの変更だ。TVアニメ版から比べて頭身が上がり、目は小ぶりに、影やディテールの書き込みも随分シンプルになっている。こうしたキャラクターの大幅な変化といえば、『機動警察パトレイバー2 the Movie』や『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』、『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』などを思い出すところだが、最近の作品ではあまり見ない試み。そこには果たしてどういう意図があるのか?

ここで効いてくるのが前述の「ワタシハイス」だ。けれど自己暗示など必要もなく、BGMがいざなってくれるという手法だった。複雑でノイジー、けれど聞き馴染みのある校内備品が奏でる音色を聴いているうちに、自分自身がイスに、というよりも音の一部になって、みぞれ達をそっと校舎の隙間から覗き見ているかのような気持ちになってくる。

そうすると見えてくるのが、シンプルなキャラクターデザインの意図だ。書き込みが最小限ゆえに、ディテールではなく"しぐさ"が、セリフよりも雄弁に観客へ語りかけてくる。揺れる髪、翻るセーラー服、交差する脚、異なる歩幅、まばたき、ゆれる瞳孔、みぞれが幾度も左手でなでつける右の髪。

BGMだけではない。カメラワークはみぞれの鼻先まで迫ったと思ったら離れていき、時にはフレームアウトして表情を隠し、身体の動きばかりを追いかける。またSEも効果的で、上履きが床を踏む音さえ耳に残るようTVアニメ版から変更されている。映画を構成するすべての要素が、キャラクターのしぐさを追うために意図されている。

 

こうした山田尚子監督の演出は前回の監督作『聲の形』をはじめ様々な作品で見られてきたが、今作に見られるしぐさ―言いかえると"アニメーションキャラクターの芝居"に対するこだわりはいままでになくストイックだ。

ストイックゆえに物語上の起伏は少なく、コンクールの行方は描かれないし、セリフ量もTVアニメ版に比べて控えめ。けれどしぐさに注目するだけで、ぐっと豊かな感情が画面を踊るのが見えてくる。

 

響け!ユーフォニアム」シリーズに連なるものの、キャラクターを絞っているので本作から見ても問題ない。私小説的映画や、女性同士の共依存関係―直接的な言い方をすると"ソフトな百合"が好きな方なら、きっと忘れられない一作になるはずだ。