ユウキズ・ダイアリー

アニメ・映画・ゲームについての雑記

『スーパーマリオ オデッセイ』に見る回帰と革新、もしくはスーパー"ハッカー"マリオ

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マリオ、都会に立つ

Nintendo Switch用新作マリオ『スーパーマリオ オデッセイ』をクリアした。始まり方こそクッパにさらわれるピーチ姫を助けに行くという毎度おなじみのマリオだが、そこから始まるオデッセイ-長い冒険旅行-は驚きの連続。新しい地に足を運ぶ度、まだまだ遊び足りない、けれど次の土地を見たいという気持ちにさせられるのは毎度のことで、そんな葛藤を繰り返すうちにあっという間にエンディングを迎えてしまった(とはいえクリア後ミッションが大量に解放されて、さらにうれしい悲鳴をあげてしまったが)。

最近の任天堂の作品、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は特にそうだったが、徹底した美学と貪欲な作りこみを感じることが多い。『スーパーマリオ オデッセイ』においては「原点回帰」と「改革」という、一見矛盾するテーマが両立し、しかも終始貫かれているように感じた。

 

  • 箱庭3Dマリオへの原点回帰

本作は原点回帰を強く感じるが、とはいえもちろんファミコンの『スーパーマリオブラザーズ』まで遡るわけではない。かつてNintendo64スーパーマリオ64』として生み出された箱庭3Dマリオだへの回帰だ。意外にも箱庭3Dマリオは寡作で、続くゲームキューブスーパーマリオサンシャイン』以来、15年間もの間沈黙を守っていた。『サンシャイン』がヒットしなかったことや、任天堂がハードもソフトも「より多くの人が楽しめるものへ」とシフトしたことなど様々な要素が起因しているだろうが、この15年間に作られた3Dマリオはいずれも探索要素を絞り込んだ、ステージクリア型のアクションゲームだった。

本作が箱庭3Dマリオに回帰したのは一番の理由は、箱庭マリオを作る下地が整ったから、と想像している。本作を手掛ける東京制作部は、その名の通り京都に本社を持つ任天堂の東京開発チーム。処女作『ドンキーコング ジャングルビート』を経て、『スーパーマリオギャラクシー』以降の3Dマリオシリーズを手掛けてきた。彼らは「視点変更をしなくても遊びやすいマリオ」を制作する技術を長年培ってきたからこそ、普段3Dアクションゲームを遊ばない人にも嫌われない箱庭3Dマリオを作れる確信が生まれたに違いない。発売以来飛ぶように売れている現実を見るに、任天堂の思惑は間違っていなかったのだろう。

 

  • アクションと構成の大改革

もちろん回帰だけでは新しいマリオは生まれない。箱庭を用意して挑んだのはこれまでの「お約束」の縛りを解き放つ大改革。特に革新的だと感じたのがアクションと、ステージ構成だ。

今回のニューアクション「キャプチャー」はコントローラーを振ることで(ボタンで代替もできるが)帽子を投げつけ、当たった敵キャラクター-おなじみのクリボーハンマーブロス、ワンワンにだって-に乗り移れるというもの。クリボーになれば他のクリボーと連なることで秘密のスイッチを解除できるし、ハンマーブロスはハンマー攻撃が超強力。ワンワンはもちろん無敵。これまで進路を邪魔する障害物でしかなかった敵キャラクターが、コントローラーの一振りでステージギミックの攻略のカギや、強化手段に変化するのだ。

敵への乗り移り、というアクションは本作に始まったものではない。始祖こそ知らないものの、私自身が初めて体験したのはPS2攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』。フチコマの壁張り付きアクションが楽しいPS1版攻殻ほど有名でないPS2版だが、草薙素子となって高所のスナイパーにハッキングして乗り移ることで、敵陣を真ん中から崩すのは爽快だった。言うなれば本作のマリオはスーパーハッカー。医者にレーサーにと手を広げてきたなんでも屋マリオの可能性は30年を超えなお拡大の一途を辿るのである。

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ワンワン電脳ハック

またステージ構成にも驚かされた。今回一番楽しみにしていたステージは、PVでも大きく取り上げられている、ニューヨークを模したかのようなビル街「ニュードンクシティ」。いつ訪れるのかとワクワクしながら旅を続け、ようやく都会に辿り着いたのは終盤の一歩手前。進行度7割方というところ。しかしこの街のクリア時イベントが本気も本気で、マリオシリーズ初となるボーカル曲を流すだけでなく、詳しくは書けないがこんなことやられては古参ファン涙もの、ということをやってのけた。もうこのゲームのクライマックスはこのイベントで間違いないだろう。その後のクッパ戦に向かう過程や、クッパ戦からエンディングまでのシークエンスも熱いことは否定しないが、それでもニュードンクシティがナンバー1のクライマックスである。道半ばなのに、だ。

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ゴッサムシティではない

こういった構成の崩し方は随所に見られる。普段であればなんやかんやあってスターやコインを集めて最後にボスキャラクターを倒して次のステージへ、というのがマリオに限らずアクションゲームのおきまり。けれど本作においてはステージ開始直後にボスを倒して別のミッションが課せられたり、初めから可視化されているボスをステージ全体を駆け回って倒すなんてことまである。

クライマックスのずらし方やステージ進行の多様さからも、マリオかくあるべしというお約束からの脱皮、そして新しいマリオを作ろうという強い意志を感じさせるものがあった。

 

  • 回帰✖改革=驚き

プロデューサーの小泉歓晃氏はファミ通のインタビューで次のように語っている。

でも、『マリオ』シリーズはいろいろなことにチャレンジするタイトルでもあるので、多くの方に理解していただける“共感”は大事にしつつも、それだけではなく、ちゃんと驚きを与えることを肝に銘じて作るようにしようと。やはり、商品には心に刺さるという点があることが大事だと思っていまして。いまおもしろいというよりも、5年後10年後にも“あのシーンを思い出す”とか“あの手応えが忘れられない”と言ってもらえるような驚きを与えられるものを作ろうと、開発チームに伝えました。

 原点回帰、そしてアクションや構成の改革は、こうした驚きを生むためのチャレンジ(の一要素)だったに違いない。狙い通り、おおいに驚かさせてもらった。3Dマリオは箱庭、ステージクリア型問わず傑作揃いであるが、『スーパーマリオ オデッセイ』はそれらに比肩する、もしかするとそれらを超える最高傑作であると、5年後10年後に思い返すことになるかもしれない。

Nintendo Switchユーザーにとっては『ゼルダの伝説BotW』『スプラトゥーン2』に続く必携タイトルだ。