「湯浅政明の夜明けを告げる」ルーのうた

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夜明け告げるルーのうた』を見た。驚いた。湯浅政明監督が新たなステージに踊り出たのだ。

 

・ドラッグ、トリップ、湯浅政明

湯浅政明監督といえばフジテレビのノイタミナ枠で放送された『四畳半神話大系』『ピンポン』で有名かと思うが、どちらもノイタミナという受け皿があったからこそ放送できたであろう独創的な映像作品であったことは見た人ならご存知かと思う。けれどあの2作が特殊なわけではなく、それ以前にWOWOWで放送されたオリジナルアニメシリーズや、そして監督デビュー作である映画『マインド・ゲーム』に至っては、更にアナーキーでドラッギーな作品であった。だから湯浅政明監督は、なんだかへんちくりんでぶっ飛んでいるトリップ映像作品しか作れない、いわゆる「一般ウケする映画」が作れない人だという固定観念を持ってしまっていた。

『夜明け告げる~』に先んじて公開された『夜は短し歩けよ乙女』は、まさにそんなアナーキーな湯浅監督の集大成ともいえる映画となっており、森見登美彦氏の原作におけるマジックリアリズム的色合いが監督独自の映像表現により一層引き立ち、原作ともまた異なる印象を物語に添える傑作だった。

 

・これまでにない、物語とキャラクターの力


『夜明け告げるルーのうた』予告映像

そして『夜明け告げるルーのうた』だ。予告映像を初めて見た時の印象は、『夜は短し~』に続いて湯浅監督のドラッグ映画がまた一本増えることへの期待と、監督作を見たばかりなのにという若干食傷気味な面持ちだった。それがどうだろうか。いざ鑑賞した映画から受ける印象はとても晴れやかだ。いつもの「なんかやべぇもん見ちまったな…」という困惑がないのだ!

この映画を清々しい印象にしている要因は、瑞々しい物語とキャラクターの力に他ならない。

物語は王道の青春ジュブナイルファンタジー。瀬戸内海を思わせる港町・日無町に東京から越してきた中学生カイが、音楽に引き寄せられて現れた人魚の女の子ルーと出会い、地元の中学生である遊歩と国夫とのバンド結成や、ルーを利用しようとする大人たちとの争いを乗り越え、やがて心を開くというもの。筋だけを追えば宮﨑駿監督の『崖の上のポニョ』や、今敏監督が執筆した漫画『海帰線』を彷彿とさせるものだが、そこは現代アニメで王道を書かせたら他にいない吉田玲子さんの脚本である(代表作は『けいおん!』『ガールズ&パンツァー』)。台詞や仕草の丁寧な積み重ねに自然に引き込めれ、カイを、ルーを応援したくなる気持ちが止められなくなってしまった。

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キャラクター原案を手がけるは漫画家として活躍しているねむようこ先生(『午前3時の無法地帯』、大好きです)。アニメのキャラクターデザインを手がけるのはほぼ初めてのこと。これまでは原作付きであってもどこか異世界の住人ばかりに見えた湯浅作品であるが、本作の地に足の着いた、それでいてキュートなキャラクターの数々はねむようこ先生とのタッグなくしては生まれなかったであろう。

 

・湯浅監督の原点回帰

強い物語とキャラクターを得た『夜明け告げるルーのうた』は、「ユニークで、楽しい、一般受けする」映画となり、湯浅監督の新たな一面を引き出すことに成功した。そしてこの気持ちのいい映像体験こそ、ルーツである『ちびまる子ちゃん』や『クレヨンしんちゃん』で監督が描き、そして世界に向けて改めて本当に描きたいものなのだろう。

新海誠監督に、山田尚子監督、片渕須直監督、そして湯浅政明監督。ベテラン監督の次世代ステージがリアルタイムに更新されていく様を追える、現代アニメ映画はやはりとてつもなくオモチロイ。(湯浅監督風に言ってみる)(やはり監督のセンスはちょっとずれてる)(ダンスシーンだけはサムいと思った)