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人工知能を愛せますか? 『人喰いの大鷲トリコ』レビュー

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2017年1月8日の朝日新聞朝刊別冊「GLOBE」の特集は「人工知能を愛せますか?」。男性のパートナーとしてのアンドロイド・エリカや、すでに実用化されている携帯電話型ロボットのロボホンに始まり、人工知能(AI)の技術革新により去来する不安や幸福に向き合った興味深い特集だ。これを読んでいて思い出したのだが、先日クリアした『人喰いの大鷲トリコ』もずばり、トリコというAIと向き合うゲームだった。

しかし私自身はこのゲームのプレイ中、どうしてもトリコを愛し切ることができなかった。

 

  • 『人食いの大鷲トリコ』について

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本作は『ICO』や『ワンダと巨像』のディレクターである上田文人氏による11年ぶりの最新作。謎の砦で目覚めた主人公が大鷲トリコと共に脱出を図るというアクションアドベンチャーゲームである。

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特徴的なのはやはりこのゲームの核となるトリコとの交流。大鷲、といっても羽が折れ4本足で主人公を追いかける様はまるで巨大な犬か猫かのようで、とても愛らしい。ゲーム中はトリコでないと越えられない崖や、トリコでないと倒せない敵が次々と現れるため、プレイヤー=主人公は身振り手振りでトリコに指示を出し、障害を乗り越えていく。

AIとの交流を描いたゲームはもちろんこれが初めてではない。どこからをAIと定義するかという議論の余地もあろうが、『たまごっち』や『シーマン』、『Nintendogs』といったゲームはAIをテーマにしていたと言って差し支えないだろう。ただし本作の「巨体を持ったAIと共に謎を解きゴールを目指す」という設定はかつてないものだ。巨大ロボの肩に乗って闘うアニメ『ジャイアントロボ』やゲーム『ギガンティックドライブ』をこよなく愛する私としては、相棒が巨大で、しかもその背に乗って冒険できるという設定だけで、心を鷲掴みにされてしまった。

 

  • 私がトリコを愛し切れなかった諸要素

但し最後の最後まで、相棒であるトリコを愛し切ることができなかったのが私自身の本当の気持ちである。要因はゲームを取り巻く環境、AIの反応、操作性と多岐に渡る。

まずこのゲームが上田文人氏の過去作であるICO』(2001年発売)の語り直しであることがずっと引っかかっていた。『ICO』は主人公であるイコが、ヨルダという少女と共に城を脱出するアクションアドベンチャーゲームであり、今作と設定が酷似している。またキャラ配置はイコ=謎を解いて道を切り開く・敵を倒せる、ヨルダ=謎解きのキーとなる・敵との戦闘中に敵に異空間に引きずられたらゲームオーバー、となっている。これはやはり『人喰いの大鷲トリコ』の、主人公=謎を解いて道を切り開く・敵との戦闘中に敵に異空間に引きずられたらゲームオーバー、トリコ=謎解きのキーとなる・敵を倒せる、という配置と一部を入れ替えながらも共通したものである。同じクリエイターが語り直しをするのを否定するつもりはないが、私自身は11年、企画発表の2009年から数えても7年待ったのである。もっともっと、新しいものを見たかったのが本音だ。

またAIであるとのトリコとの交流要素も難点が多かった。主人公はR1ボタンと各ボタンの組み合わせでトリコに指示を出すことができるのだが、方向指示が正確に伝わっているのかそうでないのかよくわからないまま、トリコが私の意に反する方向に行ったり来たりするという場面が何度もあった。このゲームの魅力でもある立体的で複雑な砦の情景や、物理的なデータ表示を廃した雰囲気重視の映像表現が仇となって、こういう事態が発生していると思われるが、何か改善の余地はあったのではないかと思う。はじめのうちはトリコの気まぐれさと思って愛らしく思えていたが、最後まで繰り返し発生するためにイライラが積もってしまった。

最後に操作性についても触れておく。本作はとかくダイナミックなカメラワークを設定されており、屋外においてはそれがドキドキハラハラを呼ぶ場面も多いのだが、狭い屋内になると酔いを引き起こすほどの暴れ馬っぷりを発揮してしまい、長時間のプレイが困難だった。またトリコの毛並みが謎の吸引性を発揮しており、主人公が接触すると自動的に張り付いてしまうものだから、意図した操作ができなくなるという場面も多々発生していた。終盤で「×ボタンを押しっぱなしにしていると引っ付かない」ということに気づきはしたが、基本動作なのだからゲーム中に説明があってもよかったのではないだろうか。

 

  • あなたはトリコを愛せるかもしれない

とまあ気になる部分は多々あるものの、これらは私個人の感想。トリコはAIであるし、プレイヤーそれぞれの遊び方、気の持ちようで愛せるか否かは変化するはずである。

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前述のように本作は唯一無二のゲームである。上田文人作品の最大の特徴である叙情的なストーリーは健在であるし、神秘的という言葉では片付けられない程の情景の数々には、何度も足を止めて見入ってしまった。ゲームという枠に収まらない、価値ある体験ができるのも確かである。

未来のことはわからないが、今の人工知能はここにある。是非多くの人が本作に挑戦し、2016年の最新ゲーム用人工知能を愛することができるか、自らを試してもらいたいものである。