『新・光神話 パルテナの鏡』クリア後レビューと桜井政博ゲーム論

3DSの大型新作『新・光神話 パルテナの鏡』のストーリーモードをクリア。ボリューム少なめかと思って手を出したら、大ボリューム&合間のオンラインプレイが楽しくて少々時間がかかってしまった。最後まで怒涛の展開で大変楽しませて頂きました。

さて本作は桜井政博氏の『スマッシュブラザーズX』に続く久しぶりの新作。桜井氏はファミ通の連載コラムなどで自分なりのゲーム論を公表し実行してきただけに、本作もきっと「ザ・桜井ゲーム」を見せてくれるんだろうと楽しみにしていたらその通りのものが出てきた。いつも以上にアクが強いゲームに仕上がっているが、そのゲーム論を理解してプレイすると「ああそういう意図があるのか」と納得して、より楽しめるのではないかと思うので紹介してみる。

  • 「リスクとリターン」と「悪魔の釜」

桜井氏曰くゲームの面白さの核は「リスクとリターン」のバランスだという。
例えば『テトリス』。端っこに隙間を作ってどんどんブロックを積んでいくとそれだけゲームオーバーに近づくが(リスク)、その隙間にまっすぐな棒を突っ込めば、一気にブロックが消えて高得点をゲットできる(リターン)。
例えば『リッジレーサー』。高速でカーブに突っ込むとそれだけ壁に車体をこする可能性が高くなるが(リスク)、そこで高速のままドリフトを成功させればタイムを縮めることができる(リターン)。
例えば格闘ゲーム。あまり詳しくないので特定のタイトルを挙げないが、多くのゲームの強い技はコマンドが複雑で、入力を失敗する可能性も高いが(リスク)、成功すれば大きく敵の体力ゲージを削れる(リターン)。
パルテナの鏡』では、「悪魔の釜」というシステムでリスクとリターンに桜井氏なりの回答をした。これは多くのゲームに実装されている難易度調整に近いものだが、よりシビアにリスクとリターンを味わえヒリヒリするするものだ。
プレイヤーは各ステージを始める前に、悪魔の釜で難易度を1.0〜9.0まで90段階から選ぶことができる。高難易度を選ぶともちろんゲームオーバーしやすく、そればかりでなくハートというゲーム内通貨をより多く支払わなくてはいけないが(リスク)、その分ステージ内で手に入る武器が高性能となっており、入手できればその後のステージやオンライン対戦で役に立つ(リターン)。ゲームオーバーになってもステージ中で入手した武器は持ち帰ることができるが、価値が下がり入手数も減ってしまうので、自然と自分なりの難易度を探り、ギリギリのゲームプレイを味わうことができる。何も考えずに低難易度でプレイすることはできるが、弱い武器しか手に入らないのでやる価値がない。プレイヤーそれぞれが、リスクとリターンを能動的に味わうことができる上手くできたシステムだ。

桜井氏のゲーム、更に言うと任天堂のゲームが常に意識しているのがゲーム初心者だ。しかしただ簡単にするだけでは上級者は退屈で離れていってしまう。桜井氏は常にゲームジャンルを一度解体し、面白さのポイントを抽出して全く新しいゲームを構築してきた。『星のカービィ』は「落ちないアクションゲーム」、『スマッシュブラザーズ』は「吹っ飛ばす格闘ゲーム」、『カービィのエアライド』は「アクセルボタンを押さないレースゲーム」、『メテオス』は「打ち上げて消す落ち物パズルゲーム」、そして本作は、「タッチペンと2ボタンだけしか使わないTPS(サードパーソンシューティング)ゲーム」だ。
TPSというジャンルは、現代TPSこそ『バイオハザード4』がその礎を築いたものの、国産タイトルが殆ど出ていない不遇のジャンルだ(『バイオ』以外にヒットしたタイトルは……『地球防衛軍』ぐらい)。海外では『ギアーズオブウォー』や『アンチャーテッド』、操作性の似ているFPSでは『Halo』『コールオブデューティ』など大ヒット作があるものの、国産タイトルがヒットしない、少ないのは、操作の複雑さと残虐性が祟ってのことだろう。
そこを切り崩したのが桜井氏。本作では移動にスライドパッドを、ショットにLボタンを、タッチペンに照準、方向転換が割り当てられている。この操作方法だけを覚えれば自在にキャラクターを操ることができるので間口がとても広く作られている(残虐性は、任天堂ワールドがオブラートに包み込んでいる)。
もちろん間口を広く、奥を深く作るのが桜井流。武器の選択により様々な戦い方ができるし、タッチペンの方向転換は慣れれば『電脳戦機バーチャロン』並のハイスピード戦闘を行えるようになるので、上級者でもいつまでも飽きずに戦い続けられる。
過去に任天堂は『罪と罰』でTPSに風穴を開けようとしたことがあったが……、あまりにもマニアックな作風のためについて行けたのは極一部のゲームジャンキーだけだった。任天堂の、ひいては日本のメーカーが苦手とするTPSに、新たな入門用作品を築いたのは偉業と言えるのではないだろうか。

どんなゲームを遊ぶときにも「リスクとリターン」の関係性を意識しておくと、よりゲームを深く楽しむことができる。またそのゲームを自分が再構築をするなら何を捨て何を残すのか、を意識することでゲームの面白さの核が見えてくる。桜井氏のゲームのファンからは当たり前と言われそうなポイントだが、氏のゲームはもちろんのこと、古今東西あらゆるゲームを遊ぶうえで意識すべきことだと思うので、自分の頭を整理するためにも敢えてまとめてみた。
桜井氏にはこのままあらゆるジャンルで革命を起こし続けてほしいのだが……氏の次回作は既に任天堂岩田社長の命により3DS版『スマッシュブラザーズ』とWiiU版『スマッシュブラザーズ』ということが確定してしまっている。だから桜井氏が任天堂に拘束されている間に、各メーカーの製作者がもっと桜井流ゲーム論を意識して、全世界のゲームがもっとレベルアップしてくれたら、と思わずにいられない。