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傑作『コクリコ坂から』ネタバレ無し雑感

ジブリアニメといえば食事シーンと言われるくらい、他のアニメでは見られないほどにジブリアニメのキャラクターたちは美味しそうに食事をする。コクリコ坂は冒頭からしてヒロイン・海の調理シーンから始まるので、おージブリアニメが始まった始まった、と楽しく見ていたのになんだかもうこのシーンでなぜか涙腺が決壊してウルウル。中盤の掃除のシーンでもウルウル。もちろん終盤の劇的なシーンではずっと泣きっぱなし。
これだけ感動したのはきっと、この映画の舞台である1960年代に生きる若者たちの日常の所作が美しく、活力に溢れ、今に生きる自分にも共感できるところが多いからだろう。そしてこんなに愛にあふれた作品を、あの『ゲド戦記』と同じ宮崎吾朗監督が撮ったことには驚いた。とても面白かった。いや面白かったでは言葉が足りない。これは傑作といっていいと思う。2000年以降のジブリ作品から選ぶなら一番好きだ。これだけキャラクターに感情移入して、何度も泣いたジブリ作品は近藤喜文監督の『耳をすませば』以来なのだから。

ジブリアニメがこれだけの市民権を得ている以上、ジブリアニメには「エンタメ性」「メッセージ性」「アート性」の全てもしくは一つでもなくてはいけないと思うのだが、監督の前作『ゲド戦記』にはその全てが欠けており、何度見てもやはり失敗作という印象は否めない。
今回「メッセージ性」は強く感じた。携帯電話もない時代に生きていた、若者の活力。受け継がれたものを大切にする、思い。制作終盤に発生した地震と絡めるつもりもないのだろうが、今の日本に必要な気持ちが詰まっている。ただメッセージ性が強いばっかりだと『床の下のアリエッティ』みたいにうるさく感じるところだが、1960年代という今とはかけ離れた世界が舞台だからか、メッセージもオブラートに包まれていた。これぐらいがちょうど良い。
「アート性」も充分ある。コクリコ荘を中心に描かれる海の住む世界はとても魅力的で、特に物語のキーにもなるカルチェラタンの造形は、最もファンタジーで、ジブリらしく、まるで現実世界に現れた『千と千尋の神隠し』の湯屋。こんなに楽しい世界に住む海の生活ならもっと見たいと思え、91分という上映時間は短く感じた。
コクリコ坂から』は、うるさすぎない程度の「メッセージ性」をもち、カルチェラタンの造形に「アート性」を感じるので、なるほどジブリアニメらしいと思う。「エンタメ性」については、ファンタジー作品ではない分『床の下のアリエッティ』など他のファンタジーものに比べると弱く、決して大ヒットはしないと思う。ジブリが目標にしている興収50億にも達しないかもしれない。でも私は、ファンタジーじゃなくても、それで大ヒットしなくても、こんなに静かに熱いメッセージ性をたぎらせ、魅力的な物語世界を描き切った『コクリコ坂から』が大好きだ。

  • 絶対に許さないと誓ったけれど

原作ファンだっただけに『ゲド戦記』の不出来は絶対に忘れられないが、こんなに面白い作品を見せられたら宮崎吾朗監督のことは許さざるを得ない。偉大な親の、そして注文の多いジブリファンの重圧に耐えて作り続けられるなら、今後の活躍も楽しみだ。