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現実の芝居から小説の芝居へ bpmと『シアター!』の話

先日、人に誘われて観に行ったのが、劇団bpmの『シーサイド・スーサイド』という劇。
金を払って芝居を見る、というのは2年程前にやはり誘われて観たキャラメルBOXのなんとかという劇以来のことで、別にそれ以来観に行かなかったことに大きな理由はないのだけれど、感動こそすれ大金払って観るほどではないのかなあ、と自発的に観に行くことはなかったのですよ。でも『シーサイド・スーサイド』は脚本・演出を浅沼晋太郎さん(アニメ『ゼーガペイン』『にゃんこい』主演)がやられてて、この劇自体に出演もされていて、『ゼーガペイン』も『にゃんこい』好きだし、『ゼーガペイン』のBD出て欲しいし、と食指が動いて久しぶりに演劇というものが見てみたくなった。
観たらもう、自分の動揺ぶりにびっくりするぐらいに感動して。感動、と言ってもそれは確かに泣ける要素もあったけど、全編とにかく笑わせよう観客を楽しませようという気概に満ちていて、エンターテインメント性のレベルの高さに圧倒されて。そうしたら自発的に手が伸びて、その日の夜にやるもう一つの公演『ハイカラ』の当日チケットも購入。更に笑いのギアが一段上がった『ハイカラ』にはもう、始終笑わされっぱなしで、本当に浅沼さんはすごいなあ、両公演に出られている秋枝直樹さんの怪演ぷりはただ事ではないなあ、と感心しきり。知っている声優さんが出ている生の芝居だから、と多少贔屓目に見てしまったのかもしれないが、この2作は私みたいな演劇素人に、もっとこの世界を知りたい、と思わせるには十分なインパクトを残していったのだった。


で、昨日本屋に寄ったら平積みの一角をなにやらメディアワークス文庫なる新創刊の見慣れぬレーベルが占めており、中には有川浩先生の新刊『シアター!』が。「赤字経営の貧乏劇団を立て直す」という筋だけ読んでレジに直行したのはbpmの公演に感動したばかりでは仕方のないこと。

現実の芝居は観客の前に夢しか見せないけれど、この小説で描かれるのは、舞台の裏で貧乏と戦い、必死で脚本を書き、稽古に奮闘する、そんな現実の姿。条件付きで貧乏劇団の赤字補填に300万円を貸す面倒見の良い兄と、経営能力皆無ながらも最高の脚本を書ける弟が、団員みんなと黒字化を目指す、なんて現実にだってありそうな話じゃあないですか。
ただ一点多くの現実と違うのは、人気若手声優の劇団入りがトリガーとなって劇団の未来が変わっていくだなんて、夢のような展開が用意されていること。七色の声を使い分ける天才の登場に触発された弟くんは気持ちを切り替え、劇団に構造改革を起こし、そして……。このメインヒロインの声優兼女優さん、入団テストでの天才的な演じ分けの描写を見るに、現実の声優界で言えばあの人しかあてはまらないよなー、でもありえないよなあははー、と楽しく読み終わって後書きを開いたら頭に雷が落ちてきたような衝撃を受けた。なんと想像してた通りの某声優さんの現状をモデルにして、この作品は書かれたとのこと。えー!?


現実は時折、小説を飛び越えて、夢を見せてくれるようだ。この天才声優さんが現実世界で出演される来年2月の公演、絶対見たい。