妙なる技の乙女たち

軌道エレベーター」―――莫大な費用をかけなければ人ひとり宇宙に運べない世の中を一変させ、地球と宇宙との行き来を容易にする長大な筒。現実世界では未だ実現の目処が立っていないものの、SF的には割とポピュラーな存在だ。
先日読んだ野尻抱介の短編集『沈黙のフライバイ』の一篇でも、筆者自身を宇宙に運ぶ嘘実録記の中で登場していたし、現在放送中の『機動戦士ガンダムOO』では3つの超大国群がそれぞれエレベーターを保有している設定。ゲーム的にはPS2の傑作ロボットアクション『Z.O.E.』シリーズ、のアニメ版で重要な役を負っていたり。


そんな軌道エレベーターが実現した世界を描いた短編集なのだから、さぞかし宇宙での人類の活躍が詰まっているのだろう、と思ったらそこは小川一水。『妙なる技の乙女たち』は、人類が容易に宇宙に旅立てる世界を舞台にしながらも、宇宙が直接的に描かれるのは極わずか。そのほとんどは、そんな軌道エレベーターの足元、赤道直下のリンガ島で懸命に働く女性たちの物語で構成されている。


工業デザイナー、不動産屋、保育士に芸術家と、バリエーションは様々だが、主人公が就いているのはどれも私たちの身近にある職業。だからこそ、2050年を舞台にしながらも、現実の延長線上にある物語としてするりと頭に入ってくる。海のタクシー艇長なんてのはいかにも赤道直下の島の職だが、最近よく見る女性タクシー運転手に置き換えて読む事だってできる。
ところどころSFな設定も顔を覗かせるが、あくまで働く彼女らを惹き立て、物語を進行するための舞台装置にすぎない。早川や朝日ソノラマを中心に活躍していた著者にとっての初のポプラ社からの著作なだけあって、小川一水作品にしては最もSFっぽさが薄い。が、その分著者のどの作品にも見られる、人間に対する深い愛情がより鮮明に伝わってくる。突き詰めていけば、SFなしでも小川一水は良い作品を書けるんじゃないだろうか。


大石まさるの『水惑星年代記』なんかもそうだが、「働く女性」と「SF」ってのはどうも相性が良いらしい。こういう話、大好き。