劇場版 空の境界  第一章 俯瞰風景

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同人業界で圧倒的な支持を得るTYPE MOON。彼らがどうしてここまで登りつめたのか? どれだけ面白いのか? 名前を見るたびに疑問は積み重なり、常々彼らのゲームをやろうやろうと思ってはいたものの、かなりのプレイ時間を要すると聞いてから臆してしまい、以来現在までやらず仕舞いできてしまった。そんな私も紙媒体なら時間もかからないだろう、と手をとったのが、TYPE MOONのライター、奈須きのこ氏の著作『空の境界』だった。
厚いノベルス2冊分。手軽に読もうなどという気持ちはその濃厚な物語世界に浸るうちに掻き消えたが、代わりに、何か新しい小説に巡り合えたときに味わう、世界の広がりとでも言おうか、上手く言葉に表せない感覚を覚えた。この本と向き合っていた時は、とても充実した読書時間を満喫していたように思う。

そういう曖昧模糊とした感情や断片的な描写は頭にこびりついている。だが、3年前に読んだ小説がどういったストーリーだったかと聞かれてもそれは、霧の中、藪の中、よく思い出せない。そういったわけで「映画版は小説のストーリーをどの程度忠実に再現したの?」という質問には答えられなさそうなので、そこは他のレビューに譲る。


私は、先のわからない、1本の映画として、『劇場版 空の境界』に立ち会うことが出来た。これは幸運なことだったように思う。
なぜなら『劇場版 空の境界』は「映画として」とてもよくできていたからだ。


物語上の事項を消化していくだけで終わらせてしまう、悪い原作付き映画も少なくない中、『劇場版 空の境界』は原作の持つ「空気」を再現することに苦心している。だから上映時間が1時間に満たなかろうとも、式にハーゲンダッツアイスクリームをあんなにじっくりと食べさせるし、橙子にはきちんと長台詞を吐き出させる。
劇場用映画が初めての会社が作ったとは思えないほど作画は上質だし、それ以上に退廃的な背景美術が恐ろしくも美しい。梶浦由記の音楽は時に映像を惹き立て、時に強く自己主張し、映像と寄り添いながら映画の空気作りに一役買っている。
そういった空気の再現が自然と「映画らしさ」に結びつき、どんなに短くても「映画を観た」という気にさせるだけの、映画らしい映画になっていた。原作付き映画の見本にしたいぐらいの徹底振りには感服。


上映2時間前に劇場に着いても立ち見チケットしか買えなかったときには愕然としたが、『劇場版 空の境界』は、待ち時間を忘れさせるほど強いインパクトを見せつけあっという間に幕を閉じ、謎だけを残して次章へと続いてしまった。次が待ちきれないこのワクワク感は、小説を読み進めていたときのワクワク感と、どこかとてもよく似ている。

あとはufotableの悪しき伝統を断ち切って、最後までクオリティを維持し切ってくれればいいのだが……。『ニニンがシノブ伝』だけは最後まで面白かったんだ。ufotableはやればできる子。そう信じて、次章を静かに待ちたい。