1950年のバックトス

円紫先生に覆面作家、近作では大正を舞台に展開するベッキーさんシリーズなど、北村薫といえばまずは短編推理モノが思い浮かぶところだが、『1950年のバックトス』は短編集なんてもんじゃない。短いもので3ページからなる、23編に及ぶ筆者初の「超」短編集だ。


さすがにこれだけ雑多な作品が出揃うと共通のテーマというのは捉え辛いが、あえて挙げるならば、多くの作品が「美しかった過去を慈しむ気持ち」に溢れている。だからといって後ろ向きな作品ばっかりなのかというとそうでもなく、登場人物の多くは過去を懐かしみながらも、視点は皆、この先に待つ「未来」へと向けられている。

特に表題作『1950年のバックトス』にはこの思いが顕著に表れている。物語の前半こそスポーツに夢中な息子との生活が母親視点で描かれるが、後半では義母による過去の輝かしい思い出が描かれる。親子三代を結ぶ1本の糸は―野球。孫が野球をやっていたからこそ叶った、50年の時を越えて実現した感動のラストには思わずホロリとさせられた。


最近若手の作家ばかり読んでいたせいか、暖かい大人の目線で描かれる北村薫ワールドに浸っていると、落ち着いた文章がとても心地よく感じられた。ミステリでも、ましてやSFでなくても、北村薫、全然イケルじゃん。