ユウキズ・ダイアリー

アニメ・映画・ゲームについての雑記

茄子 スーツケースの渡り鳥

『茄子 アンダルシアの夏』が映画化される!と聞いたときは、敬愛する黒田硫黄の分かりづらくて泥臭くてとてつもなく面白い原作をそんなに簡単にアニメにできるわけないだろーと懐疑的に感じたものの、「それでもまあどうなってるのか気になるし」と映画館に足を運んだ。実際スクリーンに映し出され活き活きとアニメーションするぺぺの姿は(浦沢直樹宮崎駿を折衷したような画になってはいたが)どこまでも原作に忠実に、それでいてわかりやすい形に上手く映像化されており感心した。が、その反面原作にあった独特の泥臭い"クセ"はすっかり抜け落ちており、さすがにそこまでをアニメに望むのは無茶だったか……と残念に感じたものだった。



今回観たのはその映画の続編となるオリジナルビデオアニメーション『茄子 スーツケースの渡り鳥』。前作の様に映画という形を取っていないのでイマイチ話題になっていないのだが、映画にしては短かった前作より尺は長くなっているため見劣りはしない。前作の出来には不満をネチネチと吐いていたのになんで今回も観たのか?というと、作画監督吉田健一に交代したから、という一点に他ならない。


吉田健一スタジオジブリ出身のアニメーター。ジブリ最後の大作『もののけ姫』で作画監督を務めた後、同社を退職。以降はフリーのアニメーターとして『マスターキートン』や『オーバーマン キングゲイナー』で活躍していた。ボンズ初の1年もののTVアニメ『エウレカセブン』では初の単独でのキャラクターデザイン&総作画監督を務め、これまで秘めていた氏の作家性を遺憾なく発揮した。特に第26話は出色の出来……もうこれ以上いいだろうか。要はとにかく「よしけん」のファンだから観た。こんな目的で観た人間は少ないだろうが知らん。

吉田健一の作画は期待していた通り、いや期待以上のものだった。前作以上に宮崎駿寄り、というよりかまるでペペとチョッチはルパンと次元の生き写し状態たが、吉田健一なりのやわらかい線は前作以上にキャラクターに躍動感を与え、「原作に似せようとしたけどちょっとずれました!」な前作とは違ってアニメ版『茄子』として独立した新たな画が確立されている。

失礼ながら期待していなかった、というか20ページちょいの原作をどうやって50分超に引き伸ばすんじゃい?と懐疑的だった脚本も非常に良い出来でビックリした。原作では言葉足らずだった行間をカバーし、あっさりしていたレースシーンも大幅に追加し白熱したものに。本来存在していなかったチョッチの回想やヒロインの追加によって物語全体が良い方向に膨らみを増している。



はっきり言ってしまおう。前作『アンダルシアの夏』はおろか、原作版『スーツケースの渡り鳥』も超えた傑作アニメである。アニメファン必見。前作に不満を抱いた私のようなへそ曲がりも必見。原作版にはこの続きが存在しないため難しいだろうが、アニメオリジナルの脚本でも構わない。否が応でも今回と同じスタッフによる続編も期待してしまう。