パンズ・ラビリンス

夜の闇に潜む幽霊に怯えて1人でトイレにも行けず、サンタクロースの存在を信じてクリスマスイブは胸をときめかせていた子供の頃。大人になってしまった今となってはそんな「夜」が特別なものではなくなってしまったけれど、この映画を観て、可憐なオフェリアと試練を伴にした今なら、不思議なモノに出会っても信じられそうな気がする。


軍人の義父の命令で、ゲリラとの戦いが続くスペインの山間に母と供に連れてこられた少女・オフェリア。住み慣れない家での最初の晩、彼女は迷宮に迷いこみ不思議な牧神・パンを目にする。「あなたこそは王女の生まれ変わりだ」 父を好きになれない彼女は現実を逃れ、彼の言うことを信じ3つの試練に立ち向かっていくのだが……。

少女の視点だけを追えば宮崎駿インスパイアな逞しい冒険物語として捉えることができるのだが、カメラは容赦のない戦争という現実をも映し出し、自然と観客は「少女」と「大人たち」という2つの視点を持って止めようのない物語の進行を傍観することになる。大人から見ればオフェリアは戦争に巻き込まれたかわいそうな女の子。オフェリアにとってみれば試練も戦争もどちらも一生懸命になるしかない現実の世界。だから映画がああいった終わり方を迎えようと、彼女にとっては幸せでしかないのだろう。パンも試練も現実から逃れたい一心から生まれたオフェリアの妄想だったとしたら……そんな想像はあまりにかわいそう過ぎる。


今作の監督を務めたのは今最も熱いとされるメキシコ人監督たちの1人、ギレルモ・デル・トロ。同じくメキシコ人監督が作った『トゥモローワールド』『バベル』はどちらも北米映画にないドライな印象を受けたものだが、『パンズ・ラビリンス』は非常にウェットでいて繊細。他のメキシコ人監督作よりも見やすいし、これで公開規模が大きければ今以上の大ヒットも望めたのではないだろうか。これからもメキシコ人監督たちの動向には熱い視線を送っていきたい。