『ゲドを読む。』


ゲドを読む。』公式サイト
http://club.buenavista.jp/ghibli/special/ged/about.jsp


昨年夏にスタジオジブリ製の『ゲド戦記』が上映され良くも悪くも話題になったが、映画は観たけど原作は読んでない、という人は多いように思う。これは『指輪物語』が『ロード・オブ・ザ・リング』として映画化されたときとは違って、ジブリの、しかも宮崎駿の息子が監督するという、作品そのものとはずれた部分の話題にばかり注目が集まってしまったせいだろう。


そこでDVD発売キャンペーンの一環として生まれたのがこの本、『ゲドを読む。』。文庫サイズながら定価0円のフリーペーパーである。


糸井重里プロデュースの本書は、人類学者の中沢新一氏による「『ゲド戦記』の愉しみ方」をメインに、ゲド戦記の美しい文章から抜粋した「『ゲド戦記』のなかの心に染みることば」、日本語訳を行った清水真砂子さんや小説家の上橋菜穂子さん、中村うさぎなどの過去に書かれた文章をまとめた「いくつかの重要な『ゲド戦記』論」が収録されている。


原作版未読の人にとっては、「原作ってこういうストーリーで、こんな深い内容なのか」と興味を持つことができるだろうし、既読の人にとっては「『ゲド戦記』にはこういう捉え方もあるのか」という新しい発見があるだろう。映画版未見の人にとっても「監督も思ったより色々考えて作ってるんだな。じゃあ観てみようかな」という気にさせられる元文化庁長官 河合隼雄氏との対談も収録。映画だけ、原作では成し得なかった、それぞれを結ぶ架け橋としての役割を見事に果たしている。


特に30年以上に渡って日本向けに訳してきた清水真砂子さんへのインタビューは原作を読んだ方なら必読の内容。発売当時賛否両論を浴びせられた4巻を訳す際、それまでと違って初めて頭だけでなく「全身で訳せたという感じがした」という彼女の原作との距離は、私たち「読むだけの読者」と違ってずっと原作者 アーシュラ・K=ル・グウィンに近いものだったのだとよくわかる。新監督への期待を寄せる映画未見時のコメントも記載されているが、残念ながら清水さんの映画への感想は載せられていない。彼女がどういう感想を抱いたのかは知らないが、映画の販促物にはさすがに否定的意見は載せられないのだろうか。