『海街diary1 蝉時雨のやむ頃』


今年のベストマンガは『おおきく振りかぶって』第8巻、と言いたいところだったんだけど、昨日買ったこのマンガ『海街diary1 蝉時雨のやむ頃』があまりにも良かったので暫定1位に確定。この場を借りて紹介してみる。


  • 鎌倉という舞台背景


山と海に囲まれ多くの古刹が残る鎌倉という地は、京都・奈良に代わる観光地という以上に、一度行くと自然と再び行きたくなる、関東人にとっての心のふるさとのような場所である。そのためか映画、小説などで舞台として用いられることが多く、この作品もまたこの地でたくましく生きる3+1人姉妹の物語である。


  • 突きつけられる現実的問題


ある種幻想的な趣きさえある鎌倉が舞台とはいえ、彼女たちに突きつけられるのは誰にでも起こり得る現実的問題。


表題作でもある一話目『蝉時雨のやむ頃』では、長く消息を知らなかった父親の死を知り、優しかった面影だけが心に浮かぶものの、父親の事をあまり覚えておらず素直に悲しむこともできない次女 佳乃や、優しくて駄目な父親をよく覚えているが故に許せない長女 幸らの心の葛藤が描かれる。


続く第二話『佐助の狐』は、いい加減な男ばかりと付き合ってきた佳乃が初めて本気になった男、朋章との恋愛模様。自分のことを話したがらない朋章に対していぶかしみつつも順風満帆に進んでいた2人の関係だが、ちょっとしたことでお互いの嘘がばれ、どうにもならなくなってしまう。


最後を飾る『二階堂の鬼』。4女 すずのクラスメイトである将志の視点から描かれるのは中学生男子の友情、ほのかな恋心、生きることの苦しみ。将来が見えなくても、ただ好きなことに打ち込める中学生の視点だからこそ、世界はより純粋で、美しく映る。


  • それでも4人なら大丈夫

「あたしにモンダイがあるってどーゆーこと!?」
「ズルい男をカンちがいさせてるのは あんたのほうじゃないのかってことよ」

佳乃の男癖の悪さに対して幸が指摘。険悪な雰囲気に新入りのすずは心配になるが、いつものことと慣れている3女 千佳はお笑い番組に爆笑しながらこう返す。

「ああ見えてあのふたり いざって時は結束すんのよ」

その言葉の通り、次のページでは風呂場にでたカマドウマに驚き、泣き叫ぶ佳乃を、幸は近所迷惑だと怒りながらも助けてあげるのである。


あたりさわりのない、どこにでもあるような日常の1コマだが、早くに両親共に出て行ってしまい、お互いを支えあって生きてきた姉妹だからこその見えない結束力が感じられる。そしてそんなかけがえのない「帰る場所」があるから、彼女たちはどんな苦難に遭遇しても、泣いて笑って乗り越えられる強さを持ち合わせているのだろう。


第二話最後の佳乃の台詞は印象的だ。

あたりまえだと思っていたことは 案外あたりまえじゃないのかもしれない

まあいろいろあるけど そんなこんなです

彼女たちはたくましい。


このマンガ自体が、鎌倉のように「再び訪れたくなる」一冊。これからは辛いことがあったらいつでも元気を分けてもらえるように、目の前の本棚に常備しておこうと思う。