ユウキズ・ダイアリー

アニメ・映画・ゲームについての雑記

『天冥の標』はクロノ・トリガーでドラクエⅡ⁉︎ 小川一水先生ネタバレインタビュー@SF大会

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今年2月、全10巻(17冊構成)の大長編SF小説『天冥の標』シリーズを10年もの歳月をかけて完結させた小川一水先生。そんな小川先生への公開インタビューが、去る7/27、7/28に開催された第58回SF大会にて行われたので、その模様をレポートする。1ヶ月の大遅刻だが、今月20日の『ハイウイング・ストロール』、『群青神殿』復刊に合わせたということでひとつ。
なお『天冥の標』ネタバレ全開なので未読の方は回れ右……ではなく今すぐポチろう。
また録音してるわけではないので書き漏らし、書き間違いにはご容赦を。

 

 

【キャラクター人気投票結果発表】

小川一水先生(以下小川)、塩澤快浩氏(SFマガジン編集長、以下塩澤)氏が登場し、人気投票の結果から報告。全36票。
・3位  :アダムス・アウレーリア(3票)
・同率1位:ノルルスカイン、メララ・テルッセン(各4票)
 (4位以下の発表もあったが票がばらけ過ぎていて書ききれず)

塩澤:主人公のカドムに票が集まらないのは、キャラが立たないのが問題でしたね。話が大き過ぎてそれに見合う人間キャラが作れなかったように思います。
小川:なぜこの医者を主人公にしたのか(笑)。最終的に生き残って仕事したからまあいいか、とは思いますが。

――好きなキャラクターは?
小川:メララは好きだし、ノルルスカインは好きとかではないです。イエン・シャオチーはふくらませたかった。ロサリオは好きなので膨らませようと思ったがやめたキャラです。
塩澤:アンケートに誰も入れてない主要人物がいるんですが……ラゴスなんですけど。
小川:男性なのか両性なのか、ふらふらしてしまいました。今後もきっと出てきます。ラゴスそのものではないですが(?)、ああいうめんどくさいキャラクターは。ちなみに彼には元々、大工としての技術を駆使して、壁を作って超新星爆発から守る、というような構想もありました。

 

【最初の構想】

――最初の構想は?
小川:10巻構成で各巻趣向を変えよう、と。どの巻から読んでもいいぐらいな気持ちで始めたました。
塩澤:『第六大陸』のころから書ける人だと思いましたが、女の子が好きであったりとか、ジュブナイル臭がありました。女の子なしでシチュエーションだけで、と依頼して描いてもらったのが『漂った男』、そこから発展したのが『天蓋の砦』です。ただあまりに潤いがない作品だったので、その頃の小川先生は猫拾っちゃってましたね(笑)。ただ、これでなんでも書けると思いました。
『天冥の標』は『ハイペリオン』をやってほしいという気持ちから。その頃は大手から声がかかり始めてたので捨てられないようにと思って(笑)、毎年のように書いてもらいました。
小川:10万部ずつ売れたらいいなと思ったんですが……。
塩澤:『グイン・サーガ』に代わるシリーズになれば、という社内の期待はありましたね。

――「『ハイペリオン』みたいなの」と言われてどうでしたか?
小川:できるかな、とは思いました。時間要素まで入れると終わらないので時間線は一本にしましたが。

 

【意識した先行作品】

――外の世界がある、という点で意識した先行作品は?
小川ハインラインの『宇宙の孤児』です。

――家畜をテーマにした点は?
小川:『幼年期の終わり』でしょうか。でもあんまり意識した作品はないかな。

――イサリ、ミヒルについては?
小川:『』(作品名聞き取れず、イサリ、ミヒル姉妹のベースになった少女漫画らしい)
塩澤:「『ハイペリオン』を」とお願いしましたけど小川一水のモチベーションはこの作品ですからね。
小川:Ⅹ巻PART2での2人の決着シーンは何度か書き直しました。うまいこと憎しみあって戦ってほしいと思って。

 

【各巻について】

――トリッキーな構成にした理由は?
小川:『クロノ・トリガー』がありますよね。2巻で突然ぶっとぶという展開をやりたかった。

――冥王斑について
小川小松左京の『復活の日』。小松左京狂牛病を予言していたのではないでしょうか。あと鳥インフルエンザですね。パンデミックが起こりそうという気がしていました。『北アルプスペスト事件』というのを読んだのも影響しています。

――青葉が最後の最後に出ましたが、そこについては?
小川:Ⅹ巻PART1のチカヤ晩年の執筆時に思いつきました。本当は断章が一から最後まで繋がるといいなと思って始めたが、そうはならなかった。Ⅹ巻に断章九から八一を書くとかしてもよかったが、体力が尽きたので。ノルルスカインやミスチフが裏でやってたこととかを書きたかったんですが。

――Ⅱ巻からⅢ巻の間でまた時間を飛ばしたのは?
小川:200年ほど飛ばしたのは、こんぐらい飛ぶシリーズだぞと見せたかったからです。あと、宇宙戦艦を書きたかった。

――アンチオックスは宗教国家でロイズとは対比的でした。アンチオックスの造形はどこから?
小川:宗教国家を出したのはかっこいいから。これまで理性的で話がわかる人を書いてきましたが、たまには好き勝手やる人たちを書いてみたくなって。ロイズは国家じゃないものが覇権を握るものを書きたくて生まれたものです。笹本祐一の書いたガーランドジャンクション(『スターダスト・シティ』)みたいに。

――火星に人がいないのはなぜでしょうか?
小川:火星もののテンプレを書きたくなかったからレッドリートを蒔きました。地球も書きたくなかった。地球の人口20億人、は説得力ある数字ではなかったですが。

――Ⅳ巻について。ラバーズとオムニフロラは対極的に見えますが。
小川:偶然そうなりました。従う喜びみたいな、マゾヒスティックな面は書けなかったですが。
塩澤:Ⅳ巻はなんであんなことになったんでしたっけ(笑)?
小川表現規制が当時問題になってたので反発した結果です。あと、エロは好きですから。
塩澤:最終的には良かったなーと思いましたが、Ⅳ巻がなければ売り上げがもっと上がったのでは、とも思いましたがどうでしょうか。せっかくなのでアンケートをとってみましょう。
(あまり賛成の挙手は上がらず)
塩澤:大勢に影響なし、と(笑)。でもⅣ巻からⅤ巻で売り上げが目に見えて落ちたというわけではないです。
小川:Ⅳ巻では教師と生徒のシーンが一番好きでした。女生徒がシチュエーションを作り上げてるのが良いですよね。

――Ⅴ巻について。なぜノルルスカインは羊なのでしょうか?
小川:かわいいからです。『電気羊はアンドロイドの夢を見るか』は意識してないです。たまたま。キリスト教とも被せてません。

――ツェンバーガーについて
小川:当時外伝短編を書いたのを5巻最後にもってきて、ああいう形になりました。
塩澤:ちなみにⅤ巻は他の話になるかもしれなかったんですよね?
小川:書こうとしてる時にちょうど震災が起こったので、仙台を舞台にサラリーマンが津波から農業を復興して、そこにノルルスカインが関わるという東日本応援話にしようという構想もありました。だだ、宇宙の話とうまく照合しなくて流れたんですが。

――Ⅵ巻について
塩澤:3分冊にしたのは失敗したなー、と思ってます。小川さんは分量の見通しが立たない人。Ⅰ巻は厚いのはよくないと思ったから分けただけだったのに。
小川:そこはしっかり書いてほしい、というオーダーがあったからですよ。
塩澤:でも面白すぎるじゃないですか! ここがクライマックスで。この後どうするのかなと思いました。
小川ハーゴン(『ドラゴンクエストⅡ』)を倒した後に一旦物語が沈むんですよ。そこからラスボスへ!と。Ⅶ巻があるから大丈夫だと思ってました。

――Ⅶ巻では、サンドラが新しい電源見つけてきたと言って嘘ついたじゃないですか。あれはどういう経緯だったんでしょうか?
小川:サンドラとしては、政治的に使えそうなものがあればと割り切ってノルルスカインを利用していたまでです。

――Ⅷ巻では、テクノロジーが気になりました。セレスの航行に300年かかったのはなぜでしょうか?
小川:セレスは亜光速。Cシップはオーバーテクノロジーなので差が出ました。最初はオーバーテクノロジー出すつもりがなかったんですが。

――光影の小径(チホル・ニス・ホツル)について
小川:ワープっていうとつまらないじゃないですか。そこで超次元からつまんでもらう、という形に。ただ、ハードSFか?と聞かれたら、違いますねと言わざるを得なくなりました。

――メタ進化とは何でしょうか?
小川:進化に任せる星と人意に任せる星の生存競争です。宇宙は人間に興味ないという理論は好きでないので……(このあと長い説明があったが書き切れず)

――キャラクターたちのその後はどのように考えていますか?
小川:作中以上のことは読者のご想像にお任せします。

――エピローグでは救世群(プラクティス)の漢字が"救生群"へと変化していました
小川:弱者救済組織、と書くと楽観はできませんが、そういうことをやっている組織と思ってもらえればと。

――心残りはありますか?
小川:ありません。とりあえずやりきったんで、書き終えた当時は次が浮かばないくらいでした。今は次に取り掛かっていますが。
塩澤:『三体』はまだ読んでないんですが、『天冥の標』にもゲームネタをやるような話もありましたよね? 可能性の話として、やってたらどうなってたかな、という気持ちはあります。
文句を言うと、もうちょっと短くなったかなと。長いと部数落ちてくるので……。
小川:最後の2年はずっとお金を借りて書いてるぐらいでした(笑)

 

【その場で読者から質問】

――オムニフロラはなぜワープ技術を手に入れられなかったのでしょうか?
小川:みんなが必死に隠していたから。手に入れたら逃げていました。

――Ⅲ巻の艦隊戦は推力計算などしていましたか?
小川:移動時間とかは本当っぽくしていました。惑星の配置は物語で矛盾が生じない程度に。

――Ⅹ巻PART3の最後のシーンの日付の意図は?
小川:発売日に合わせたものです。

――作り込み過ぎたと思うことはありましたか?
小川:登場人物が多いのは大変でしたがわかってたので、やらないとは思わなかったし後悔もないです。Ⅷ巻までの枠組みは最初からありました。Ⅸ巻とⅩ巻は余裕、マージンとして用意していました。
塩澤:Ⅸ巻以降でもう一回ひっくり返して、というリクエストはしましたね。
小川:ノルルスカインとミスチフ、人類を絡めないでと言われていましたが……。
塩澤:展開を考えるための打ち合わせでは要素カードを並べていったんですが、100枚にもなってどうにもならなかったです(笑)。

 

【最後に】

塩澤:『三体』がすごく売れてます。9万部! まだ読んでないですが、多分『天冥の標』の方が面白いです。どうにかしたい!
小川:これより上のものを書けるか今はまだわからないですが、今後もよろしくお願いします。 

最後に百合SFアンソロ『アステリズムに花束を』収録の中編が独立して刊行(長編化?短編集?)されることが発表され、閉会となった。

 

記事をここまで読んでまだ『天冥の標』を読んでない、という人はいないとは思うが、『三体』よりも面白い、と言わせしめる最新国産大長編SF小説を読まずにおくのは人生の損失であることは間違いない。17冊もあるとはいえ、900年を跨ぐ未来群像絵巻は読み始めたらあっという間に感じる面白さだ。完結した今こそ、読んでみては。

 

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【ゴジラ/エヴァファンは必修レベル】エヴァに振り回され日記③ 大阪・「ゴジラ対エヴァンゲリオン」編

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随分時間が空いてしまったけれどいい加減に復帰したいと思う。というわけでエヴァ日記完結編としてユニバーサルスタジオジャパンで公開中の『ゴジラエヴァンゲリオン・ザ・リアル 4-D』について紹介する。

エヴァに振り回され日記① 東京・『シン・エヴァンゲリオン劇場版』0706作戦編 - ゲーマーズライフ

エヴァに振り回され日記② 福岡・「エヴァンゲリオン 使徒、博多襲来」編 - ゲーマーズライフ

 

USJといえば2017年に公開されたゴジラの4D映画とエヴァンゲリオンVRライドアトラクションにいたく感動したのが思い出深かったので、今回新しく『ゴジラエヴァンゲリオン』が公開されたと聞き居ても立っても居られなくなり6月末に体験した次第。……そこには2017年を超えるさらなる感動が待ち受けていた。

www.usj.co.jp

 

本作は、これまでグッズやコンサートなどで展開してきた謎のコラボコンテンツゴジラエヴァンゲリオン」の初映像化作品。第三新大阪市に配備されたエヴァンゲリオンが襲い来るゴジラと対峙するというストーリーだが、組み合わせの奇抜さのみならずなんといっても4Dの臨場感が抜群だ。いまでこそ4DXやMX4Dといった映像に合わせて席が動く映画はありふれたものになったが、所詮は4D効果を後付けしたもの。4D専用に作られた本作では劇場が輸送機に、スクリーンが輸送機のメインカメラに見立てられ全てが主観視点で展開されるので一般的な4D映画の迫力とは雲泥の差だ。

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輸送機はゴジラの攻撃を受けて落下しあわや、となるがエヴァが救助。しかしエヴァに抱えられ、大阪の街を跳ねまわりながら戦闘に巻き込まれていく。崩壊していく街の様子は精密に描かれ、同行した地元友人は鑑賞後に「輸送機が落下して天井ぶち抜いたところは阪急のホームで~」などと地図に照らし合わせながら戦闘経過を教えてくれた。大阪中をぶっこわすためのロケハンはさぞ楽しかったろうと想像してしまう。

そして更に襲い掛かるのがこの映像のためだけに新規造形されたキングギドラだ。輸送機に乗りながらギドラの頭から首、背、尾までを主観視点でなめるカットがあり、これがもう、本当に堪らない。あれは今までの人生で、怪獣を最も肌で感じた一瞬だった。

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足が特徴的な独特のデザイン

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背中が美しい

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左からKOMギドラ、USJギドラ、アニゴジギドラ

度肝を抜かれる最終決戦はぜひその目で確かめてほしい。あれはもしかしたら『シン・エヴァンゲリオン劇場版』への伏線、だったのかもしれない。

 

ゴジラにしろエヴァンゲリオンにしろ、本編以外の映像作品はこれまで山のように作られてきたが、ここまで面白く大胆で、完成度の高いものはないに違いない。ゴジラファンもエヴァファンも、本作のためだけにUSJへ行っても絶対に満足するはずだ。会期は8/25まで。お近くの方も、そうでない方もぜひ。

 

前に進む力をくれる物語を-映画『天気の子』

昨日の大変痛ましい事件に気が滅入っていたのだが、何もできないので予定通り映画『天気の子』を見た。

 

映画を見ている間は事件のことを忘れることができたし、とても前向きな物語に背中を押されるようだった。

幾分やり過ぎな終盤の展開は昔からのファンとしてはニヤリとするものだったが『言の葉の庭』、『君の名は。』あたりからついたファンは椅子から転げ落ちるかもしれない。新海誠監督は、いもしない「一般客」の影を追わず若い客層の方を向いているようだ。

劇中のキャラクターに現代社会を指して「狂った世界」とまで言わせしめるシーンがあり、昨日の事件を思い起こさずにいられなかったが、それでも、でも、とその先に進もうとする強い物語には心撃たれ、涙が止まらなかった。

 

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映画館に入る前まではシトシトと小雨模様だったが、映画が終わるとカンカン照り。さすが新海監督、天気も味方にする勢いだ。

 

今日はこれぐらいで。

エヴァに振り回され日記② 福岡・「エヴァンゲリオン 使徒、博多襲来」編

前回0706作戦に参加した顛末をレポートしたが、実は遡ること6月からエヴァンゲリオン(とゴジラ)に振り回されて西へ東へと行ったり来たりだった。覚えているうちに福岡、そして大阪のこともレポートしておく。

 

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6月に「富野由悠季の世界」展のため福岡に飛んだのは以前書いたとおりだが、実はもうひとつの目的が「エヴァンゲリオン 使徒、博多襲来」を見ることだった。

キャナルアクアパノラマ第10作「エヴァンゲリオン 使徒、博多襲来」6月1日(土)公開 | CANAL CITY HAKATA

これは博多駅からほど近い総合ショッピングエリア キャナルシティ博多の、噴水とプロジェクションマッピングを駆使した上映イベントの最新コンテンツで1日に2~3度、無料で公開されているもの(スケジュールは時期により異なる模様)。

制作をメインで手がけるのは新劇場版のスタジオカラー、ではなくスタジオQ。カラーが九州に設立したCGスタジオ初の作品ということで、どういった映像になるのか非常に気になり生で見たかったのだ。

肝心の内容はというと…シン福岡市に襲来した第4の使徒サキエルエヴァンゲリオンが戦うというなんちゃってIFストーリー。なんといっても劇場版クオリティで描かれる全編CGの新作エヴァストーリー、そしてエヴァ初号機、弐号機、零号機のみならず8号機が共闘するのが最大の魅力。これまでの新劇場版では見ることができず、おそらく『シン・エヴァンゲリオン』でも見ることができないゴールデンメンバーだろう。彼ら彼女らが異常に強いサキエルを迎え撃つ!負けるなエヴァ!頑張れエヴァ!博多の未来は君たちにかかっている!

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10分に満たない全容はぶっちゃけYoutubeなどでも確認することはできるが(現地では「長時間の撮影は禁止」という言い回しだったのが規制する気もないのだろう)、向かいのホテル壁面を利用した大パノラマと噴水の見事な演出と迫力はPC・スマホじゃ全く伝えられないので、これから福岡に行く機会があるという人はぜひ現地で確認してみてほしい。

 

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なおエヴァンゲリオンの上映前後にはインベーダーとゴジラの上映があり、特にゴジラは楽しみにしていたのだが……不運にもどちらも機材トラブルが発生。観客のスマホと連動してインベーダー/ゴジラと戦う演出がまるまるオミット(画面中央が映らない!)でなんとも寂しい形に。

幸いエヴァンゲリオンには連動演出がないので行けば必ず見ることができるはず。とはいえいつかは上映期限が来るだろうからスケジュール確認は忘れずに。

 

次回はラスト、大阪USJ編。

 

エヴァに振り回され日記① 東京・『シン・エヴァンゲリオン劇場版』0706作戦編

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この数日間フランスはパリで開催されたJAPAN EXPOに、というか概ねエヴァガンダムの新情報に遠く離れた日本から気持ちを割いていたのだが、特にエヴァについては同時開催された日本国内でのイベントに参加できたのでその内容を書いておく。

 

ちなみにガンダムについては、劇場版『ガンダム GのレコンギスタⅠ 行け!コア・ファイター』が超先行公開された。日本国内では今冬公開なのに。ずるい。見たい。福岡市美術館でもこの夏先行公開予定であることは先日のイベントレポートにも記載した通りだが未だ詳細不明である。Gレコの国内プロモーションの遅さには参ってしまうがこれから何とかしてほしい。

Gレコの新規映像は7/5に公開されたこのPVでわずかに見られる(36秒~)。ガンダムの瞳(?)の表現にこだわりを感じる。

youtu.be

劇場版Gレコの内容についてはこちらの現地レポートがくわしい。英語だが、Google翻訳に突っ込めばだいたい読める。TV版1~5話の内容に沿いつつ、分かりやすくなるよう、テーマが明確になるようかなりいじっているようだ。期待通り。早く見たい。

nekketsunikki.com

Q&Aセッションの内容もまとめてくれている。神か。

nekketsunikki.com

公式レポートはこちら。

www.gundam.info

 

ガンダムの話おしまい。エヴァの話に戻る。

"『シン・エヴァンゲリオン劇場版』0706作戦"と銘打たれ発動した今回のイベントは、JAPAN EXPOでシン・エヴァの冒頭10分がお披露目されるにあたって、日本各地および上海でも開催時間の20時15分から同時に見ようという前代未聞のイベント。LINE LIVEでの配信も行われたのでイベント開催場所にわざわざ行く必要は実のところなかったのだが、お祭りごとは最前線で楽しみたいので現地参加してみた次第。

しかしこのイベント、現場での混乱を減らすために日本国内の開催場所は当日昼12時までシークレット。しかも開催場所によってレギュレーションが異なり、都内の開催地2か所(新宿シネシティ広場・ミッドタウン日比谷前)では14時から整理券を配布することが告知されたので着の身着のままで飛び出して日比谷に向かった。

https://twitter.com/operation0706/status/1147356359488184321

現地に着いた13時ごろの時点で既に100~200人ほどの列。エヴァ公式アプリの画面を見せるのが配布条件だったためスマホの電池残量にヒヤヒヤしたが、なんとか持ちこたえてくれて無事整理券ゲット。最終的には日比谷だけで1300枚の整理券を配り切ったようだ(新宿は850枚)。傘の使用禁止というアナウンスに不安を覚えつつ一時帰宅。

 

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そして集合時間の18時30分に合羽持参で再びミッドタウン日比谷。待機列から19時ごろにはモニタ前に移動となったが、このモニタが小さく、設置位置も低いことが発覚。1300人をカバーできるように最前と中間地点とに2枚設置されていたが、前に立つ人の頭がどうしてもかぶってしまう。座れればまた違ったであろうが、開催側の雨の心配をしてか最後まで立たせっぱなし。昼の整理券配布待ち時間も長かったので足にくる…。新宿はデカいモニタを高い位置(しかもミラノ座跡地!)に設置していたようなので判断ミスをちょっと後悔。まあかなり前方で見れたので良しとする。後方の人は大変だったと思う。暑さを心配してか水の配布もあったが、幸い涼しい中で見る事ができた。

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エヴァ

 

19時20分ごろからは告知映像集をリピート。にゃんこ大戦争エヴァコラボには笑いが起こったりもしたが何周もリピートされると流石に飽きてくる…がようやく20時ごろからは先日エヴァアプリ内で公開された過去作のダイジェスト映像集が流れる。これがまたよくできてるので信仰心が回復。

そしてついに20時15分。イベントスタート!高橋洋子さんのライブからゲスト緒方恵美さんのトーク庵野秀明監督のビデオレターと徐々に盛り上がりつつ、21時になり待ちに待った冒頭映像公開へ。

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この辺りは実際の映像を見てもらうのが良いだろう。LINE LIVEでは現地中継映像が全編公開されている(7月8日現在)。

live.line.me

当日は三脚の使用こそ禁止されていたが録画は禁止されていなかった。どんどん拡散してくれという方針なのだろう。YouTubeに上がってる中だとこれがなかなか見やすい。LINE LIVE版よりも色味が実際に近い。

youtu.be

 

今回公開された映像は、マリの搭乗するエヴァンゲリオン8号機β臨時戦闘形態と、冬月が差し向けたとされる新型エヴァとの市街戦が描かれるというもの。迫力ある"操演風"戦闘シーンに「庵野さんの撮るアクションシーンはやっぱすごいわ~」と見惚れていると、終盤になり赤い地上が本来の色を取り戻す衝撃的シーンが展開され会場全体からはどよめきが起こる事態に。これはやはり破~Q間のサードインパクトで2つの世界が重なってしまったことを示唆しており、シンは破の世界を取り戻す話になるのだろうか。

2世界説についてはこちらの解説が詳しい。

moon.ap.teacup.com

 

なんとか天気も持ちこたえ、冒頭映像も前向きな物語を予見しているようで非常に満足いくものだった。前代未聞の全世界同時/冒頭10分公開イベントは大成功、というところだろう。グルグル8号機を買って来年の本編公開を待ちたい。

 

今回のイベントレポートはこれにて終了だが、先日福岡、大阪のエヴァイベントにも参加したのでこちらも引き続きレポしたいと思う。

富野由悠季とは何者なのか?ー劇場版『Gレコ』や新企画の情報も飛び出した『富野由悠季の世界』オープニング記念トーク&展示会レポート

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祇園山笠の準備でにわかに活気付く博多駅前ーそこから電車で15分とほど近い福岡市美術館にて、巡回展『富野由悠季の世界』が6月22日より始まった。幸運にも応募倍率6倍にもなったというオープニング記念トーク富野由悠季とは何者なのか」に参加することもできたので、展示内容と併せてこちらの内容も紹介する。

 
富野由悠季の世界』について

まず『富野由悠季の世界』について紹介する。これは『機動戦士ガンダム』をはじめ、多くの作品を手掛けてきた日本を代表するアニメ監督・富野由悠季の担当作品を網羅した初の展示会である。福岡を皮切りに兵庫、島根、青森、富山、静岡と今年から来年秋にかけて日本各地での開催が予定されている(今のところ東京での開催予定はないので注意)。

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ダイターン3がお出迎え(展示場内は撮影禁止)

代表作『機動戦士ガンダム』こそ『機動戦士ガンダム展』(2014~2015年に開催)にて現存する多くの資料が公開されたが、今回は監督の真骨頂である"ガンダム以降"のあまり陽の目を見ない作品や、初公開資料の展示が多くを占めている。膨大な展示数はその数なんと3000点。もともと2時間ほどの観覧を予定していたのだが全く時間が足りず、翌日さらに5時間滞在したほどだ。これから観覧を予定している方は朝から夕方まで丸一日使うつもりで行くことをお勧めする。

展示内容は作品紹介に留まらない。こうしたアニメ関係の展示会でありがちな作中で使用した原画展示はむしろほとんどなく、大半を占めるのが富野直筆の企画資料やラフデザイン、デザイナーとのやりとりを記したメモ、そして膨大な絵コンテだ。特に絵コンテはモニターに映される当時の映像と比較しながら見る事により、大胆で的確な富野の演出意図に気づかされる。時に"絵が描けない"などと言われる富野だが、実はその非凡な発想力に筆が追いつかないだけで、脚本、キャラクター、メカ、美術―作品を構成するあらゆるものに目を走らせ、各部門と密接に連携しながら意図した画面を作り上げきた映像作家としての自負が、その膨大な資料からうかがい知れる構成になっている。

 

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逆シャアの絵コンテは必読(図録より)

また作品を彩ってきたポスターやジャケット原画の展示もあり、特に安彦良和安田朗の油絵は見所。できれば図録でも読むことができる濃密な作品解説は後にまわして、図録ではどうしても小さくなってしまう安彦らの原画鑑賞やコンテ&映像展示(逆シャア』に限りなんと絵コンテ全編展示!)、図録未収録が多い企画書の読み込み(『Gレコ』企画書には脚本:岡田麿里の記載アリ)、見る機会の少ない貴重なアニメの観賞(『しあわせの王子』『闇夜の時代劇』が全編公開!)に時間を割くべきだろう。

音声ガイドはベルリとアイーダによる富野台詞盛りだくさんの内容なので『Gレコ』ファンは必聴、ファンでなくとも作品解説の補足にぜひ。ベルリの「展示会開催期間中に、僕たちとスクリーンで会えることを期待して待っていてくださいね!」は涙なしでは聴けない。

 

 

オープニング記念トーク富野由悠季とは何者なのか?」

ここからは書き留めたメモを元に講演会の様子を紹介する。なお富野語を再現できずに要約していたり不足している箇所も多々あると思うが、ご容赦願いたい。

・開会のことば

(幕が左右に開くと2枚重ねの座布団に正座する富野)

富野由悠季(以下 富野):富野が主役なのにゲストとして呼ばれるのはおかしかろう、ということでこういう形で始めさせていただいきました。これからゲストとして展示会の企画チームをお呼びします。彼らがいたおかげで今回の展示会が開かれたましたが、私は一切感知しておりません!

(ここで各美術館の学芸員の方々が入場し自己紹介&展示担当作品を紹介)

山口洋三(以下 山口)…福岡市立美術館/担当:学生時代、『ガンダム』、全体の調整

村上敬(以下 村上)…静岡県立美術館/担当:『キングゲイナー』、『ガンダムF91』、『Vガンダム

工藤健志(以下 工藤)…青森県立美術館/担当:『イデオン』、『ザブングル』、『ダンバイン』、『Gのレコンギスタ

岡本弘毅(以下 岡本)…兵庫県立美術館/担当:『ライディーン』、『ラ・セーヌの星

小林公(以下 小林)...兵庫県立美術館/担当:『ガーゼィの翼』、『リーンの翼』、『∀ガンダム』、『リング・オブ・ガンダム

川西由里(以下 川西)…島根県立石見美術館担当『Zガンダム』、『ガンダムZZ』、『劇場版Zガンダム

 (富山県立水墨美術館の若松基は欠席。担当は『逆襲のシャア』、『ブレンパワード』)

 

・各々の感想

(以降は山口が司会を担当)

――監督の感想は。

富野:やってもらって良かったです。スタジオにしかないものが美術館に並べられることで今まで気づかなかった発見があったから。奴(富野)は今こうなんだと、劣化の歴史がわかる。ここに来るまではこいつら(企画チーム)を罵ってたんだけどね(笑)。

――展示内容をお任せすると監督に言われたことの重さを強く感じました。各担当者からもお願いします。

小林:大きな仕事をされた方なので、とにかく資料が膨大でした。また今回は担当者ごとに作品を振り分けたので、他の6人との勝負。私が担当した『∀ガンダム』は展示後半になるためセオリー通りだと不利と感じて、油絵を頭に持ってくるという構成にして変化球を狙ってみました。

富野:そんな理由を並べるんじゃなくて、『∀ガンダム』だから当然油絵からはじめましたって言ってればいいのよ!

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安田朗の油絵(図録より)

 

川西:概念の展示は可能かという宿題に悩みましたが、いつも通りの展示をこころがけることにしました。メカは苦手なのでどう解釈をすればいいかと悩みましたが…監督のメモが残ってるものを中心に展示をまとめてみました。特に印象的なのがガンダムMk2のメモガンダムは好男子!」で、これを見たことでキャラクターが好きな私もガンダムとの距離が縮まった気がしました。

富野:『Zガンダム』はいろんなデザイナーが入った結果、悪相があがってきました。ガンダムはキャラクタライズされてるものだから、本物のメカを作るつもりではいけないよ、という意図で書いたものです。

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ガンダムは好男子!(図録より)


岡本:私は『ライディーン』、『ラ・セーヌの星』を担当しましたが、資料があまり残ってなくて困りました(苦笑)。テレビまんがからアニメへと移り変わる過渡期に富野監督が撒いた種を展示し切れなかったのが、反省点です。

富野:『ライディーン』ではね、ガンテとドローメを出したらテレビ局からクレームが来たんです。メカニカルなものに作り直せと。もう2話まで作ってたから制作費を出せるのか!と喧嘩しました。予定通り活躍していたらマジンガーZくらい有名になっていたはずです。……そういう経緯があるからこれらは未だにデザイナーが不明だったりします。

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ガンテとドローメ(図録より)

 

工藤:私はイデオン直撃世代で、当時高校生でした。月刊OUTで動画マン募集で落ちたりもして……それが今や監督の展示会に関われたのでアガリかなと思っています(笑)。今回は解釈論にはならないように、なるべく見られてこなかった資料を展示するようこころがけました。

ところで監督にお聞きしたいのですが、『Gのレコンギスタ』のイメージボードでは監督ご自身がデジタル彩色に挑戦されていました。なぜPhotoshopを使用されたのでしょうか?

富野:そのほうが早いだろうと思ってやっただけです。少しやってみて、あんまり手間がかかるんでやめました(笑)

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富野とフォトショの邂逅(図録より)

 

村上:私は担当することになった『Vガンダム』のDVDボックス買ったんですが、帯に監督のコメントが書いてあって。「このDVDは見られたものではないので買ってはいけません!」と(笑)。でも決してそんなことはなく、19世紀風の重厚さがある作品と感じました。今回の展示では、カテジナを主人公として見てもらい、復権させたい、そして成仏させたいという気持ちで構成しました。

ところで監督にお聞きしたいのですが、今回図録に「富野自身も毒気に当てられたように消耗し」と書いたところアンダーラインが引かれて監督から戻されました。これはどういう意図だったのでしょうか。

富野:アンダーラインを引いたのはもちろん意味があるからです。カテジナのようなキャラを作るとキャラクターの身体性、霊がよりかかってきます。目が見えなくなる運命を描くというのは、戦死させるよりも消耗するんです。でもそれぐらいしないとお客さんには読み取ってもらえないんですよ。だから誰でも簡単にキャラクターが作れるとは思わないでもらいたいんです。 

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毒気に当てられた富野(図録より)

 

――キャラクターについてもう少し教えてください。『ガンダム』ではブライトとミライが素晴らしいと思いました。監督のキャラクターがバラエティーとリアリティを持ち得た理由を教えてください。

富野:そんなのまぐれ当たりです。わかってたら大成しています(笑)。『ガンダム』がうまくいったのは、アムロの父をああいう風に設定したからです。ブライトとミライの関係が良いというが、あれはステレオタイプで、むしろうまく書けたと思ってるのはカムランとミライですね。

――そういったキャラクター造形は、高校時代に書かれた散文などからはとても飛距離を感じますが。

富野:それは絵空事、メディア媒体に見合うものを作ってきただけのことです。メカやギミック、巨大ロボを黙らせるためには人間ドラマを構成して足場を組まないといけません。必要なのは18メートルのロボを立たせるだけの、絶対的で過酷なドラマ。そこに見合うようなキャラクターをつくればいいだけのことです。バイプレイヤーにならないように"ダーッ!"と属性を重ねれば良いんですよ。

――その"ダーッ!"がわかりません(笑)

富野:例えば『ガンダム』のハヤトみたいなつまらない名前のキャラが操縦者になるというだけでキャラクターになります。設定を全部作りこんでから書くなんてことはしていません。これはどういうキャラクターで……なんて解説は後付けでされてるだけです。

けれど『Vガンダム』のカテジナは最初から設定を決めて、エンディングにもあのように据えました。『Vガンダム』は「俺がやれと言ったことはやれ」という偉いやつがいて…まだ生きているので誰とは言いませんが……それに反発してああいったキャラクターを設定したところもあります。

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学生時代の貴重な作品も多数展示されている(図録より)

 

・コンテについて

――ここからは監督のコンテについて伺いたいと思います。

工藤:監督はよく「顔はマルチョンでいい」とおっしゃっておりますが、『逆襲のシャア』のコンテでは顔を修正までされていましたが?

富野:覚えてるわけないじゃないの。僕の書いた『赤毛のアン』のコンテを高畑勲さんが直されたのだって昨日まで見たことなかったぐらいなんだから。

(この貴重な修正コンテも会場で見ることができる)

 

岡本:ライディーンのOPでは歌詞とコンテのシンクロ具合に工夫を感じました。

富野:OP、EDのコンテはいつも秒数への恐怖観念があります。そのせいで作品理念と合わないことも往々にしてあります。

 

小林:今回の展示では『∀ガンダム』のラスト6分のエピローグを展示しましたが、コンテは映画版、モニター映像はTV版としました。それぞれセリフのタイミングが違う部分があるからなのですが……監督の意図と、この展示構成が正解かどうかを教えていただきたいです。

富野:映画では直後にクレジットを入れるしかないから変えるしかなかったんですよ。……でもクレジットなんて、「次もよろしくね」っていうただの身内への営業論なんです。1分30秒までなら我慢しますが、本当なら3分も5分も入れたくありません。

 

川西:『劇場版Zガンダム』のクライマックスの戦闘シーンに注目しました。当初はTV版の切り貼りを予定されているようでしたが、後になって新たに描かれたコンテは、迫力あるものに変わっていました。そこが比較できるように今回は両方を並べて展示しています。

コンテには「バッと」や「グンと」などの擬音が多く使われていますが、そこはノッて描かれていたのでしょうか。

富野:TV版の映像をまとめるときは、1シーンだけ直すとそこだけ膨らむので、前後との流れを考えて変えるようにしています。ローラーを流してフラットにするという作り方です。このように編集版を作れる性能の良さは、撮り直しができない実写と違うのだから意識しないといけません。

――擬音は言いながら書いているんですか?

富野:僕はそんなに素頓狂ではありません(笑)。口に出すのは素人です。金田(伊功)くんみたいなアニメーターでもスタジオを飛び回ってませんでしたよ。

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迫力が伝わる劇場版Zコンテ(図録より)

 

村上:コンテには監督の書き文字が多く見られます。印象的だったのは「ヒーター座布団」、「お膝」、「シンシアうれしい」、「美しいサンドイッチ」。これは監督なりの演技指導でしょうか。

富野:作家になれなかった怨念です……というよりも形容詞を正しく使いたいからです。アニメーターはどうもアニメと漫画だけで覚えた言葉を書きがちですが、自分の言葉を持たない人にはアニメの世界には来て欲しくないんです。だから彼らが気付かない言葉遣いというのを、面倒でも使っています。

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美しいサンドイッチ(図録より)


・フリートーク

――ここからは自由に質問していただければと思いますが。

小林:『∀ガンダム』のリリについて監督にお聞きしたいです。初期のシナリオ案では番組後半でモビルスーツに乗る予定のようでした。ガンダムの作中でモビルスーツに乗るということは特権的なものと感じていますが、ではなぜリリが乗らなくなったのでしょうか。

富野:スケジュール上とりこぼしてしまったんだろうと……いや思い出してきました。彼女は動かしているうちに強い女になっていると感じて、放任してしまったんだろうと思います。

 

川西:監督の作品では女性が大きなテーマになることが多いと感じています。特に妊娠した女性は特別な力、聖性を持つもののように描かれ、『Vガンダム』では妊娠したマーベットしかシュラク隊で生き残ることができませんでした。一方で近作の『Gのレコンギスタ』では、主人公ベルリのウィルミットが実の母ではなかったことが劇中で判明し、独身の母親というものが描かれました。同じ独身女性としては救われた気持ちですが……監督の女性観に変化が生じたのでしょうか。

富野:母になれない女性を敵視してきたつもりもありませんでしたが……言われてみれば確かに『Gのレコンギスタ』まで描いてこなかったですね。今年公開予定の劇場版『Gのレコンギスタ』でもウィルミットには良いセリフを書いてるなと思っております(自画自賛)。

川西:他にも監督の作品ではバリエーションのある女性が描かれていますよね。個人的にはレコアさんとお友達になりたいと思っています。一緒に呑みたいです(笑)。

富野:レコアさんは、僕も"さん"付けしてしまいます。そういう印象のキャラクターです。

 

岡本:『ライディーン』の企画書にキャラの関係性を重視したと書いてありましたが、どういう意図で書かれたのでしょうか。

富野:そこには作為があったわけではございません。ただ、美形キャラは『ライディーン』で初めて描きました。美形キャラ―プリンス・シャキーンは、市川治さんがハイトーンの声がついたことで肉付けされたキャラクターです。『ライディーン』を通じて、声によって関係性が構築されるということを気付かされたんです。……誰とは言いませんが、「可愛い可愛い」と言い続けたって可愛くなるものではない、ということを知っておいてほしいと思います。

 

工藤:造形のラフスケッチを多く手がけられているのが今回の展示品からわかりますが、立体を把握してないと書けないものばかりです。こういった監督の発想の源はなんでしょうか。

富野宇宙のことを学んだ上で、アニメに落とすということをやっています。例えば『ガンダム』のルナ2やア・バオア・クーは、元々はただの石ころでしたが、それを敢えてわけのわからない形にしました。これは巨大ロボに並べるためにやってること。リアルではないとも言われますが、アニメだから勝手にやってるんです。

Gのレコンギスタ』でも、宇宙エレベーターは定時運行でなければ交通機関に成りえないと思ってそういう設定にしましたし、ワイヤー1本で支えきれるわけないので複線にしました。これは科学者に対する嫌みなんですが……どうやらJAXAから嫌われているみたいです(笑)。でもこういった視点があるから、『Gのレコンギスタ』は10~20年後には顧みられて、人気を得られるはずですよ。

ところで今朝決まったばかりですが……これは言っていいのかな? 8月にここ福岡市美術館で、『劇場版Gのレコンギスタ』を上映することが決まりました。

(突然の発表に驚き沸き起こる拍手喝采

TV版ではSF的な欠落があったことを反省しています。話が、移動場所がわからなくなるということです。これはたまたまTVで007最新作(『007 スペクター』か?)を見て気づいたんですが、街の景色をロングで映すから場所がわかりやすいんですよね。TV版ではエレベーターのどの位置にいるのか、ナット(エレベーターの中継基地)の色が同じだから分かりづらかったと気づきました。劇場版ではそこを大改訂しています。2、3カットの違いでも大きく印象が変わるはずです。

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大きく変わるというナット(図録より)

 

村上:美術館では市場原理に依らず、まだ芸術家として生まれてい人や、とっくに死んだ人を扱っています。そこに通じる『キングゲイナー』、『∀ガンダム』のような芸能、歴史に関わる作品がもっと見たいのですが……今後そういった作品は予定されていますか。

富野"認識力の問題が社会を作っているのか"ということを新企画のために調べ始めました。そこで鎌倉時代の北条政子の資料にあたったところ、どうやら昔の人は血縁関係で周りを認識していたようで、元々が蛮族の関東もそのころから家系図を意識するようになったらしい、ということがわかってきました。爺さん婆さんとひ孫、その間にいる自分、そういう認識です。

ところが近代の私たちは前後三代をも意識しなくなっています。そういった肉親のことを考える想像力がないから、北方四島で戦争をしかけようと言い出す政治家も出てくる。

未来を考える、孫のことを考える。それこそがニュータイプ論でないでしょうか。

これを本日最後の言葉として締めくくらせていただきたいと思います。

  

最後に

今回、飛行機に乗ってまでして福岡まで観覧に行ったわけだが、充実の展示内容は帰りの時間さえ忘れて見入ってしまうほどで、行った甲斐を十二分に感じるものだった。ちょうど今月23日まで開催されていた『河森正治EXPO』のように立体物やメカイラスト展示に特化したものではないので、富野作品をいくつか見ていないことには魅力が伝わりづらいものであろうと思われるが、ガンダムが作られる過程や、監督が具体的に何をしてきたのかが垣間見える展示は、きっと多くの人の胸に刺さることだろう。

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天候にも恵まれた福岡市立美術館。館外には大濠公園が広がっておりロケーション抜群。

地方巡回のみということで特に都内在住者にとっては困難を伴うものではあるが、会期は非常に長いので、観光ついでと思って足を運んでみてはどうだろうか。

なお会場には限定グッズも多く用意されているが、図録のみネット通販受付中だ。会期中に行ける見込みがない人、予習しておきたい人、重すぎて持ち帰れなかった人などはこちらからぜひ購入を。

【予約商品】富野由悠季の世界 | KINEJUN ONLINE

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いつでもどこでも富野とツーショットが撮れるアクリルスタンドは会場限定販売。発想が天才のそれ。

 

原作超えの奇跡体験―映画『海獣の子供』感想

6月7日より公開された映画『海獣の子供』を観賞したらあまりの感動に居ても立ってもいられず気づいたら水族館に来てしまった。

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今回はここ、神奈川県江ノ島新江ノ島水族館からお届けする。

 

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月刊IKKIで連載されていた五十嵐大介による漫画『海獣の子供』を、『アリーテ姫』、『鉄コン筋クリート』のSTUDIO4℃がアニメーション映画化したのが今回の作品。人間関係が思い通りにいかない中学生の少女・琉花(るか)が、ジュゴンに育てられたという2人の不思議な少年・海(うみ)、空(そら)と出会ったことで、謎の隕石、奇妙な魚たちの行動を追ううちに、やがて海で起こる奇跡"祭り"に迫っていく、というのがあらすじだ。

 

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原作は海にまつわる世界中の逸話を挟み、中盤からは事件に関わるキャラクターたちのバックボーンも描くことで群集劇の様相を呈し、それゆえにいつもの五十嵐大介風味というか散文的で壮大に過ぎるところがあったのだが、映画では特に1、2巻のジュブナイルの匂いを大事にし、あくまで琉花の主観を追うことで"ひと夏の経験"としてうまく2時間弱の映像に落とし込んでいる。原作にはなかった琉花の気持ちに寄り添う描写やカメラワークも多く見られ、さすが傑作『ドラえもん のび太の恐竜2006』の渡辺歩監督の手腕を感じるところだ。

とはいえ五十嵐大介の荒々しいタッチをアニメ風にマイルドに、などということにもなっておらず、『東京ゴッドファーザーズ』、『かぐや姫の物語』を手がけたスーパーアニメーター小西賢一総作画監督と、『鉄コン筋クリート』『血界戦線』の木村真二美術監督によりビジュアル面はとんでもないことになっている。 

特徴的な手足の大きい特徴的なスタイルや、まつ毛の一本一本まで描写する精緻な書き込み、荒々しい描線はまさに原作そのまま。美術に目を向けると、ここ新江ノ島水族館をモデルにした劇中の水族館こそ写真と見紛うほどだが、町並みや自然描写は原作よりも南国風味が強調され、非現実感を漂わせている。

 

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そんな渡辺監督と卓越した絵描きたちの力により中盤までは夏の匂いが鼻の奥にツンとくる、どこか懐かしいジュブナイルが展開されるが、終盤の"祭り"描写に至ると一転。宇宙と海の神秘がとてつもないアニメーションの力によりスクリーンを猛り踊り狂う様を固唾を呑んで見守るうちに、頭から足の先まで海の底に引き釣りこまれるかのような異様な体験にただただ唖然とするばかり。例えるなら『ファンタジア』で描く『2001年宇宙の旅だろうか。この点は間違いなく原作5巻で描かれる神秘的描写を大きくアップデートさせたものになっている。

 

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友達との不和から始まる物語の始点と終点こそ原恵一監督『バースデーワンダーランド』にあまりに近い印象があるが、絵の力、そして"祭り"によって連れて行かれる先は『バースデー~』のそれよりもはるか彼方。劇場を出たあともフワフワした気持ちは治まらず、なんだか自分の可能性の蓋を押し広げられたような、世界との距離感が変わったような、そんな気持ちまで抱かせてもらえるものだった。 

"祭り"描写が言葉足らずなためか映画全体を指して理解できないとの感想も多く見られるようだが、物語を注意深く追っていさえすれば"祭り"の意味はわかるもの。そしてそれよりも全神経を傾けて音と映像の洪水に身を任せることこそ、この映画の本質であろう。 

 

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東宝・夏の"かいじゅう"映画第2弾としても、そして東宝・夏のアニメ映画先鋒としても(このあとは湯浅政明監督の『きみと、波に乗れたら』、新海誠監督の『天気の子』が続く)、他作に勝るとも劣らない大傑作(になることだろう)。この類まれない”映画のためのアニメーション”はTVサイズでは印象が減ずることは間違いないので、絶対に映画館で体験すべきものだ。

 

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ちなみに新江ノ島水族館では現在、聖地巡礼フォトスポットキャンペーンや絵コンテ展示が実施中なので映画を見たあとに来るとより楽しめるはず。自然の見え方が変わってくるに違いないので、例えここでなくとも構わないので観賞後には身近な水族館や海に行くのがおすすめだ。

 


【6.7公開】 『海獣の子供』 予告2(『Children of the Sea』 Official trailer 2 )